11月23~24日、富士スピードウェイでスーパーGT GT500クラスの15台のマシンと、DTMドイツ・ツーリングカー選手権に参戦するアウディRS5 DTM、BMW M4 DTMという7台のマシンが参加し、『AUTOBACS 45th Anniversary presents SUPER GT x DTM 特別交流戦』が開催される。このレースを前に、いったいなぜGT500とDTMは規定を同じくしたのかをライトなファン向けに、簡単にまとめて3回に分けてお届けしよう。
■苦労を乗り越え生まれた2014年からのGT500マシン
DTMドイツ・ツーリングカー選手権では2012年から採用されたスーパーGT GT500クラスとの統一技術規定。GT500では2014年から採用されることになったが、共通モノコックや共通パーツ、“デザインライン”と呼ばれる車体下部のみ空力開発できる思想などは同じだったが、GT500では開発にあたって多くの苦労があった。
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まず、GT500(とスーパーフォーミュラ)ではこの年から2リッター直4直噴ターボエンジンが採用された。エンジンのパワーを出す場合、燃料を多く吹けばその分大きなパワーが出せるが、それは前時代的な考え方。そこで、有限の燃料の流量を制限して、ある意味無限のない空気をいかに有効に活用して燃やし、パワーを得るかという環境にも配慮した思想で生み出された直噴ターボエンジンだ。
しかし、まずはこれの開発に大きな時間を要した。開発テスト時には火災が発生してしまうこともあった。また、このGT500用エンジンの方がDTM車両よりもパワーが大きく、ドライブシャフトなど、共通部品で耐えられないものがあった。そこで、こちらはスーパーGT側で新たに設定するものなどもあった。
そしてスーパーGTで、ある意味最も難しいポイントとなったのは、ホンダのニューマシンだ。もともとこの規定はFRレイアウトのために設計されていたが、2012年に当時の伊東孝紳ホンダ社長が「NSXコンセプトの日本発売に合わせてスーパーGTに参戦させたい」と表明。GTアソシエイションではホンダの意向を尊重し、市販向けのレイアウト同様のミッドシップ+ハイブリッドでの参戦を特認車両として認める方向で調整したのだ。
本来ミッドシップはレーシングカーのレイアウトとしては有利だが、ホンダは共通モノコックやパーツをミッドシップ向けに変更し、さらにハイブリッドユニットを積む必要性に迫られた。ただでさえ難しい作業のうえに、大きな熱を発するエンジンを空気が入りづらい車体後方に積まなければならない。開発に大きな苦労を要し、さらに開幕してからも、熱害に大苦戦することになった。
また、GT500全体としても強烈なダウンフォースを生むウイングカー構造と大きなパワーにより、一時は“速すぎる”状況が危惧された。狭いコースではスピード削減のために、富士スピードウェイ用にデザインされた『ローダウンフォース仕様』が用いられたりもしている。
こうした初期の苦労を乗り越え、2015年には大きなトラブルは減少。2017年からはこれまでの規定を変更したものが採用され、ここで登場したのがニッサンGT-RニスモGT500、そしてレクサスLC500、ホンダNSX-GTという現行の3車種だ。共通パーツの推進やダウンフォース削減、幅広のリヤウイングの採用など、DTMよりも一歩進んだものになった。この規定のマシンは2019年最終戦まで公式戦では活用された。今回のスーパーGT×DTM特別交流戦が、17規定マシンでのラストレースだ。
■2020年からはDTM、GT500とも『クラス1』準拠に
一方、DTMでは2012年に新規定が採用されると、2018年まで自然吸気4リッターV8エンジンが使われ、2013にはF1スタイルのDRS(ドラッグ・リダクション・システム)が装備されたほか、2017年にはホイールの共通化なども採用されている。
さらに、2015~16年に強力なパフォーマンスを誇ったのはアウディだったが、この最大の武器と言えたのが空力だった。WEC世界耐久選手権のLMP1活動を終えたエンジニアたちがデザインライン下での開発に対して取り組んだ結果、マニュファクチャラータイトルを連覇したことから、DTMではデザインライン下の空力開発を大きく制限した。
この考え方やDTMでの活動のなかで得られた知見、さらにスーパーGTでの日本勢の戦いのなかで得られた知見を活かし2018年に生まれたのが『クラス1』の共通テクニカルレギュレーションだ。スーパーGTとDTMの共通規定はもともとクラス1という呼び名だったが、2009年にDTMとスーパーGTの交渉がスタートして以来の両シリーズの努力が積み重なった新たな規定で、ルールブックがきちんと存在し、GTAとDTMを運営するITRが知的所有権をもっている。
2019年から、DTMではこのクラス1規定に完全に準拠したマシンが戦いはじめた。メルセデスAMGの活動終了に代わってBMW、アウディ、そしてアストンマーティンという3メーカーが集っているが、スーパーGTと同じ2リッター直4直噴ターボエンジンを積み、スーパーGTと同じく幅広のリヤウイングを採用している。
そして2020年から、スーパーGTでもクラス1規定『+α』に準拠したマシンが登場する。現在テストを繰り返しているトヨタGRスープラ、ニッサンGT-RニスモGT500、そしてFRレイアウトとなるホンダNSX-GTの3台だ。ホンダはこれまで、JAF-GT500レギュレーションに沿ってはいるものの、“準拠”していないマシンで戦い続けてきたが、NSXで戦い続けるべく、規定準拠のマシンを送り込む。スーパーGTでの活動継続へ向け、ホンダ社内で多くの苦労があったことは想像に難くない。
なお、DTMでは先述のとおり3メーカーでのパフォーマンスをそろえるべく、空力感度が高いフロント左右のフリックボックス、サイドのラテラルダクト出口『エレファントフット』、リヤサイドは同じ形状を用いるが、車両開発の余地を残したいスーパーGTでは、この部分の設計ができる『+α』があるのが大きな違いだ。ただし、仮に2020年以降DTMとGT500の車両が一緒にレースをする場合は、当然ながらGT500はDTMに合わせた共通エアロにする必要がある。
こうして長い年月をかけ、地域の異なるふたつのシリーズが、しかももともとセミ耐久のスポーツカーレースと、スプリントのツーリングカーという異なる性格をもつふたつのシリーズが規定を合わせることになった。言葉の壁、物理的な壁、文化の壁を乗り越えた今までにないモータースポーツの新たなレギュレーションなのだ。
そして、2019年からDTMが2リッター直4直噴ターボエンジンになったことで、厳密にはまったく同じではないものの、ほぼ同じレギュレーション下にDTMとGT500がそろった。そこで、両者でまずは一緒にレースをしよう……という試みで行われたのが、11月DTM第9戦ホッケンハイム、そして11月23~24日に行われる『AUTOBACS 45th Anniversary presents SUPER GT x DTM 特別交流戦』なのだ。
(3)へ続く
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