フェラーリ328GTBのような“GTBターボ”、その正体は?
フランスの首都パリにて毎年2月に行われるクラシックカー・トレードショーの世界最高峰「レトロモビル」では、付随するかたちで複数の国際格式オークションが開催されます。なかでも規模・内容ともにもっとも本格的といわれているのが、クラシック/コレクターズカー・オークション業界最大手のRMサザビーズ欧州本社が開催する「PARIS」オークション。2024年も、レトロモビルに訪れる目の肥えたエンスージアストを対象とした、レアなクルマたちが数多く出品されたようですが、今回は近代フェラーリを代表するV8ピッコロ・ベルリネッタの中でも特にユニークな1台「GTBターボ」のあらましと、そのオークション結果についてお伝えします。
「チャレスト」や「911GT3」などを乗り継いだオーナーが、なぜフェラーリ「328GTB」をいまさら?「美しくて楽しく走れる」からでした
イタリアの自動車税に対応した2000cc級スーパーカーとは?
かつての日本と同じく、2000ccを境として38%もの自動車税が課せられていたイタリア国内マーケットに向けて、1970~80年にはスーパーカーを専業とするメーカーたちも、排気量を2L以下に縮小したモデルをイタリア市場限定で販売。ランボルギーニは「ウラッコP200(1974年)」、マセラティも「メラク2000GT(1977年)」を発売した。
そしてフェラーリも「308」シリーズの3L V8ティーポ「F106A」型エンジンを縮小した「F106C」ユニットを開発。71mmのストロークはそのまま、ボアを81mmから66mmまで短縮することによって排気量を1991ccに縮小しながらも、170psをマークすることになった。
この2L版V8フェラーリは、まず1975年に2+2ミッドシップの「ディーノ208GT4」として登場したのち、1980年以降は2シーターの「フェラーリ208GTB/208GTS」もデビュー。
また1982年には、KKK社製ターボチャージャーを装着することによって220psのパワーを得た「208GTB/208GTSターボ」へと進化する。
さらに、フルスケールNAモデルが308GTB/308GTSから328GTB/328GTSへと進化した1985年には、ターボチャージャーをKKK社製から、288GTOやF40などと同じ日本のIHI(石川島播磨工業)社製に変更。BEHR社製インタークーラーの装備などもあわせて254psまでパワーアップを果たした。
そして内外装は328シリーズに準じたものへとブラッシュアップが図られたいっぽう、車名からは「208」の文字が消滅し、シンプルに「GTBターボ/GTSターボ」と呼ばれることになる。
外観では208ターボ時代からの特徴であったリアフェンダー下部のNACAスクープを踏襲したほか、リアバンパー上部には四条の熱抜きスリットを設置。また328GTB/GTSではオプション(日本仕様328は標準装備)とされていたルーフ直後のエアスポイラーが標準装備化されるなど、ターボ車固有の熱対策のため特有のディテールが与えられていた。
GTB/GTSターボは事実上のイタリア国内市場専用モデルで、約3年の生産期間にマラネッロ本社工場から送り出された台数も、GTBターボでは308台。当時は多数派であったGTSターボでも828台という、極めて少ないものに終わった。
そして328シリーズの後継車348シリーズ以降は、イタリアの税制が改定されたことに伴い、2リッター版の設定は行われることがなかったのだ。
いずれは328よりも高値となる可能性も……?
このほどRMサザビーズ「PARIS 2024」オークションに出品されたフェラーリGTBターボは、シャシーNo.80099。GTBターボとしては最終期にあたる1989年2月10日にマラネッロ本社工場から出荷され、この時代にはオプション設定されたABSを当初から装備している。
ボディカラーは「ロッソコルサ(レーシングレッド)」、「ネロ(黒)」のコノリー社製レザーインテリアという、この時代のフェラーリとしては定番、現在でも維持されているカラーリバリーとともに、イタリア・ウンブリア州ペルージャで初登録された。
それから約四半世紀後、2015年にフランスへと移されたこの魅力的なGTBターボは、2022年3月にフェラーリの有名なクラシックディーラー「シャルル・ポッツィ」によって、5万ユーロを超える費用を投じたエンジンのフルオーバーホールを受けることになる。さらに同年10月には、5000ユーロ以上の費用を掛けたABSシステムの交換により、さらなるブラッシュアップが施されている。
また、今回のオークション出品に際しては、純正ツールキットとジャッキにくわえて、多数のインボイスシート、2021年に整備を担当したエンジニアが作成したレポート、「フェラーリ・クラシケ」発行のビルドデータが添付されているとのことであった。
そして、オークショネアであるRMサザビーズ欧州本社では、出品者との協議のもと「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うことを決定。エスティメート(推定落札価格)は7万ユーロ~11万ユーロに設定した。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、出品者の意に沿わない安値でも落札されてしまうリスクもあるものの、金額の多寡を問わず確実に落札されることから、ビッド(入札)が進むというメリットもある。
そして1月31日、パリ・ルーヴル宮の「サル・デュ・カルーゼル」を会場として行われた競売では順当にビッドが進み、終わってみればエスティメート枠内に到達する9万2000ユーロ、日本円に換算すれば約1500万円で落札に至った。
ところで、308シリーズの派出型に相当する「208GTBターボ/208GTSターボ」、そして328シリーズに相当する「GTBターボ/GTSターボ」ともに事実上のイタリア国内専用モデルだったことから、現在のクラシックカーマーケットにおける流通は、ほとんどEU圏内のみ。日本国内での流通は、並行輸入で上陸したごく少数のGTBターボ/GTSターボが、時おり専門ショップで売りに出ているのを見かける程度である。そのかたわら、現況のヨーロッパにおけるGTBターボ/GTSターボのマーケット価格は、比較的近いコンディションの328GTB/328GTSと大差ないとされている。
今回の落札価格も比較的リーズナブルといえる範疇にあったものの、もともとの生産数が少ない上に、マーケットでのレア度でもターボがひと回り上であることから、いずれは国際オークションなどでも328シリーズより大幅に高額で取り引きされる可能性も、決して低いものとはいえない。
それが現状における、筆者の見立てである。
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サーキットの狼ですら取り扱ってもらえなかった珍車