販売が前提のバンコクショー
先進国のモーターショーが相次いで人気を落としている中で、今もなお多くの来場者を集めているのがASEANで開催されるモーターショーだ。
特にASEANナンバーワンの自動車生産国のタイではモーターショーへの関心が高く、毎年3月と11月に2回開催されるほど。その背景には、これまで需要の中心だったピックアップやMPVなどから、近年は個人所得の増加に伴い、よりパーソナルなSUVやスポーティカーに人気が集まるようになったことがある。
加えてタイも含め、ASEANで開催されるモーターショーではショー自体が予約販売の受注会場となっている特殊事情もある。会期中はゼロ金利キャンペーンなど様々な期間限定特典が付与されるため、それを目当てに来場する人も多いのだ。
そんな中、「バンコク国際モーターショー(BIMS2024)」で圧倒的な存在感を示していたのが中国ブランドだ。これまではタイに限らず、ASEANにおいて日本車は9割を超える圧倒的シェアを維持してきた。しかし、2023年は中国ブランドの台頭により、日本車のシェアは78%にまで落ち込んでしまった。
それだけにショーにおける中国ブランドの展開が気になっていたのだが、会場に足を踏み入れるとその状況は想像をはるかに超えていた。中国勢は日本メーカーとほぼ同数のブランドを出展し、その面積は日本車を凌駕するほどだったのだ。しかも、その大半がEVでの展開。日本車がガソリン車とハイブリッド車を中心としていたのとまさに対照的な展開だったと言える。
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BYD(比亜迪股份)
そんな中、中国ブランドで最も広いエリアを展開していたのが、タイのEV市場で4割のシェアを持つBYDである。その面積は、毎回、最大としてきたトヨタ/レクサスとほぼ同じ。そこにメインのBYDのほか、ヤンワン(Yangwang)、デンツァ(DENZA)、フォーミュラ・バオ(Fomula BAO)の計4つのブランドを出展した。
現時点でBYDがタイで展開する車両は、日本と同じ「ATTO3(アット3)」「DOLPHIN(ドルフィン)」「SEAL(シール)」の3車種に限られるが、すでにミニバンの「DENZA D9(デンツァ D9)」の受注を日本よりも先に開始しており、年内にも右ハンドル車での納車が始まる。人気が高いアルファードのミニバン市場にもEVで切り込む計画だ。また、最もコンパクトな「SEAGAL(シーガル)」も出展した。
すでにタイでは、日本より先行してSEALの納車も始まっており、DENZA D9が導入されることになれば、タイはアジアにおける右ハンドル車エリアでももっとも充実したラインナップを展開することになる。
2024年の第3四半期にはBYDもタイ国内でEV製造を開始するが、その生産能力は年15万台。ここからアジア太平洋地域(ASEAN)にも供給され、同じ右ハンドル車ということで日本やオーストラリアなどへの供給拠点となる可能性もある。まさにBYDにとってタイは、第二のグローバルな生産基地を目指しているといっても過言ではないだろう。
GWM(長城汽車)
次に広い面積で展開したのがGWM(長城汽車)だ。中でも人気が高いのが2020年から導入を開始した「ORA GOOD CAT(オーラ グッドキャット)」で、このクルマは発表後48時間で6000件以上の受注を獲得したことで注目を浴びた。BIMS2024では、昨年末に発表したORAシリーズの上位モデル「ORA 07(オーラ 07)」を展示したほか、新たにピックアップとしてPOERの新型モデル「SAHAR(サハール)」のハイブリッド車を発表して先行予約も開始した。
また、GWMは都市部のヤングファミリーなどを意識したHAVALブランドのSUVシリーズ「JOLION(ジョリオン)」をハイブリッド車で追加している。すでに南アフリカやサウジアラビアで販売トップ3に入っており、タイでもプロモーションに人気アイドルを起用して販売促進を図っていくとした。
MG(上海汽車)
タイ国内で知名度が高いMGもGWM並みのスペースで展開した。MGそのものは100年以上の歴史を持つイギリスの名門スポーツカーブランドだが、2005年に南京汽車に買収され、その2年後に今度は南京汽車が上海汽車(SAIC)に買収された。現在はハッチバックやSUV、MPVまで幅広い車種を展開している。
そのMGがスポーツカーとしての名門の返り咲きを狙うかのように発表したのが、オープン2シーターのスポーツEV「Cyberstar(サイバースター)」だ。昨年のミュンヘンモーターショーで発表されたが、右ハンドルはこの時は初めての発表となる。
MGはその他にも、昨年のBIMS2023で発表された大型ミニバン「MAXUS 9(マクサス9)」の姉妹車種として、サイズを少し小さくした「MAXUS 7(マクサス7)」を発表。共にEVだが、“7”は手頃なサイズ感が人気を呼んでいる様子だった。
GAC(広州汽車)/NETA(合衆新能源汽車)
「AION(アイオン)」ブランドで2023年9月にタイ市場に参入したのがGAC(広州汽車)。24年7月までにはタイ国内での生産をスタートさせる準備を進めており、そこで生産されるのがSUV型EV「Hyper HT」だ。一見すると普通のセダンだが、リアドアをガルウイング式とする奇抜な構造が注目を浴びた。会場ではすでにその先行受注が始まっていた。
