失敗の許されなかったフルサイズ・サルーン
ハイリスクな戦略のカナメであり、期待の星でもあった。このフルサイズ・サルーンが発売された半世紀前、レイランド・オーストラリア社は巨額の負債に悩まされていた。現在の価値に換算すると、1億ポンド(約181億円)以上に登ったという。
【画像】失敗の許されなかったフルサイズ レイランドP76 SD1とドロマイト 同時期のスーパーカーも 全122枚
そんな苦境を打開するため、新モデルの投入へ力が注がれた。負債と同等の資金を借り入れることで。同社の運命は、P76に掛かっていた。
オーストラリアで生産される専用モデルを、英国のレイランドが新たに設計するというスタイルは、前例がなかった。それでも、失敗は許されなかった。
時間を巻き戻すと、ブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)は、1954年にオーストラリアでのビジネスをスタート。現地に適合したモデルを導入することで、事業を拡大していった。
小さなサルーン、モーリス・メジャーやオースチン・ランサーが、自動車需要を満たすため生産されていた。ウーズレー1500やライレー・ワンポイントファイブをベースとした、オーストラリア仕様として。
しかし、主力になり得る大型サルーンは1969年以降ラインナップされていなかった。彼の地で生き残るためには、レイランドもその1台が必要だった。
その間に、ブランド名はブリティッシュ・レイランド・モーター・コーポレーション・オーストラリアを経て、1972年からはレイランド・モーター・コーポレーション・オーストラリアへ改称されていた。英国の親会社へ合わせるように。
ミケロッティがスタイリングを担当
ゼネラル・モーターズ(GM)系のホールデンと、フォード、クライスラーは、キングスウッドにファルコン、ヴァリアントという、V型8気筒エンジンを積んだ後輪駆動のサルーンを提供。この3ブランドが、フルサイズ・クラスを独占した状態にあった。
レイランド・オーストラリアが、英国の親会社へ新モデルの開発を提案したのは1967年。1968年後半に計画が承認されるが、プロジェクトを成功させるため、可能な限り多くのハードウェアを他モデルと共有することも決まった。
その時点で、幸運にもビュイック譲りのV8エンジンをグループ内のローバーが生産していた。オーストラリア市場にピッタリのパワーユニットだった。
開発を指揮したのは、技術者のデイビッド・ビーチ氏。ライバルに並ぶ競争力を備えるだけでなく、それ以上の水準を与えることを目指し、1969年に新モデルの開発がスタートした。
スタイリングを手掛けたのは、カーデザイナーの巨匠、ジョヴァンニ・ミケロッティ氏。シャシーなどの技術面は、英国とオーストラリアの共同チームで進められた。
当初模索されたのは前輪駆動。全長4.2m足らずのオースチン1800のボディを流用し、V8エンジンを詰め込んだ試作車が作られた。最終的に生産コストや構造の複雑さ、操縦性の悪さなどから変更されたが、妥当な判断といえた。
ライバルが動力源にしていたV8エンジンは、重たいスチール製。開発が進むなかで、アルミ製のV8や直列6気筒を採用し、軽く仕上げることが強みになると考えられた。
ホイールベースはローバーSD1と同値
ローバーのアルミ製V8エンジンは、排気量を3528ccから4416ccへ拡大。最高出力は40ps増しの194psへ引き上げられ、最大トルクも39.3kg-m/2500rpmまで向上した。
燃料を供給したのは、ツインSUキャブレターではなく、シングル・ストロンバーグ・キャブレター。メンテナンスを容易にすることが目的だった。
他方、エントリーユニットに据えられた直6エンジンは、オースチン2200用のEシリーズがベース。シングル・オーバーヘッド・カムで排気量は2623ccへ増やされ、122psまで増強された。
トランスミッションは、3速と4速のマニュアルのほか、オーストラリア市場には不可欠な3速オートマティックも用意。まったく不満のない選択肢が整えられた。
他方、開発当初から英国でのモデル展開とP76はシンクロしていた。ローバーの次期型主力モデル、SD1シリーズとホイールベースが同値だったという事実は、わかりやすい一例だろう。前後のトレッドもほぼ同じだった。
サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式で、リアがコイルスプリングとラジアスアームを採用したリジッドアクスル。見た目はオーストラリア・オリジナルといえたが、シャシーはローバーの新モデルと大きな違いはなかった。
設計がまとまった1971年、2台のプロトタイプがグレートブリテン島へ輸送。テスト走行にかけられ、その結果はオーストラリアのデイビッド率いるチームと共有された。
当初は英国での販売も想定された
テスト走行の結果は、間違いなく良好だったはず。1973年6月から、英国でもP76を販売する計画が持ち上がったのだから。
英国での価格は3600ポンド前後とされ、サルーンとステーションワゴンを揃えることになった。ローバーとトライアンフのディーラーで売られることまで想定されたものの、最終的に実現はしていない。
P76を半世紀後に観察すると、同年代のアメリカ車と比較すれば、保守的なスタイリングだと感じられるだろう。しかし、英国車のコンポーネントを流用したモデルの割には、かなり大きい。全長は4876mm、全幅は1910mm、全高は1394mmもある。
フロントとリアのデザインは、技術者のデイビッドが強く関わったといわれているが、残念ながら全体のフォルムとフロントグリルが調和していないように見える。フロントのオーバーハングが不自然に長い点も、そんな印象を強める。
リアのオーバーハングも長いが、斜め後方から眺めるとなかなかハンサム。当時のオーストラリアでは、充分な存在感を放ったことだろう。
レイランド・オーストラリア社も、この容姿には自信があったようだ。「長年オーストラリア市場を特徴づけてきた近似性とは異なる、個性を備えた選択肢を提供します」。と、当時のAUTOCARのインタビューで担当者は話している。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
要はオースチンやモーリス、MG、ローバー、ジャガーとダイムラー、トライアンフ等の
メーカーが1970年代にぜーんぶ一時国有化してできた会社ということですね。
日本でもこれらの車両を輸入販売する会社として「日本レイランド」という会社が
ありました。(これが後にローバージャパンになり現在のBMWジャパンに至る)
同じようなプロジェクトをイギリス連邦下ということでオーストラリアでも展開して
いたワケですね。
フルサイズなのに右ハンドル…このクルマをみて、かつてマツダがオーストラリアの
GMホールデンから導入した「ロードペーサー」を思い出しました。
他にも同様の例として、いすゞのステーツマンデビルとか三菱クライスラー318なんて
クルマもありましたね。