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悪夢のアクシデントを乗り越え、美しく蘇ったイングラム家のポルシェ・コレクション 【動画】

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悪夢のアクシデントを乗り越え、美しく蘇ったイングラム家のポルシェ・コレクション 【動画】

80台にも及ぶ歴代ポルシェが揃えられたコレクション

アメリカ合衆国ノースカロライナ州には、イングラム家の素晴らしいポルシェ・コレクションがある。二世代にわたる情熱の結晶は、ある悲劇的な出来事を乗り越えて美しく再生された。

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時として、魔法が起こる場所がある。過去の一部を内包し、約束された未来がありながら、まだその日が訪れていない場所。もしあなたがイングラム家のポルシェ・コレクションを訪れる幸運に恵まれたなら、その理由のすべてを感じることができるかもしれない。

まるで魔法のようでもあり、歴史を垣間見ながら、壮大な未来をも予感させる。1990年代後半から、ボブ・イングラムと妻のジーニーは、ポルシェの70年に及ぶ歴史を代表する80台ものコレクションを集めてきた。ノースカロライナ州ダーラム出身の夫妻は、息子のローリーとカムと共に、ポルシェへの情熱を分かち合っている。

グミュントから最新世代のスピードスターまで

このコレクションを見学していると、まるで時間旅行をしているような気分になる。オーストリア・グミュントで製造された初期の356に始まり、991世代の911 スピードスターなどの最新モデルまで、数十年にわたるコレクションが展示されているのだ。

「これらのクルマたちをこの場所でコレクションできていることに、誇りと同時に光栄にも感じています。これらの貴重なポルシェたちに触れていると、かつてのオーナーたちが注いできた情熱を感じることができるのです」と、目を輝かせながら78歳のボブ・イングラムは語ってくれた。

「特に古いモデルに関しては、そういった精神を掲げてクルマを未来に残していきたい。世界中にこれだけ熱心なファンを持つ自動車メーカーは他にはありませんから」

息子のカム・イングラムは「最もエキサイティングなのは、それぞれのクルマの背後にあるストーリーです。有名なレースで活躍した戦績や、共に過ごしてきたオーナー自身の歴史だったりします。コレクションを通じて、私たちはクルマと人々が紡いできた現代史の一部になれるのです」と、付け加えた。

ほぼ全てのクルマが今も走行可能な状態に

イングラム夫妻は、生きたコレクションにしたいと考えており、それは2つの方法で表現されている。まず、週末に家族で出かけたり、クラブミーティングやレースイベントに参加するなど、定期的にポルシェを走らせている。つまり動かない置物ではなく、自動車として使える状態にキープされているのだ。

「私たちのコレクションは、すぐに運転できる状態にしておくことを心がけています。1960年代に製造されたポルシェ906 カレラ6のようなレーシングカーも含めて、ほぼすべてのクルマが公道用に登録されています」と、ボブ・イングラム。

ただひとつの例外がある。それは、2018年にポルシェ70周年を記念して製造された「935/78」。77台のみが限定生産されたこのスーパースポーツはサーキット専用車であり、公道走行は許されていない。そしてこのコレクションは、チャリティイベントの舞台としても機能している。イングラム夫妻は自分たちの情熱を個人的に楽しむだけでなく、コレクションを多くの人たちと共有する機会を楽しんでいる。

「私たちの目的は、人々が快適に楽しく過ごせる場所を作ることでした。アート、美しい環境、そしてたくさんの思い出が存在する空間です」と、ジーニー・イングラム。

初めて出会ったポルシェ911 Sの衝撃

ボブ・イングラムは、彼の所有する数多くのポルシェに乗るたびに、1971年に知人が所有してい911 Sに初めて乗ったときのことを思い出すという。それは、彼の心に深く深く刻まれた体験だった。「エンジンがかかった瞬間、機械音のシンフォニーが始まったんです」と、ボブ・イングラム。45分後、彼は自身でハンドルを握ることを許された。

「最初は完全に緊張して、エンジンをストールさせてしまったんですよ(笑)。でも、あの空間、あの匂い、あのサウンドは、他のクルマとは比べ物になりませんでした」。帰宅した彼は、妻のジーニーにこう言った。「いつかはポルシェに乗るんだ」と。

この強い思いが現実となるまでには、まだしばらく時間が必要だった。若い夫婦にとって、まずは生活していかなければならなかったのである。ボブ・イングラムはイリノイ州の田舎町チャールストンの出身で、彼が言うところの“質素な環境”で育った。彼が初めてお金を稼いだのは、校舎の隣にあるシングルマザーが経営する雑貨店。以来、彼は必死に働き続けてきた。

「免許を取ったときに街で一番かっこいいクルマを買うため、全部貯金していましたよ」と笑顔で振り返る。そう、ポルシェに出会う前から、インディアナポリスやセブリングにレースを見に行ったり、たまにドラッグレースをしたりするほど、彼は“カーガイ”だったのだ。

