ヤマハが新たに発表した新E-MTB「YPJ MT pro」は、一般的なMTBとはかなりかけ離れた異型のフォルムをしており、なんとYZと同様のツインチューブ形状。バイクの技術とヤマハ開発陣本気のこだわりが、詰め込まれています。今回はMTBプロライダー・JNCC-AAライダー内嶋亮がインプレッション。もうコレは見た目だけでなく性能面を踏まえても、自転車界の"YZ"と呼べるマシンですよ。
オールマウンテンの車体に、これまでにない発想の「Dual Twinフレーム」
MTBは、すごく細かく細分化されている世界です。究極の下り競技「ダウンヒル」が、一番サスペンションが長くて重く、逆に登りも大事な競技「クロスカントリー」では、リアサスペンションがないマシンもあるし軽さ勝負。で、その真ん中部分に、「オールマウンテン」「エンデューロ」などのあそび方に準じたカテゴライズが存在します。今回のYPJ-MT Proは、「オールマウンテン」に属するものです。フロント160mm/リア150mmのストロークに、あるていど「登れる」ことが特徴。
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オールマウンテンは、MTB界隈ではもっともいろんなあそび方ができるし、バイクでいうエンデュランサーのようなシングルトレイルを楽しめる軽さ、足のよさが特徴です。いま最も、注目すべきジャンルっていっていいと思います。
注目していただきたいのは名前の通り、フレームの上下部(トップチューブ・ダウンチューブ)がリアサスペンションを挟んで二股に別れている事。見てのとおり、いわばYZのツインチューブと同じなんです。じつは、アルミフレームで“ぶっとい”ツインチューブのモトクロッサーをレースに走らせたのは、91年のヤマハ“0WC0”が初めてなんですよ!
(1)足つき性の向上
二股に分かれているトップチューブの間にリアサスペンションを挟み込むことで、スタンドオーバーハイトが低くなり、低重心化および足つき性に貢献します。
(2)強剛性と軽さのバランス
一般的なフレームは太いパイプ一本なので、剛性をとりづらく、内部に補強部材を入れます。YPJの場合は、補強材を入れずにフレームを2本にする事で補強材を入れずにすることで剛性バランスのとりやすさを実現しています。
アンダーチューブの間で細身のバッテリーを挟むことで、車輌の重心安定化と見た目のスッキリさを実現。このバッテリーを挟み込む技術はバイクのフレームがエンジンを抱え込む所からインスピレーションを受けています。バイクを手掛けるメーカーならではの発想。
Dual Twinフレームは、造形美へのこだわりと、スタンドオーバーハイトを下げるためのもの
先程も説明しましたが自転車のトップチューブ・アンダーチューブは1本の物が多いです。YZを連想させるYPJのフレームは、単に1本の物を2つに分断したのではなく、YZのフレームなどにも使われているハイドロフォーミングを使って作られています。YZでは、スイングアームの複雑な形状を実現するのに使われている技術ですね。
ハイドロフォーミングとは… アクティブな流体(油中水型乳剤など)を使った内部高圧成形技術のことで、中空部品などに使われている
こうして比較して見るとバイクのフレームに似ているけど、MTB用にブラッシュアップされていることがよくわかります。そもそもYZはハイドロフォーミングでは製造されてないし、剛性バランスの作り方などもまるで違う発想からきています。意匠としてツインチューブを活かしたわけです。
「僕も初めて見るフレームだったので乗り心地が気になってました。実際に走ってみると、1本フレームの物と比べて安定感・安心感を感じました。その感覚は単に硬いのではなく、フレームの強さ、イメージで言うと"芯"がしっかりした感じですかね。フレーム構造的にバイクメーカーだからこそ、というかヤマハらしい味付けだと思いますね」と内嶋。
ただただ意匠ってわけじゃないんです。このリアサス、フレームのツインチューブの間で、すさまじく追い込まれたクリアランス内で、稼動するのです。この構造自体が、スタンドオーバーハイト(自転車用語でいう、フレームをまたいだときの、高さ)を下げていて、いわばバイクでいうところの「足付き性」(だいぶ違うか…)的なものを良好にしています。これは、MTBとしてもとても画期的!
