スタッドレス VRX2からVRX3へ
text:Shinichi Katsura(桂伸一)
【画像】まだまだ進化 新・旧ブリザック比較【最新スタッドレス】 全42枚
photo:Yoshihisa Miyazawa(宮澤佳久)
ブリヂストン最新のスタッドレスタイヤの試乗会に向かった先は、新横浜スケートセンター。つまり、アイススケートリンクである。
安心のスタッドレス、ブリザックVRX2の誕生から4年。安心・安全の冬性能とともに、乾燥路面でも重要な性能を引き上げた新型、VRX3が誕生した。
ブリヂストンによると、北海道札幌市のタクシーのブリザック装着率は69.5%。北海道・北東北といった完全な降雪地域における一般ドライバーは実に46.2%(主要5都市)で、20年連続で装着率1位の実績を誇るという。
これまでの主力、VRX2から、さらに氷上での効き味、ブレーキ性能とその持ち、耐摩耗性といったライフ性能を向上。一方で、高い氷上性能を維持すると、一般路のドライ/ウェット/転がり抵抗/静粛性とバランスさせることが難しい。VRX3はそこもトータルで引き上げたという。
試乗はスケートリンクの氷上。通常ブリヂストンは、スタッドレスの取材は北海道士別市にある広大な敷地のテストコースを舞台にする。あらゆる路面状況や新・旧比較から、構造違い、ゴム違い、パターン違いまで、我々に学習の機会も含めて試乗させる。
ところが一向に収まる気配すら感じさせないコロナ禍故に、リスクは避ける。
そこで普段は販社対応の試乗会として組まれるスケートリンクで新・旧比較となった。VRX2に対してVRX3は何がどう違うのか? 同一条件でカンタンに比較試乗できるので、ある意味わかり易い。
個人的にはスケートリンクの氷盤のように、真っ平らな路面など一般公道で存在するハズはないと考える。なので、信憑性に欠けると思うのだが、論より証拠。
同じように旋回 速度差は?
室温10℃、路面温度マイナス2℃と、日常では滑りやすくなる路面状況で比較する。
まずはVRX2で、直径9mの定常円旋回。曲がりながら、スライドが始まる限界はどこか?
試乗車のプリウスは御存じハイブリッドだが、その出足は滑らかにスッと加速に入る。円旋回を開始すると一定のステアリング舵角、アクセル量では11km/hが限界。つまり、同じ円を描けず外に膨らむアンダーステアを誘発。
アクセルコントロールを駆使しても、11~12km/hをさまよう。感触が掴めたところで、速攻VRX3に乗り換える。
VRX3の試乗も先程と同じ要領、操作方法をまったく変えずにスタートする。
まずはステアリングに舵角を与えた時の手応えが重い。氷上路面にタイヤが密着している証拠である。速度は14km/hまで上がる。
たかが2~3km/hと思うだろうが、直径9mの円を旋回するのに“2~3km/hも違う”速度は明確に体感できる。
アンダーが出た その後に感心
さらに感じられるのは、アクセルを踏み込んだ最初のひと転がり、ひと蹴りがまるで別物。
ま、FWDなのでひと掻きになるが、ゼロスタート加速で路面をガッと噛んで駆動するため、即14km/hに達して自らアンダーステアを誘発してしまう。それほど路面を確実に捕えている。
驚きは、グリップを失いアンダーステアに転じた後の動きにある。
VRX2はアクセル操作で速度を落とし、元の旋回軌道に戻そうとするも、戻り難い。コーナリング中に“グリップを失ったタイヤ”を元の軌道に戻すことは、乾燥路面でも難しいものだ。
ところがVRX3、氷上の円旋回で14km/hを超えて、スススッとノーズが外にはらむ姿勢を感じ、同時にアクセルをわずかに戻すと、速度が落ちるとともに元の旋回軌道に戻るではないか! これはタイヤの特性を知るヒトほど、信じられないと思うだろうレベルである。
円旋回からスケートリンクの外壁に沿って加速し、ブレーキング。過去にVRX2を愛車に装着していたので、降雪地域でブレーキングした際の頼もしい減速Gや、ステア操作時の舵の効き/手応え感もハッキリと体感し脳裏に刻まれているが、今日VRX3と比較するVRX2は、何とも心もとない。
ブレーキングした際のABSの介入の早さ、減速感の乏しさは、VRX3なら20%も上回った氷上ブレーキング性能を体感できるから、尚更である。
氷上は、最新の発泡ゴム技術で
VRX3のブレーキングはまず全体的にしっとりと路面に喰い付いている感が強い。ABSの介入も細かく制御されるので、障害物を想定してステア操作しても正確に舵が効く。
北海道の市街地の交差点、磨かれたミラーバーンでの加速はともかく、停止する際にツルッと滑り、グリップを失いABSが作動したまま前車にみるみる迫る! あの恐怖を経験すると、この減速感と滑りながらも効くステア操作はおおいに救いになる。
非降雪地域の者にはわからない雪上・氷上でのクルマの動きと止まらない怖さ。
とくに氷上での性能向上が期待されるスタッドレスだが、VRX3に投入されたブリザックならではの発砲ゴムの進化(フレキシブル発泡ゴム)は、吸水力の改善と、経年劣化によるタイヤが硬くなる事の抑制、柔らかさの進歩。
さらにトレッドパターンの進化には、徐水のレベルアップと、接地圧の最適化を含む摩耗の抑制がある。これらによりなんと2世代、約8年分の進化を遂げたと自負する新たなブリザックが完成した。
冬本番が待ち遠しいと思うのは、タイヤ試乗レポーターの職業病!? 最新の技術で造られたスタッドレスタイヤこそ、最良のスタッドレスだと筆者は思う。
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