大手製薬会社のCEOとして活躍したボブ

キャリアの面でも良い方向に向かっていた。学業を終えたボブ・イングラムは、製薬会社の営業担当者として働き始めた。この仕事で彼は業界のトップに立つことになる。長年、世界最大級の製薬会社のCEOを務めてきたのだ。しかし、トップの生活には様々な問題がつきものとなる。「現役中は19回も引っ越しをしました。妻と息子たちには今でも感謝しています」と、ボブ・イングラム。

「ワイルドな時代でした。でも、家族として団結することがいつだって一番大切なことでした」と、ジーニーは当時のことを振り返っている。

イングラム家の息子たちは、それぞれが独自の活動を行っている。長男のローリーは、イングラム・コレクションを管理するとともに「イングラム・ドライビング・エクスペリエンス(Ingram Driving Experience)」を創設。元F1ドライバーで、ポルシェのブランドアンバサダーを務める友人のマーク・ウェバーと共に、モータースポーツ愛好家向けのプライベート・レースイベントを開催している。一方次男のカムは、父親とともに希少価値の高い自動車の研究を行っている。

一家を襲ったガス爆発という悪夢

しかし、すべてが順風満帆というわけではない。2019年4月、コレクションの大部分が収められていた倉庫の前でガス管が爆発。一家は悪夢を体験した。この爆発事故で2名が亡くなり、隣接する建物は大破。イングラム家のコレクションホールの屋根は崩壊し、収められていた貴重なクルマの約半分が、激しく損傷することになった。

「人生で最も悲しい日でした。怪我をされた方、大切な方を亡くされたご家族のことを思うと、今でも心が痛みます」と、ボブ・イングラムは悲しそうに振り返った。

Porsche 356 B Carrera GTL Abarth

ポルシェ356B カレラGTL アバルト

わずか4ヵ月で修復された貴重なレーシングカー

事故後の作業で、コレクションの甚大な被害も明らかになった。4台のクルマが取り返しのつかないダメージを受けてしまったのだ。その中には、スウェーデンから手に入れた非常に珍しい「ポルシェ356B カレラGTL アバルト」も含まれていた。タルガ・フローリオやル・マン24時間レースなど伝説的なレースで活躍し、その価値は数百万ドルにも達する。

しかしそれ以上に一家を悩ませたのは、すでに決まっていたあるスケジュールだった。このポルシェ356B カレラGTL アバルトは、ペブルビーチで開催されるコンクール・デレガンスに参加する予定だったのだ。招待客のみが参加できるこのイベントまで、あと4ヵ月しかない。

「ペブルビーチの参加は私たちにとって本当に光栄なことでした」と、ボブ・イングラム。炎上した残骸を前にして、彼は息子と顔を見合わせ「このままでは間に合わない・・・」と思わず声に出していたという。「この事実を認めるのは、私たち全員にとって辛いことでした」とカム・イングラムは語る。

その後の数週間、カム・イングラムと彼のチームはワークショップに住みこみ、それこそ1日16時間働き続け、ゼロからクルマを作り直した。「幸運だったのは、その豊富なレース歴にもかかわらず、この個体がアクシデントなどで大きなダメージを受けた経験がなかったことです」と、カム・イングラムは振り返る。

アルミ製ボディはもちろん、シャシーも素晴らしい状態を保っていた。この年代のレーシングカーにありがちなダメージを受けなかったからこそ、通常であれば何年もかかる修復作業を、たった4ヵ月で終わらせることができたのである。

2019年のペブルビーチでウイナーを獲得

ペブルビーチでの完璧なお披露目に間に合わせるための修理は奇跡的に完了した。「非常に感動的な瞬間でした。この経験は私たち家族の絆をさらに深めてくれました」と、ボブ・イングラムは目を細める。

カム・イグラムは、常々父親から「自分自身に問いかけなさい」と教えられていた。「自分の目標は何か。そして、そのために自分は何をすべきか・・・」。この時の目標は明確だった。家族のため、未来のため、そしてポルシェへの愛のために、このコレクションを魔法のように蘇らせなければならない。

その努力が実を結び、完璧にレストアされた356B カレラGTL アバルトは、コンクール・デレガンスでクラス優勝を果たした。「あれは、言わば超現実的な体験でした」と、ペブルビーチの美しい芝生の上を父親と一緒にトロフィーを受け取りに行った時の光景をカム・イングラムは振り返った。

「このような不屈の精神は、まさにポルシェの特徴であり、ポルシェというブランドから生まれたものです。チャンスがあるならば、絶対に諦めない」と、ボブ・イングラム。1971年に初めて911 Sに触れた瞬間から、その情熱は彼の中で燃え続けている。

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みんなのコメント

3件
  • 素晴らしいコレクション…
    水冷911CS乗っているけど、空冷911も所有したい。
  • イングラムって言われたら
    サブマシンガンか?って思ってしまうわな
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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