いよいよ6月12日、フランスのサルト・サーキットで行われる第92回ル・マン24時間耐久レース。LM-GT3クラスには多くの日本人ドライバーが参戦するが、今回が5回目のル・マン24時間参戦となるDステーション・レーシングの星野敏は、今回の挑戦が自身にとっての最後のル・マン参戦になると明かし、今季はなんとしても完走を成し遂げたいと語った。
2021年からWEC世界耐久選手権に参戦し、いまやアストンマーティンの中核チームのひとつとして世界中でその名を知られるDステーション・レーシング。2013年、星野がポルシェカレラカップへの挑戦を開始したのがスタートで、国内外でさまざまな挑戦を展開し、2017年からはチームとしてスーパーGTへの挑戦も開始。2019年からはアストンマーティンを使用していた。
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そんなチームの主役のひとりが星野。いまや日本を代表するジェントルマンドライバーのひとりだが、2021年からWECに参戦を続けており、今季は5回目の挑戦となる。ただ実は2023年の第6戦富士を最後に、WECへの挑戦を止めるつもりだったのだという。実際に、2023年10月にはDステーション・レーシングの仲間たちを集め、サプライズで星野のWEC挑戦をねぎらうパーティも行われていた。
ただ、チームのマネージングディレクターである藤井誠暢は、星野にル・マン24時間だけの出場を打診したという。今季、LMGT3に変わり多くのマニュファクチャラーが参戦を希望するなか、Dステーション・レーシングが権利を獲得できるか分からなかった。結果的にアストンマーティンの一翼として新体制での参戦が決まったが、新たな体制を作るなかでの唯一の心残りが『星野にもう一度ル・マンを完走して欲しい』という願いだった。
「実際にWECに参戦する権利が取れて、自分はマネージングディレクター兼WECチーム代表として新たな体制でチームを動かしていくときに、『落とし物はないかな?』と確認したんですが、やはり星野さんにル・マンをもう一度完走して欲しかったんです」と藤井は語った。
■ル・マンでふたたび完走するために
星野の挑戦の歴史はこれまで、藤井のマネージングとともにあった。モータースポーツへの強い憧れ、そして「ル・マン24時間に出たい」という星野の思いを実現するために、藤井はあらゆる努力を惜しまなかった。2018年にはWEC富士でプロトン・コンペティションのシートを獲得し、そこでの好走が翌年のル・マン出場に繋がった。ただ、星野の初めてのル・マン挑戦はほろ苦い結果だった。
2019年、星野にとっての初めてのル・マンは思わぬストーリーから始まった。チームメイトのマッテオ・カイロリのドライブで、いきなりLM-GTE Amクラスのポールポジションからスタートすることになったのだ。大きなプレッシャーがかかるなか、十分な練習時間ももてず、レースではスピンや接触が相次ぎ、星野は立ち直れないほどのショックを受けてル・マンを後にしていた。
ある意味、星野がもっていた「ル・マンに出たい」という夢はこの時点で叶っていたが、藤井は星野に「ル・マンで完走する」というさらなる夢を叶えるために、クルマなどの自由が効き、自らが乗り込んで星野のためにセッティングをして戦えるチーム=Dステーション・レーシングでのWEC参戦を目指し、それを2021年に叶えてみせた。そしてその年、ノーミスで戦い抜いたル・マンでは6位という結果を残した。
ただその後2年間は、世界中のレーシングチームが欲しくても入手できないWECの参戦権利を獲得しつづけ、ル・マンへの連続出場を果たしていたものの、なかなか完走という結果は訪れなかった。2021年の完走で大きな感動に包まれた星野は、ル・マンについてある程度満足はしていたことから、先述の「2023年まで」という結論に至っていたのだが、やはり気持ち良く完走するという思いは果たせていなかった。それを成し遂げるためのレースが2024年のル・マンであり、目標は「初心に戻って完走で締めくくり、挑戦を最後にする」というもの。ノーミス、ノートラブルならばベストだ。
■好調な走行初日を終える
迎えるル・マン24時間。星野は公開車検から多忙なスケジュールをこなしながら、チームメイトとなるエルワン・バスタード、そしてスーパーGTでも起用したマルコ・ソーレンセンとともにレースウイークを送っている。
昨年との大きな違いは、車両がLM-GTEからLM-GT3に変更されたことだ。アストンマーティン・バンテージAMR GT3はエボリューションモデルになり、すでに星野もGTワールドチャレンジ・アジアでドライブしているが、「乗り心地はGTEの方が良かったですね。安定性が違います」と星野は語った。「ただ、GT3の方がブレーキングは安心できます」とも。大きな違いはGTEの方がダウンフォースがあり、「ポルシェカーブやインディアナポリスなどはGTEの方が楽でした」という。
「タイムでも昨年に比べて4秒くらい落ちています。なかなか6速に入らないですね」
チームについても、「今年はソーレンセン選手、バスタード選手のふたりは全戦完走していますし、堅実かつ速いドライバーです。ふたりから良いところを吸収してしっかり完走し、上位を目指したいですね」という。
6月12日のクオリファイ・プラクティスでは、ソーレンセンのアタックで8番手に食い込み、6月13日には星野のアタックで、ハイパーポールを争うことになる。ここまでの流れは非常に良く、星野も無用なプレッシャーがかからずリラックスしてレースウイークを戦っている。
もともとアスリートで、ストイックにモータースポーツの世界を追求してきた星野。その最後のル・マンは寂しいところもあるが、挑戦の集大成のひとつとも言えるだろう。見事目標を果たすシーンを心待ちにしたい。
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