フェニックス・レースウェイにて最終“Championship 4”の週末を迎えたNASCARカップシリーズ第36戦『NASCAR Cup Series Championship』は、残り54周のリスタートで5番手から一躍首位に躍り出たジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が、僚友の王者ライアン・ブレイニーを抑え切って自身3度目のカップシリーズ制覇を達成。これでチーム・ペンスキーに3年連続のシリーズタイトルをもたらしている。
今季限りで現役引退を表明したマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)の最終戦、さらにチーム解体を発表していた強豪スチュワート・ハース・レーシング(SHR)にとってもこれがカップ最後の1戦という話題満載の状況で迎えたレースウイークは、シリーズで一時代を築いた巨星の訃報や、長引く様相を見せる来季チャーター(参戦権)契約を巡る法廷での訴訟問題、そして前戦で発生した疑惑に対するペナルティ判定など、積み残しの課題を精算するべくニュースの渦が駆け巡った。
王者ブレイニー勝利で最終決戦へ。ベルvsバイロンはまさかの“壁走り”で懲罰決着に/NASCAR第35戦
その前戦マーティンスヴィルでは、ディフェンディングチャンピオンのブレイニーが“Round of 8”最後のウイナーに輝いた一方、残る1枠を争ったクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)とウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)のふたりは遺恨の決着劇に。
誰も“追い抜こうとしない”シボレー艦隊を引き連れたHMS陣営の戦いぶりに対し、タイブレークからの必要な1ポイントを奪うべく僚友ダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)に“道を譲られた”ベルが『壁走り』を強いられるなど、レース後にはNASCARの運営側がこれら一連の出来事を「すべて調査する予定」としていた。
これに関し最終的な判断を下したスチュワードは、シボレー陣営での“護衛役“と見なされたオースティン・ディロン(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)とロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)に、同じくトヨタ陣営23XIレーシングでは“ポジションを譲渡した”ウォレスに対し、不利な行為によるフィニッシュ操作に関与したとして最終戦でのクルーチーフやメカニックら9名の出場停止処分を課すとともに、各チームとドライバーに50ポイントの減点と10万ドルの罰金、合計で20万ドルの処分を言い渡した。
その23XIレーシングに加えフォード陣営のフロントロウ・モータースポーツ(FRM)も当事者となるNASCARを相手取った独占禁止法違反の申し立てに関しては、米国地方裁判所が両陣営から提出されていた『仮差し止め命令』の申し立てを却下。判決ではチーム側が「要求された責任を果たしていない」と述べ、この状況が維持されれば現在のチャーター契約は12月31日をもって期限を迎えることとなる。
本来、チャーター権を所有するチームには各レースの出場枠と賞金の一部が保証されているが、オープン登録ではそれより大幅に少ない金額しか受け取れない。これにより両陣営とも「必要な経費やドライバーおよびスポンサー契約の維持が難しく、チーム存続の権利が脅かされている」と訴えているが、23XIの共同創設者であるデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)は、チームが2025年に参戦するかどうかは「未定」だと初めて認めた。
「来季の(開幕前エキシビジョン戦である)The Clash at Bowman Gray Stadiumと(開幕戦の)デイトナ500に関し、我々の23号車と45号車がエントリーできるかどうかはすべて未定だと思う」と続けたハムリン。「解決しなければならない合意事項がいくつかあるが、それが良い方向へ向かうことを願っている」
そのハムリン自身は、カップでJGRに移籍加入した2005年以降のタイトルパートナーを務めてきた物流大手のFedEx(フェデックス)と、この最終戦をもって関係に終止符を打つことを示唆した。
週末を前に「ありがとう、フェデックス」というキャプションの付いた47秒のビデオを投稿し、ハイライト映像に自身の言葉を重ねたハムリンは「最初からそこにいてくれてありがとう、フェデックス」と記し、カップ通算54勝のうち47勝をともに飾ったパートナーに感謝の意を示した。
「すべての勝利とすべての敗北に。フェデックス、僕を僕らしくいさせてくれ、いつも違いを生んでくれ、バージニア出身のこの子供の夢を叶えてくれてありがとう。フェデックス、すべてに感謝している」
そして往年のデイトナ500覇者であり、悪名高い“アラバマ・ギャング”としても知られたNASCAR殿堂入りのボビー・アリソンが、前戦の週末中に息を引き取っていたことも明かされた。
「深い悲しみとともに、ボビー・アリソンの家族は彼が86歳で亡くなったことをお知らせします」と、アリソン家の声明冒頭には別れの挨拶が記された。
「彼は2024年11月9日、家族に見守られながら自宅で安らかに亡くなりました。彼は過去数年間、健康状態が悪化していましたが、愛するスポーツへの貢献を続けました。ボビーは究極のファンドライバーであり、ファンと過ごす時間を心から楽しみ、どこへ行っても立ち止まってサインをしたり、ファンとの会話を楽しんでいました……」
