786台のみが特装されたコンバーチブル
本来「ホモロゲーションモデル」というのは硬派なクルマながら、ごく少数の好事家は、そこにゴージャスな装備やテイストを追加した特別なモデルをリクエストすることもあり、それらのクルマたちは後世のクラシックカー市場で珍重されることも多いようです。今回AMWでは、RMサザビーズ北米本社が2024年3月1~2日、フロリダ州マイアミ近郊の町、コーラルゲーブルズにある歴史的なビルトモア・ホテルを会場として開催した「MIAMI 2024」オークションに出品された、BMW初代「M3」に注目。じつはそのE30系M3は、786台のみが特装されたコンバーチブルでした。
最初期のBMW初代「M3」が2400万円オーバー!「スポエボ」でなくとも高額だった理由はオリジナル度の高さにありました
オープンボディの特別なM3
BMWの初代「M3」が、1985年のフランクフルト・モーターショーにてお披露目されたとき、大方の観衆の眼にはE30型「3シリーズ」と似ているかに映ったかもしれない。でも、グループAツーリングカーレース用のホモロゲーションモデルとして導入されたことから、その箱型ボディの下では大規模なメカニズムの変更が施されていた。
ガス封入式ダンパーつきの前後独立サスペンション、強固なアンチロールバー、サーボアシストつきベンチレーテッドディスクブレーキなど、当時としては先進的な装備はもちろんのこと、トレッド幅も拡大され、ホイールとタイヤも強化されていた。
いっぽう「BMW M」の最高責任者パウル・ロシェが設計した「S14」エンジンは、レーシング由来の「M88」直6 DOHC・24バルブエンジンから2気筒を切り落としたともいわれる2.3Lの直列4気筒DOHC・16バルブで、スタンダードでも200psを発生。M3に伝説的なパフォーマンスをもたらすに至った。
かくしてデビューした初代M3。その生来の目的であるモータースポーツでは、レースデビュー初年度からFIA世界耐久選手権やイタリア・スーパーツーリズモ、ドイツ・ツーリングカー選手権に全日本ツーリングカー選手権などで、ワークスチームおよびプライベートエントリーのM3たちが圧倒的な強さを見せつけることになる。
M3のサーキットにおける目覚ましい活躍は、5000台のホモロゲーション生産による熱狂的なセールスにつながっていく。そこでBMWはこのモデルに対する熱心な愛好家の需要に応えるため、傘下の「M」の主導により「M3エボリューション」、「M3チェコット」、「M3ロベルト・ラヴァーリア」、「M3スポーツ・エボリューション」、そして「M3コンバーチブル」といった希少な特別仕様のM3派生モデルを用意することになった。
なかでも、仕向け地によっては「カブリオレ」とも呼ばれたコンバーチブルは、当時コンバーチブル版が設定された唯一のツーリングカー・ホモロゲーションスペシャルであるとともに、わずか786台しか生産されなかった希少車でもあった。
実際、E30系M3世代のコンバーチブルは2ドアセダン型の兄弟たちと変わらず、モータースポーツをダイレクトに感じさせるモデル。スリリングなパフォーマンスとオープントップの爽快感との調和という点では、唯一無二の存在ともいえるだろう。
スポーツ エボリューションにも負けない落札価格の理由とは?
このほど、RMサザビーズ北米本社の「MIAMI 2024」オークションに出品されたM3コンバーチブルは、1989年6月にバイエルン州ランツベルクの「BMWオートハウス・シャウンベルガー」に新車として納車された、ドイツ市場向けのモデルである。
ボディカラーは「マカオ・ブルー・メタリック」でソフトトップはブラックのファブリック生地製。インテリアは当時のM3ではオプションだったブラックの本革レザーという素晴らしいカラーコンビネーションで仕上げられている。
筆者の記憶が確かならば、この年式のスタンダードM3はすでに通常のHパターンを持つZF社製5速MTに切り替えられていたはずだが、コンバーチブルには初期型M3セダンおよび「エボリューション」系限定モデルと同じ「ドッグレッグ」パターンの5速ゲトラグ社製トランスミッションが選択されていた。それはこのオープン版M3が、あくまでBMW M主導で開発されたという歴史的事実にとっての、ひとつの証といっても良いかと思われる。
くわえて「BMW Bavaria C」カセットステレオ、ヒーターつきスポーツシート、オンボードコンピューター、Mスポーツ・ステアリングホイール、ブラックのファブリック製トップ、軽量アロイホイールなどの純正オプションが新車オーダー時から豊富にセレクトされているのも、この個体における重要なトピックといえるだろう。
ラインオフからすでに35年の時を経たM3コンバーチブルながら、この個体は新車時からのオーナーがわずか2名で、さらにオークション公式ウェブカタログ掲載時の走行距離も3980kmに過ぎない。そのローマイレージを裏づけるように、コンディションは内外装からエンジンルームに至るまで素晴らしいものであることが、ウェブカタログの写真からも見受けられる。
また、今回のオークション出品に伴い、純正のスペアタイヤにツールキット、オリジナルの販売インボイスを含むヒストリーファイル、Fahrzeugbrief(ドイツの自動車登録書)、取扱説明書/サービスマニュアル一式なども付属されていたとのことである。
「ワールドチャンピオンの血統を持つBMW初のホモロゲーション・コンバーチブルの、驚くべきタイムワープ」、そんな扇情的なキャッチフレーズとともに、RMサザビーズ北米本社は15万ドル~20万ドルというエスティメート(推定落札価格)を設定。そして、当日の競売ではエスティメート上限に迫る19万400ドル、現在の為替レートで日本円に換算すると約2880万円という、なかなかの高値で落札されるに至ったのだ。
近年のヤングタイマークラシック人気にあって、E30系M3が世界的人気モデルのひとつであることは、誰もが認める事実であろう。とくにクラシックカーマーケットにおいて相場をけん引していたのは、ハードコア指向の高い「エボリューション」系リミテッドエディションだった。
でも今回のオークション結果にも表れているように、一時はE30系M3の「亜流」とも見なされていたはずのコンバーチブル(カブリオレ)もまた、「M」の血統を色濃く体現した量産外のM3として認知されつつある……、ということなのであろう。
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同時期のポルシェ944や968が100万円台で買えたのとは対照的