3.11東日本大震災は、今もって悲しく痛ましい災害の記憶である。しかし、その災害に際して、救援・復興を支えたたくさんの人たちがいたことも忘れてはならないだろう。
被災し混乱する最前線の現場で目覚ましい仕事ぶりを見せた名もなきサムライ達、そして逞しく仕事をこなした働くクルマの数々……。
3.11の救援・復旧を支えた働くクルマとサムライ達の知られざる物語【救援ルート啓開編】
ここでは、3.11の救援・復旧を支えた働くクルマとサムライ達の知られざる物語を2回にわたってご紹介しよう。
まずは、混乱した緊急支援物資の荷受け・仕分け・搬出を一気に解決した岩手県トラック協会の物語である。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
*2011年8月発行「フルロード」第4号より
被災地に届いていたものの、被災者には届かなかった緊急支援物資
東日本大震災の発生に際して、実は緊急支援物資の輸送は迅速だった。震災発生当日から続々と支援物資を積んだトラックが出発し、充分とはいえないまでも、最低限必要な量や品目は早くから被災地に届いていたのである。
東日本大震災の緊急支援物資は、政府の災害対策本部の決定に基づき、国(政府)が調達し発注した物資の輸送を国土交通省が担当、実際には国交省から全日本トラック協会などに輸送を依頼する形で行なわれた。
3月11日から5月9日までの合計では、食糧品1897万7151食、飲料水460万1965本、毛布等45万8159枚をはじめとする各種の救援物資が延べ2032地点の被災地の集積場に輸送されている。
このほかに県など自治体が依頼した緊急支援物資もあり、さらに個人や企業・団体からの善意の救援物資も続々と送られた。震災発生直後から最低限必要な量と品目は被災地に届き始めていたのである。
緊急支援物資は被災地には届いていたのだが……
しかし、被災地に届いていたものの、その物資がなかなか被災した人たちの元に届かなかったのは記憶に新しい。
ひとつには、被災地があまりにも広大で、被災した人たちの数、避難所の数があまりにも多かったことが大きな理由だが、もうひとつは、支援物資の集積場での荷受け・仕分け・搬出作業がスムーズに機能せず、いたずらに時間ばかりが掛かっていたことがあげられる。
その作業を行なっていたのは主に県などの自治体の職員だったが、震災で亡くなった人もおり、圧倒的に手が足りない上に、慣れない作業の連続、しかも混成部隊のため命令系統もはっきりせず、多くの現場が大混乱に陥っていた。
岩手県から「丸投げ」された救援物資の一括管理業務
こうした中で、今では「岩手方式」と呼ばれる、救援物資の荷受け・仕分け・搬出の一括管理を成し遂げ、災害物流の手本となる仕事を成し遂げた人物がいる。
社団法人岩手県トラック協会の佐藤耕造専務理事(当時)である。岩ト協の専務理事を13年間務めた佐藤氏は、かつては大手運送会社に長年在籍していた物流のプロフェショナルだった。
岩手県の防災対策本部は、救援物資にまつわる作業の委託を岩手県トラック協会に打診。いってしまえば、その作業の実務の一切合財を「丸投げ」できないだろうかと相談した。佐藤専務理事は、県の職員が今回の震災での対応で手いっぱいであることもわかっていたので、これを快諾。
アピオに設けられた荷受けなどの受付
震災直後、被災した運送事業者の社長に会った際、「専務、オラ何もねくなったじぇ、家族同様の運転手もいねくなった。専務、助けてけろ」といわれ、こういった多くの被災者のためにも今回の緊急救援物資の輸送を絶対に成功させると心に決めたという。
ちなみに岩ト協傘下の運送事業者数は約580社、このうち約200社がなんらかの形で被災しており、経営者を含め50名近くが亡くなり、トラックも約500両が損壊した。
岩ト協の黒澤康男会長(当時)は、これらの運送事業者の元を精力的に回り、親身になって相談に乗っていた。
的確かつスピーディ 物流のプロが見せた手腕
いっぽう、緊急支援物資の「受け」の実務を任された佐藤専務理事は、かつて災害が起きたとき、緊急支援物資を送り出す仕事を何度もこなしており、このときの経験も活かしてプランづくりに着手。
当初緊急支援物資の集積場となっていた倉庫から、新たな集積場として岩手産業文化センター「アピオ」を指定する。倉庫にはキャパシティの限界もあり、さらに荷受け・仕分け・搬出をスピーディに行なうには不向きだったからだ。
