山梨県は10月28日、「富士山登山鉄道構想事業化検討に係る中間報告書」を公式サイトで公開した。有料道路の富士スバルライン上にLRT(次世代路面電車)を敷設する案を想定し、技術的課題には対応可能だとされた。
◆富士スバルライン上に次世代路面電車を敷設
富士山の価値を守り、さらに高め、今後の日本の観光のあるべき姿を体現していくための試みとして、富士山登山鉄道構想検討会において2021年2月、「富士山登山鉄道構想」が策定さた。構想では、これからの富士山五合目アクセス交通のあり方および登山鉄道の基本方針として、富士スバルライン上にLRTを敷設する案を想定し、整備イメージや事業運営に関して検討してきた。
富士スバルラインに登山電車、1兆5600億円の経済効果---山梨県が事業化に関する調査結果を公表
10月28日に発表された「中間報告」は、9月20日に公表された「富士山登山鉄道官民連携方策検討調査」の概略に、技術課題の検討を加えたものだ。構想の現状、事業化の方向性、技術的課題などについて説明されている。主なポイントは以下の通り。
◆事業化に関する検討
事業化については、鉄道・駅舎は県が、車両・付帯設備は民間が整備所有し、民間が独立採算で運営する「上下分離」が官民のリスク分担として最もバランスが取れていることがわかった。
この方式だと、40年間運用、年間利用者数300万人、設備投資額合計1486億円の想定で、県も民間も採算がとれる。利用者が50%減少したり、設備投資額が50%増えたりした場合でも黒字を維持できる。鉄道・周辺事業一体での経済波及効果は40年間運用で累計1兆5600億円になり、延べ12万0273人の雇用効果がある。
◆技術課題に関する検討
LRT導入に関しては複数の技術的課題が想定され、それらについては解決方法があり対応可能だとされた。
勾配:富士スバルラインの勾配に対して、晴天時は発進・加速・定速走行に必要な粘着係数(車輪とレールの粘着度を表す)は確保できるとする。雨天時に勾配4%以上で、30km/hからの加速において車輪が空転する可能性があるが、増粘着剤散布装置などによって解決できるという。
曲線と勾配の競合個所:急勾配に対応するために粘着係数を高めると、急カーブで乗り上がり脱線を引き起こす可能性がある。これに対して、脱線防止ガード(内軌=カーブの内側)と外軌ゲージコーナ潤滑(レールゲージコーナとフランジ直摩抑制)を施す。
架線レス給電:LRTへの給電については、第三軌条(線路脇に給電用レールを設置する)とバッテリーとの併用が適しているとされた。早期実装を進める観点では第三軌条集電方式が実績があり優位性がある。しかし、途中駅周辺や人が線路を横切る区間のほか、急曲線区間があることを考慮すると、全線では施工せず、一部区間でのバッテリー走行が必要になる。
ブレーキシステム:回生ブレーキ、機械ブレーキなど複数のシステムを組み合わせる。
車両タイプの床面高さによる比較:低床型ではなく、床下に各種機器が積載される「普通型」が適している。低床型では、鉄車輪の摩擦力をあげるための噴射装置や第三軌条集電器など、走行に欠かせない機器の搭載が困難だ。
単線・複線における輸送力の比較:複線軌道の方が適していることがわかった。
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