ヤマハ最小サイズ・最軽量ドライブユニット「PW-X2」
ヨーロッパのE-BIKEで採用されているヤマハのフラッグシップドライブユニットPW-X2をYPJシリーズに初採用しました。重くなりがちなユニット部分ですが、中空アクスルシャフトやケースの薄肉化などにより軽量かつコンパクト化を実現しています。旧モデルより軽くなっただけではなく、前モデルと比べて、よりペダリングに素早く反応する様にチューンされています。
「ヤマハのドライブユニットは国内の他の車種に比べて、反応・レスポンスが非常に良いですね。ペダルも軽く踏み込むだけですぐアシストが反応しますし、ペダルの動きが止まればアシストもすぐ切れるのでその点も安心だとおもいます」(内嶋)
アシストモードは選べる7種類
ライディングに合わせて変更可能な様々な各種モードを搭載。さらに、新たなアシストとしてオートマチックアシストモードが追加されました。走行状況に応じて、ECOからHIGHまでの適切なモードをモーターが自動で選択してくれる機能。
まるでAIのような新機能
「クワッドセンサーシステム」を搭載
先程説明した、オートマチックアシストモードを支えているのがこの新システム。スピード、クランク回転、ペダリングトルク、角度の4つのセンサーから得た情報でライディングコンディションを把握。この情報をアシストパワーにフィードバックするわけです。上り・下りを理解してアシストを制御したり…最新の電子制御バイクのような動きをするのです。
バイクで言うところの"トラコン"に近い感覚
このオートマチックアシストモードの恩恵を大きく感じ取れるシーンは、内嶋によれば3つあります。
(1)停車時からのスタート
電動アシスト自転車では、アシスト力を最大設定にしていると発進時のちょっとしたペダリングでグワッ! と前に進んでしまいます。バイクのクラッチを急に離すような感じと言えばわかりやすいかもしれません。しかし、オートマチックアシストモードであれば、レスポンスをぼかしたアシストで発進できるので、自転車だけが先に行くような感覚はありません。
(2)アシストモード選択を考えず気楽に走れる
アシストの強さを、速度に合わせて変更するのは難しいし、あまり現実的じゃありません。バイクと同様に、ギヤやアクセル(この場合はペダリング)に集中したいし、ギヤとアシストの関係は複雑なので、わりと頭が混乱しがち。オートマアシストでは、車体の速度や傾斜に合わせてマシンが適切なアシストを選んでくれるので、モード変更する必要がないのです。むしろこのモードにしておけば迷わず乗れます。むしろ、初心者だったらギヤチョイスもサボれます。
(3)滑りやすい路面でのライディングをサポート
(1)と同様に、こぎ出しのレスポンスをぼかしてくれるため、人が歩いても転んでしまうようなツルツルの路面でもリアタイヤが空転しづらいのです。まるでトラコンに似たような乗り心地です。実際、試乗会場はまともに歩けないほどツルツルでしたが、あまり意識せずにYPJで走り回ることができましたよ。
「下り」だけでなく「登り」でも"プッシュ"できるワケ
ちなみに…E-MTBのおもしろさとして、登りでも「プッシュ」できる楽しさがあります。登りって、ただ辛いだけのものだったのが、アシストで攻めるスピードまで高められるわけです。自転車って、BMXに代表されるように、バンクやコブで、バイクを地面にリズミカルに押し付けることで、“プッシュ”して加速することを楽しめる乗り物なんですが、登りでこれができるのは新鮮! 「MTBと比べてアシストがあるから坂に対して登りやすい事はもちろんですが、MTBではできなかった登りの途中でバーム(バンク)を使ってプッシュができるようになります。ダウンヒルの下りで行っていた「プッシュ」を登りでもできるようになった感じですね。」(内嶋)
上は、プッシュの参考映像。プッシュのみで加速しまくる「パンプトラック」の世界戦です。最近はモトクロスでも、このテクニックを使うトップライダー、珍しくないですよね。
このジャンルのMTBとしては禁断の、長めスイングアーム