■3度目のカップシリーズ王者を獲得したロガーノに予想外の出来事
こうして始まった最終戦“Championship 4”の週末は、まず4人のタイトル候補をリードした王者ブレイニーがフリープラクティス(FP)最速を記録するも、続く予選ではカップでのキャリア最後のアタックを決めたトゥルーエクスJr.の19号車が、有終の美に向け2週連続でポールウイナーに輝く。
「とてもクールだ」とフェニックスでは3回目、キャリア通算25回目のポールポジションを得たトゥルーエクスJr.。「正直に言うと、どんなトラックでもどんな状況でも“速く走れる男”として知られたいものだ。予選のプレッシャーはいつだって相当に高いし、トラックに出て完璧にこなさなければならないが、近年のカップではチャンスは1回だけだ。でも全員に勝つのはいつも楽しいし、気分がいい。明日は大きな賞品があるし、うまくいけばその栄誉をゲットできるだろうね」
迎えた決勝ではオープニングで姿勢を乱したタイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)がウォールに激しく激突し、最終ステージでもゼイン・スミス(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)がクラッシュを喫した(これが勝敗の行方を大きく左右する)以外はコーションもなく。序盤のイエローで数周を走行したペースカーが、ギリギリのタイミングでレーンに戻ろうとした際にハーフスピンを喫し、プラスチックの樽を破壊したことを除けば、レースは大きな混乱なく進んでいくことに。
序盤でリードラップを奪ったロガーノがステージ1を、続いてブレイニーがステージ2での勝利を奪っていく一方、対抗馬のレギュラーシーズン王者タイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)はレースを通じてライバルたちに追いつくペースがなく、6位に甘んじなければならず。
同じく最後のひと枠を得たバイロンも、両ステージ4位から逆襲を期したが、最終ピットストップの前にステイアウトを決め、チェッカーまでライバルよりフレッシュなタイヤを使える状況を整えたが、コースに戻った直後に警告が出され、他の候補者がイエローでピットインしたことでアドバンテージが帳消しとなってしまう。
これでペンスキーのスピードに対抗する手段を失った候補者を尻目に、陣営内バトルへ持ち込んだロガーノとブレイニーは、最後のリスタートからトラフィックを抜けていく間に首位ロガーノとの差を縮めたブレイニーが追い縋ったものの、最後の数周で考えられるあらゆるラインを探ったにも関わらず、背後の12号車が前方の22号車を捉えることはできず。惜敗のブレイニーは2週連続で開口一番「疲れ果てた」との言葉を口にした。
「たどり着けなかった。一生懸命に追い抜こうとしたが、リスタートがうまくいかなかったんだ。彼(ロガーノ)からあまりにも離れ過ぎ、数人の選手を追い抜くのに時間が掛かり過ぎた。彼と22号車のチームにはおめでとうと言いたい。彼らは素晴らしいプレーオフを組んだ。レースをするなら、他の誰でもない彼がチャンピオンシップで勝つことを臨む。そしてロジャー(・ペンスキー)へのワン・ツーフィニッシュ、ロジャーのカップ3連覇の偉業は、彼とフォードにとって素晴らしいことだよ」
その勝者ロガーノにとっても予想外の出来事がなかったわけではなく、右フロントタイヤ交換のわずかな遅れにより、最初のピットストップで4つポジションを失うと、その後、彼のジャッキマンが体調を崩してピットウォールから退場することに。ペンスキーのクルー間では大騒ぎとなり、急遽オースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)のメンバーを22号車に移動させることでからくも対処した。
「最後までブレイニーとレースができたことは楽しかった」と今季4勝目を挙げ、これでリー・ペティ、デビッド・ピアソン、ケイル・ヤーボロー、ダレル・ウォルトリップ、そしてトニー・スチュワートらと並んで3度目のカップシリーズ王者を獲得したロガーノ。
「でも正直、週末に入ると彼が一番手強いライバルになるだろうと分かっていた。チームのメンバーにそう言っていたんだ(笑)。ブレイニーにはスピードがある。細かい部分で彼に勝たなければならない。そここそ、我々が彼らに対して有利な点だ。最後の細かな部分、リスタートの成功、そしてコースに出て管理できたことが、本当に違いを生んだね!」
同じく併催となったNASCARクラフツマン・トラック・シリーズの第23戦『Championship Race』は、決勝の150周中132周をリードしたタイ・マジェスキー(ソースポーツ・レーシング/フォードF-150)が初のシリーズタイトルを獲得。
そしてNASCARエクスフィニティ・シリーズ第33戦『Championship Race』は、注目すべきカムバックとして長年ファンに愛されてきたジャスティン・オルゲイアー(JRモータースポーツ/シボレー・カマロ)がレース中盤のラップダウンからバックアップカーに乗り換えてついに悲願を成就し、今季2勝目を飾ったライリー・ハーべスト(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)とともに優勝トロフィーを掲げている。
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