シルエットからにじみ出るDNA
AUTOCAR JAPANに掲載されている新型レンジローバーの記事はざっと数えただけでも10以上。
【画像】伝統の品格【初代レンジローバーと最新レンジローバーを比較】 全108枚
それらに目を通してワクワクしつつ、一方ではポジティブな表現の多さに「本当だろうか?」と疑いたくなる自分もいた。
そもそも5代目レンジローバーの最終に近いモデルの完成度がこの上なく高く、「それ以上」を想像しにくかった。
それに新型プラットフォームを得たとはいっても、それは後からデビューすることになるフルEVに焦点を当てたものなのでは? という読みもあった。
新型は例によって2種類のホイールベースが用意されている。
今回われわれはガソリンV8を搭載するオートバイオグラフィーP530のLWBをメインに試乗している。
だが注意しなければならないのは「V8モデルの受注が3年先まで埋まっている」という点だろう。
注文が殺到していることと、エンジンの供給元であるBMWからの数が限られているためという問題があるらしいのだが、詳しくはオフィシャルHPに予約に関する説明があるので気になる方は目を通していただきたい。
さて6代目と対面。
真正面から見たフロントマスクは先代とあまり変わらない印象だが、ボディ側面からテールエンドにかけてはデザインスタディのようにフラッシュサーフェイス化されており、未来感が漂う。
ボディの前と後で雰囲気が異なるようにも見える。だがそれでも、全体のシルエットはレンジローバー以外の何者でもないという点はさすがだ。
キモは先端技術ではなく……
スペックシートからわかるのは、先端技術がフル装備されている事実である。
路面の状況にあわせて減衰を制御するエアサスには、ツインバルブの新型ダンパーが組み合わされる。
さらに48V駆動の電制スタビライザーも付いているし、後輪操舵も追加されている。
だがこれら「今どきの機構」が盛り込まれるタイミングとしてはライバルより遅いことは否めない。
ともあれP530に乗ってみよう。
室内のデザインの刷新の具合は外観に準じている。
エアコンの吹き出し口が直線的な意匠の中に組み込まれるなど、先代よりシンプルになっているが、ひと目でレンジローバーとわかる。
5人乗り仕様のリアシートは3人掛けとなっているが、実質2人掛けショーファー仕様でスペース的にも申し分ない。
走りはじめは極めて静かで、額面通り2.7tの小山が静々と動く感じ。
しっとりとして重厚だが、重ったるくはない走りは歴代のレンジローバーに共通するキャラクターだ。
しばらくドライビングに没頭し、山道でペース上げてみたりもした。
そこでわかったのはロールやピッチングを含む「余計な動き」の一切が極めて少ないこと。
だがそれ以上に驚かされたのは、ハイテクが先回りして演出しているに違いないこれらの挙動に、人為的な、カクカクした、継ぎ目のような違和感が一切ないこと。
唯一あるとすれば、バックしている最中の最大7.3°切れるという後輪操舵くらい。
ハイテクはその存在感を消せてこそ一流。
6代目は新たな技術の連携を徹底することでレンジローバーらしい、しかし先代を完全に超越するような高みに達したのだ。
ライバル台頭 覇権は誰の手に?
ラグジュアリーSUVの世界は初代レンジローバーが切り開いたもの。
そして5代目のモデルライフ中に初めて、ベントレー・ベンテイガとロールス・ロイス・カリナンという本格的なライバルが登場している。
50年近く孤高の存在だったレンジローバーは、今回初めてライバルを意識して開発されている。
とはいえ6代目の方向性には少しのブレも感じられなかった。
まさに正常進化。それを支えるのが新型プラットフォームだ。
新型が採用するMLAフレックスは80%がアルミで、バルクヘッド周辺に鉄が使われている。
ボディを徐々にアルミ置換するポルシェやメルセデス的アプローチではなく、一気にフルアルミ化しつつ必要な部分だけ鉄に戻していく手法に「レーシングカーの故郷」たるイギリスらしいエンジニアリングが薫る。
今回は少しだけD300にも試乗できたので、パワーユニットの印象を記しておこう。
ガソリンV8はよくいえば活発だが、ターボのおかげで少し動きがギクシャクする時もあった。
現代ならば電気モーターが埋めてくれそうなターボラグの谷間が目立つのだ。
その点ランドローバーのさまざまなモデルに搭載されている3LのディーゼルMHEVはさすがで、静々と図太いトルクを供出する感じがレンジローバーのキャラクターに合っていると感じた。
ライバルの台頭により覇権の所在が混沌としていたラグジュアリーSUV界だが、6代目レンジローバーの登場によって1つの答えが見えてきた気がする。
それは「伝統が培ってきた様式美」は、「ブランドの格」にも勝るということである。
ランドローバー・レンジローバー・オートバイオグラフィーP530(LWB)のスペック
価格:2261万円
全長:5265mm
全幅:2005mm
全高:1870mm
ホイールベース:3195mm
車両重量:2640-2750kg
パワートレイン:V型8気筒4394ccターボチャージャー
最高出力:530ps/5500-6000rpm
最大トルク:76.5kg-m/1850-4600rpm
ギアボックス:電子制御8速オートマティック
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