バイクでもヒルクライムをする時にリアにトラクションを掛けるのは必須条件。それでも足りない時はシッティングになります。でもスイングアームが長ければその分地面に対して押し付けやすくなるので、トラクションもかけやすくなるという訳なんです。
YPJ-MT Proのスイングアームは469mm、これには内嶋選手も「今までにこんなにスイングアームが長いオールマウンテン系のマシンは無かったと思います。一般的なオールマウンテン車と比べると3cm程長いですね」と驚いた様子。
「僕は普段460mmのマシンに乗っています。しかし、それと比べるとスイングアームが長い分、地面を押さえつけやすいのでスタンディングでもしっかりリア荷重がかかります。特にシッティングした時にかなり実感しますね。
実際スイングアームが長くなる事で、斜面に対しては捲れにくい(トラクションが抜けにくい)、直進安定性が上がるといったメリットもありますが、その反面ボディアクションに対して挙動が鈍感に(大きい動きが必要)なったり、コーナーが曲がりにくくなってしまいます。しかし、このYPJはスイングアームが長いにも関わらず、その長さ故のデメリットが気にならない乗り心地になっており、ただ単に伸ばしただけでなく絶妙な設計バランスがとられているのです。」(内嶋)
「楽しさ」にベストな27.5インチ
10年ほど前に、MTBの世界では様々なタイヤサイズが乱発。2020年の今、おおよそそのサイズは29インチへ収束しました。走破性を求めるなら29インチが、定石です。YPJはあえて27.5+インチをチョイスしています。
「MTBでは29インチが主流ですがこれは27.5インチを採用しており、この選択はある意味賢いと思います。日本人の体型で「速く」走るならフロントは29インチ一択です。タイヤが大きい分路面のデコボコも感じにくいですから。でも車高が上がってしまうのは避けられないですよね。」
「フルサスのマシンで速さではなく、楽しさを求めるなら27.5はベストな選択だと思います。ベテランだけでなくビギナーでも楽しめるサイズ調整になってますね。インチサイズの違いをあえてバイクで例えるなら、29インチはモトクロッサーの19インチのYZ250F、27.5インチはのような18インチのYZ250FXのようなイメージですね。」
なお、27.5「+」のプラスがとても大事で、通常の27.5よりもファットなタイヤのことを指しています。レースに出るバイクではないので、俊敏性よりもトラクションと穏やかな特性をチョイスした、というわけです。冒頭にはYZと書きましたが、スミマセン。そうそう、YZ250FXって表現すごくマッチしていると思います!
「これさえあれば登り下りどこでも楽しめる」
「そもそもMTBではダウンヒルやクロスカントリーといった走り方に合わせて、登り・下りなどそれぞれに合わせたマシンを作るので、少なからずどこかに不得意なシーンが出てきます。しかし、これは登りも下りも文句無しで楽しめる欲張りなマシンですね。逆に言えば、これだけ幅広く遊べるマシンがこの価格で手に入るというのもメリットだと思います」と、内嶋は締めくくってくれました。MTBは、人間の足を使うからこそ、細かく用途に合わせた仕様が必要でした。でも、E-MTBの存在は、バイクに近づいたからこそ、細かく用途にあわせる必要を薄めてくれています。いわば、カテゴリクラッシャーと、言ってもいいかもしれませんね!
YAMAHA
YPJ-MT Pro
価格:¥600,000(税抜)
カラー:ポディウムブルー/ニッケル
サイズ:S、M、L
[ アルバムはオリジナルサイトでご覧ください ]
ロングライドを支える13.1Ah大容量バッテリー
満充電時間:約3.5時間(専用充電器を繋いで家庭用100Vコンセント対応)
バッテリー重量:3kg
各モードごとの最大走行距離
※この数値は道路状況、走行モード、走り方、気温、車載重量などによって変わります。
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みんなのコメント
平地の巡航とか通勤通学に使うなら、
フロントは二枚有った方が良さそう。
パナのフロント内装変速は街乗りでも生きる。