8月11~12日にアメリカ・インディアナ州にあるインディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースで行われたNTTインディカー・シリーズ第14戦『ギャラガーグランプリ』。予選ではレイホール・レターマン・ラニガン(RLL)勢が速さを見せ、グラハム・レイホールがポールポジションを獲得し、2番手にはチームメイトのクリスチャン・ルンガーが続いた。
迎えた決勝レースでは、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ)に優勝を奪われはしたものの、レイホールは2位でチェッカーフラッグを受け、2021年の第4戦テキサスのレース2以来となる表彰台を獲得した。
インディカー第14戦インディアナポリス予選/好調レイホールが予選日を制圧。通算4度目のポールに輝く
■速さを失ってしまったRLLとグラハム
グラハムとRLLは、2017年のデトロイトで行われたダブルヘッダーで両レースを制覇したこともある。超バンピーで架設コースとしては高速のデトロイトでライバル勢を突き放す速さを見せつけたのは、彼らのダンパー・プログラムが非常に高いレベルに達していたことの証明だった。
エンジンこそ2ブランド(ホンダ/シボレー)あるが、基本はイコールスペックのマシンで争われるインディカー・シリーズでは、ダンパー=ショック・アブソーバーの性能が極めて重要な要素のひとつで、かれこれ30年以上も各チームは独自のノウハウを駆使しながらライバル勢に差をつけようと努力を続けて来ている。
デトロイトのレース2での優勝は、シリーズタイトル3回獲得、『インディ500』で1勝を飾ったボビー・レイホールの息子であるグラハムにとって、インディーカー・シリーズでの通算6勝目だった。しかしそれ以降、彼の優勝はピタリと止まったままだ。
続く2018年には佐藤琢磨がチームに加入。レイホールと2台体制で、両ドライバーが勝利を重ねて行くことが期待されたが、琢磨がインディ500を含む4勝を挙げたのに対し、レイホールは勝利から遠ざかってしまった。「2カー体制を機能させるのはそうそう簡単ではないんだ」と当時のレイホールは語っていた。
これまでにニューマン・ハース・レーシング、チップ・ガナッシ・レーシングといった名門で修行を積んだレイホールだったが、2013年からは父ボビーのチームでフルシーズンを戦うようになった。
この移籍は、レイホールの名を継ぐドライバーとしては当然のことなのだろうが、成熟不十分のグラハムはぬるま湯に浸かり、ある程度の成功を納めた後に失速してしまった。アンドレッティ・オートスポートで走り続けたマルコ・アンドレッティと同様だと言えるだろう。
2勝を挙げたマルコに比べれば、グラハムは6勝を挙げて存在感を示した。しかし、デトロイトでの勝利から1.5シーズンにわたって勝てなかったというのにチームは異例の5年契約を結んだ。クビになる危機感の欠如もあってか、グラハムのパフォーマンスはこの後上がらない時期が続いた。
その間にマルコはインディカーのレギュラーシートから降ろされた。子煩悩な父マイケルにとっては苦渋の決断だっただろう。グラハムに対する影響も少なからずあったのではないか……。
■体制変更を敢行したRLL。流れを変えた『インディ500』での予選落ち
“チームメイトは勝てるのに御子息は勝てない”という状況から脱すべく、RLLは2021年シーズンに向けて体制を変更した。インディのロードコースで当時F2に参戦していた若手のクリスチャン・ルンガーをテスト的に走らせ、その年の第12戦インディアナポリス/ロードコース戦にエントリー。
これが8月のことであったが、RLLはその2カ月後の10月にはルンガーと複数年契約を結び、2022年からレギュラードライバーのひとりとしてチームに迎え入れたのだ。
ヨーロッパでの成績もまずまずで、まだまだ成長の期待できるルンガーの起用はロジカルと見えた。しかし、琢磨の代わりに迎え入れられたのがジャック・ハーベイだったのはまったく解せなかった。
ハーベイの起用には驚きさえあった。RLLは彼に何を見出していたのか……。結局、ハービーは何もできないまま2シーズン目の途中(第14戦『ギャラガーグランプリ』まで)でチームから放出されてしまった。
新たにグラハムを中心とする3台体制を作り上げたRLLは、結局は若いルンガーだけがスピードを見せ、彼以外のふたりは低迷を続けることとなった。
特に酷かったのが、琢磨がいた頃にはトップレベルにあった高速オーバルでのパフォーマンスが急降下したことだ。インディ500でのパフォーマンス向上を第一のテーマに掲げて活動しているチームもあるなか、彼らはシリーズ最大のレースでまったく輝けないチームとなってしまった。
ついに今年の最初のオーバルレースである第2戦テキサスでは、RLL3人衆が最後尾の3グリッドを独占という惨憺たる事態にまで陥った。