2024年第一四半期にタイ国内工場を稼働開始予定のNETA(合衆新能源汽車)は、そこで中国モデル「NETA AYA(ネタ アヤ)」を「NETA V-II」として生産する。また、第二四半期からはSUVの「NETA X」もタイ国内で生産予定だ。
中国車 新規参入組
そして、BIMS2024に新たに出展したのが、「Xpeng(シャオペン)」「DEEPAL(ディープエル)」「ZEEKR(ジーカー)」だ。
Xpeng(小鵬汽車)は2024年内にタイ市場へ参入し、合わせてファストバックスタイルの「G6」を9月頃に発売することを明らかにした。また、会場には2025年Q4にも量産を開始するとしている“空飛ぶクルマ”ことeVTOL「Xpeng X2」も展示されて注目を浴びていた。
DEEPAL(長安汽車)が出展したのは、50万バーツ以下の低価格EV「Lumin」だ。可愛らしさを前面に打ち出し、“日常の足”として使えるEVを謳った。反対にひたすら高級路線を打ち出したのがZEEKRだ。「007」「009」「X」の3モデルを出展し、まずはXから夏頃を目途に発売を開始するとしていた。
ヒョンデ/ビンファスト/Euro
その他、韓国のヒョンデはいち早くタイ市場には進出していたメーカーのひとつ。スターリアなどハイブリッド車も発売中で、ガソリン車を含めた幅広いラインナップが人気を呼んでいる。EV展開についても積極的で、近年は「IONIQ 5(アイオニック5)」の投入で存在感を高め、今回は上位車「IONIQ 6(アイオニック6)」をタイ市場でも発売することをアナウンスして注目を浴びた。
また、ベトナムの「VinFast(ビンファスト)」が初出展。今回は販売には結びつかなかったようだが、そのラインナップはタイで人気のピックアップまで揃える豊富さで注目を集めた。PR効果は十分だったようだ。
ヨーロッパ勢では、BMWやメルセデスベンツ、アウディ、ポルシェ、ボルボなどが出展。他にベントレーやロールスロイス、Jeepなども含まれ、欧米のブランドがここまで出展しているのは、先進国で開催されるモーターショーではもはや見られない光景だ。販売が伴うとは言え、そうした点も含めてモーターショーのあり方を見直すべき時期に来ているのかもしれない。
日本車
怒濤のようにEV攻勢をかける中韓勢に対し、日本メーカーはどう立ち向かったか。実は日本車がEVを展示する様子はほとんど見かけなかったが、そんな中でもBIMS2024でEVを新たに発表したのがホンダといすゞだ。
ホンダは2022年4月に中国初のホンダEVとして発表された「e:NS1」と「e:NP1」のタイバージョンを、タイ国内で2023年12月より生産を開始しており、このショーにおいて発売の具体的な概要を発表した。これにより日系ブランドとしてEVを販売しているのは、日産「リーフ」、トヨタ「bZ4X」などに続く3社目となる。ただ、e:NS1の販売はレンタカーのみを対象としているのが違う。
いすゞは、同社初のピックアップトラック「D-MAX」(参考出品)のEVを世界初公開した。新開発されたeアクスルによるフルタイム4WDシステムを搭載し、高い悪路走破性およびBEV特有のリニアな加速感と、低騒音・低振動を両立させた。販売はまずEV先進国のノルウェーから2025年にも開始し、順次タイを含む他のエリアにも展開する。また、会場では日本で発売している「エルフEV」の参考出品も行われた。
トヨタは「ハイラックスRevo」のEV版を2025年中にタイで生産・販売することを発表した。ただ、日本車のEV出展はここまで。トヨタが発表したのは、日本では展開していない「カローラクロス」の“GRスポーツ”。売れ筋の車種をハイブリッドで対応していくことを明確に訴えた。
日本メーカーは、基本的にガソリン車やディーゼル車をラインナップした上で、環境対策車としてはハイブリッド車を核として展開する内容となっていた。
日本車がEVに消極的な理由
どうして日本メーカーがここまでEVに消極的なのか。それには理由がある。EVにとって充電インフラの整備はきわめて重要だが、タイ国内でその整備は大都市周辺部に限られるのが現状だ。中国車は大都市周辺に住む富裕層に需要がある上に、富裕層は自宅に電源を用意することもできる。
一方で地方部になると充電インフラは未整備の状態で、しかもEVを充電できるだけの電力契約を持っていないことがほとんどだ。つまり、地方の隅々まで浸透している日本車にとっては、こうした事情を踏まえた上での販売戦略を採らざるを得ないのだ。
タイ政府もそのあたりの状況は認識しており、EV普及策を奨励する一方で、使い勝手が良く環境負荷が低いハイブリッド車やバイオ燃料を使う内燃機関車(ICE)の普及にも期待を寄せる。もちろん、日本メーカーもEVが選択肢の一つであることは百も承知だ。ただ、ここで中国車を迎え撃つべくEVシフトを進めれば、それは価格競争という負の連鎖に陥りかねない。
それでも、タイの自動車市場が大きく変わりつつある時期にさしかかっているのは確かだ。日本メーカーが今までのシェアを守り抜くのは相当厳しい状況になっているのは間違いなく、今後は強みのあるハイブリッド車の車種を増やしつつも、価格競争力のあるEVの投入が不可欠になってきているのかもしれない。
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