広大なコンベンションセンター「アピオ」を集積場に指定
岩ト協はすぐにアピオ2階に現地対策本部を設置。当時アピオで開催されていたイベントのブースを撤去しつつ、同時にトラックを入れて荷を降ろすといった、極めてスピーディな対応であった。
コンベンションセンターであるアピオは、アリーナ部分だけで3600平方メートルと極めて広い上に、床の耐荷重も5トン/平方メートルあり、大型トラックが直接乗り入れることができるという、倉庫や体育館などでは真似できないメリットがあった。
また、2階部分からは保管された物資がすべて見渡せるため、どこに何があるかひと目でわかるということも大いに役立った。さらに東北自動車道の滝沢ICのすぐ近くで、広大な駐車場があり、トラックステーションもすぐそばという地の利もあった。
24時間体制の荷受け、フォーク荷役をメインに据える
他の集積場では、緊急支援物資を運んできた大型トラックが荷降ろしのため何時間も待たされるということがざらにあったが、アピオでは24時間体制を敷くと同時に、フォークリフトを8両導入。
パレットやロールボックスも大量に入れて、手積み手降ろしの時間的ロスを省き、省力化・効率化を徹底する。つまり、ウイングボディにフォークリフトでパレット積みという、今日のトラック輸送の理想形を実現したわけである。
ウイングボディとフォーク荷役でスピーディに荷積み荷降ろしを実現
佐藤専務理事の他にも岩ト協職員の中には運送事業の現場で働いていた経験者がいたため、彼らが陣頭指揮に立って支援物資の一括管理を行ない、大型トラックから降ろされた支援物資は、すぐに仕分けされ、今度は主に中型トラックに載せ替えられて、県内12市町村、1000箇所以上ある集積場や避難所に送り出された。
さらに入ってくる車両をゲートでチェックして荷物の確認をしたり、あるいは震災の混乱に乗じた「火事場泥棒」を防ぐため24時間の警備体制を敷くなど、その仕事ぶりは徹底していた。
経験がモノをいう緊急時・非常時の対処のしかた
佐藤耕造専務理事(当時)。数年前に岩ト協を退職されたが、現在もお元気とのこと
佐藤専務は語る。
「ピーク時には大型トラックが60台くらい支援物資を運んできましたが、アピオには、10トン車なら3台、4トン車なら6~7台入っても、同時に作業できるスペースがありますから、作業は非常にスピーディで、荷降ろしの大型トラックもほとんど待たせることはありませんでした。
だいたい夜が荷受け、日中が搬出というパターンが多かったですね。搬出は、各市町村からのオーダーによって荷揃えするわけですが、食料や飲料、日用品、衣類や靴など多岐にわたります。
それを、朝出発する便は夜のうちに、昼間出発する便は朝までに仕分けて送り出します。時間帯でいうと3パターンくらいですね。トラックを含め、この搬出作業を担っているのが地元の運送会社の人たちで、彼らも本当によく頑張りましたよ。
3月20日過ぎがピークでしたが、さすがにアピオのアリーナ部分だけでは支援物資が入りきらなくなったので、駐車場に大きなテントを張って優先度の高くない荷物を収納しました。でも、外のスペースも広大なので、その点もありがたかったですね」。
休憩中の地元の運送会社の人たち。彼らも大きな戦力となった
ところで、被災地では長らく燃料不足が続いたが、これにはどう対処したのだろうか。
「トラックは燃料がなければどうしようもありませんから、県と交渉して県知事さんの証明書をもらい、県の指定のスタンドで優先的に燃料を供給してもらいました。おかげ様で緊急支援物資を届けるトラックに関しては、燃料で困ることはほとんどありませんでした」。
この「アピオ」での仕事が済んでも、佐藤専務理事をはじめ岩手県トラック協会の人たちには、県内のトラック運送事業者が立ち直るのをサポートする大事な仕事が待っている。
それは決して安楽な道ではないだろう。しかし、1つの大きな仕事、素晴らしい仕事を成し遂げた事実は、復興への大きな原動力になるはず。
そして何よりも、トラック運送事業という仕事が誰にも後ろ指を指されることのない、胸を張って誇れる仕事であることを証明したことは、とても素晴らしいことだ。
トラックはライフライン! そのライフラインを滞らせないために、物流のプロが見せた「餅は餅屋」のめざましい仕事ぶりは、災害物流のあり方にも大きな教訓を残すものであった。
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