そして、心配されたインディ500では、パフォーマンス向上に寄与するとは考えにくいキャサリン・レッグを起用しての4台でエントリー。新たにチームに合流したレッグはなぜか予選を簡単にスルーしたが、レギュラー3人が最後尾の3グリッドを競い合う恥辱を味わった。
人々が憐れみの目で見つめた戦いではハービーがグラハムを上回り、グラハムはインディ500での予選落ちを喫した。1993年には父ボビーもインディの予選を通れずにスピードウェイを去ったことがあるが、それはオリジナルシャシーでの成功に賭けた故のことだった。
一方のグラハムは、同一スペックであるシャシーでの予選落ち、それも明らかに規模の小さいスポット参戦チームらにも敗れながらの、“世界最大のレースでの予選落ち”という大きな屈辱を味わった。こんなことが続いてはスポンサーも離れて行ってしまう。
そんな彼に降って沸いたのがドレイヤー&レインボールド・レーシングのステファン・ウィルソンの負傷欠場で、使用エンジンの違いという障壁を乗り越え、一度は予選で落ちた『インディ500』参戦が実現した。
レース結果は22位と決して良いものにはできなかったが、多くの人々が尽力してくれたことで実現したインディ500参戦(とその前の予選落ち)を経験したことで、グラハムと彼を支えるチームは考えを新たにしたようだ。
続くデトロイトでもRLLは惨憺たる戦いを披露するしかなかった。これにはオーナーのボビー・レイホールも大きなショックを受けたと後に吐露した。そして、多くのことがうまく行っていないのだから、と体制の変更に踏み切ることとなった。トップエンジニアは解雇され、クルーの配置換えも行った。
突貫で行われた改革の後、新体制での2戦目であるミド・オハイオ(RLLは長らく同地をチームの拠点としていた)を戦い、グラハムは見事予選2番手に食い込んだ。
しかも、ポールポジションのコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)に0.0432秒差の僅差での2番手獲得。RLLのマシンは路面のスムーズなロードコースでセッティングが機能しだしたのだ。それをこの時のグラハムは結果に結びつけた。レース結果は7位だったが、陣営の士気が高まるのは必至だった。
■ルンガーの優勝にRLL復活の兆し。残り2戦で勝利なるか
そして迎えた第10戦トロント。参戦2年目のルンガーがポール・トゥ・ウインを果たしたのだ。この勝利は、RLLにとって2020年のインディ500以来の勝利となった。バンピーなストリートコースでもルンガーはトップレベルのスピードをレースを通じて発揮。
この勝利によってRLLは、常設ロードコースでの速さに加えてストリートでのパフォーマンスも手に入れていることを示した。
8月に入って、インディアナポリスのロードコースにおける今年2戦目が開催された。ここでグラハムはついにポールポジション(PP)を獲得した。彼にとっては2017年のデトロイト以来となるPP。
チームにとってはつい1カ月前のトロント以来。そして、インディのロードコースにおいては今年の5月(ルンガー)からの連続獲得となった。
レースでは序盤のフルコースコーションを味方につけたスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)が、残り周回を2ストップで走りきって勝利。正攻法の3ストップで戦ったレイホールは、あと一歩及ばずの2位に甘んじた。
それでも、プライマリーとオルタネートの両タイヤで最も安定して速かったのはグラハムで、インディのロードコースで速さを見せ続けているルンガーでさえ、この日のレイホールに優るペースで走ることはできていなかった。
今シーズンも残り2戦。グラハムが久しぶりの勝利を飾ることはできるだろうか?
残りは第16戦ポートランドと最終戦ラグナ・セカだ。ポートランドはフラットでスムーズな高速ロードコース。ラグナ・セカはトリッキーな路面と激しいアップ&ダウンが特徴のロードコース。
ラグナ・セカでは木曜に合同テストがあるので、現状のロードコースセッティングに更なる磨きをかけることができれば勝利のチャンスが拡大するだろう。
グラハムは、父譲りでもあるレースでのねばり強さを持っている。苦しい、苦しいと言いながらもレースをまとめ上げ、ポイントを重ねてくるキャラクターで、2015年、2016年は年間ランキング4位、5位でタイトル争いに絡んだ。2017年、2020年も同6位になっている。
そんな彼が年に1、2戦勝てる体制を手に入れれば、再びランキング上位に食い込む戦いを見せることもあり得るのではないだろうか。来シーズンには35歳を迎えるレイホール。若手の台頭が著しいインディカーだが、名のあるベテランに一花咲かせる活躍を見せて欲しいと願っているファンは少なくない。
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