ファイナルステージのクライマックスで複数台が絡むマルチクラッシュが発生し、今季初勝利目前だったフォード陣営の夢が打ち砕かれた混沌の週末。典型的かつ熱狂的なフィナーレを迎えたタラデガ・スーパースピードウェイでの2024年NASCARカップシリーズ第10戦『ガイコ500』は、チェッカーまであとわずかの距離で、複数台の衝突をくぐり抜けたタイラー・レディック(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)が今季初優勝。キャリア通算6度目の勝利を手にするとともに、チーム共同オーナーのひとりに名を連ねる“MJ”ことNBA界のレジェンド、マイケル・ジョーダンも現地で勝利を祝福した。
例年、数々の“カオス”を演出してきたアラバマ州のトライオーバルだが、今季の決勝序盤はいつもと異なる展開に。その予兆は土曜シングルカー予選の時点から始まっており、2021年デイトナ500覇者マイケル・マクドウェル(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)がカップ通算2度目のポールを獲得すると、フロントロウ2番手にはオースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)と、高速スーパースピードウェイで今季投入のマスタング"ダークホース"カップカーが速さを見せる。
チェイス・エリオット、42戦ぶり待望の復活勝利で二度のオーバータイム決着を制す/NASCAR第9戦
これで主導権を握ったフォード陣営は、34号車マクドウェルが車列内でクルマを温存しつつ、ステージ1はシンドリックが、ステージ2は2022年王者ジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)が制覇し、同地ステージレース導入以降初の“ノーコーション”で最終ステージに突入する。
そんな序盤の静けさが伏線となったか、ここからレースは対照的な荒々しさを示し始め、中段でチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)のプッシュを受けたジャスティン・ハーレイ(リック・ウェア・レーシング/フォード・マスタング)が、姿勢を乱しクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)に激突。その余波でチェイス・ブリスコ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)らもトラックを外れ、この日最初のコーションとなる。
さらにジョシュ・ベリーとノア・グラグソン(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)のSHR艦隊が率いたのち、終盤となる残り33周の時点でダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリXSE)と絡んだエリック・ジョーンズ(レガシー・モーター・クラブ/トヨタ・カムリXSE)が、ノーズから激しくウォールにヒット。その衝撃の大きさから、ジョーンズはインフィールドケアセンターでチェックを受けたのち地元の救急病院へと搬送される。
このアクシデントにはデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)やジョン・ハンター・ネメチェク(レガシー・モーター・クラブ/トヨタ・カムリXSE)らも巻き込まれ、トヨタ陣営にとっては新型カムリXSEが大挙してレースを失う厳しい展開となってしまう。
迎えた残り27周のリスタート。隊列を牽引したのは雌伏のときを過ごしてきた“ポールシッター”のマクドウェルで、34号車ダークホースの背後にはブラッド・ケセロウスキー(RFKレーシング/フォード・マスタング)を筆頭にフォード艦隊が陣取る。
一方で、その後ろのハイラインにはJGR艦隊の生き残りであるマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)やタイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリXSE)が、23XIのレディックと共闘してフォードの牙城を崩しに掛かる。
■マイケル・ジョーダン「バスケットと違い、ここでは完全なコントロールなどできない」
ここからフィニッシュまで、実に10回のリードチェンジを繰り返したマクドウェルvsレディックの勝負は、ホワイトフラッグで劇的な決着を迎える。
ハイラインのレディックにはトゥルーエクスJr.が、ボトムのマクドウェルにはケセロウスキーが、お互いにサポート役を従えつつ最後のリードアウト勝負へ突入すると、ターン4の攻防で伸びてくるドラフティング組を牽制しようと複数回のスイッチを見せたレースリーダーの34号車が「ブロックに入るのが少し遅れた」ためケセロウスキーの6号車とまさかの交錯。
そのままハイバンクの彼方へ高速スピンオフを喫し、スロットル全開の後続も大混乱に陥る悪夢の展開に。これで決勝ベストの36周をリードしたマクドウェルは、最終的に31位というリザルトに甘んじることとなった。
「僕らは(決勝を通じて)マスタングのダークホースたちを先頭に立たせることができた。最後の彼(ケセロウスキー)はすべてが正しかったし、彼は僕を押してくれていたんだ。映像を見返したいが、こんな結末は望んでいない。速いクルマがありながら勝利を逃したばかりか、多くの人を巻き添えにしてしまった……。ケセロウスキーの勝利を実質的に犠牲にしたこともお詫びしたい」と失意のマクドウェル。
ここで複数台の衝突をかろうじて回避したのがハイラインにいたレディックで、ラインを守り抜いたカムリXSEの45号車が、接触からの回避行動でわずかに失速したケセロウスキーに先着。ノーズに輝くMJの象徴“ジャンプマン”を先頭でゴールラインへと導いた。
「信じられないよ、なんて気の狂った連中なんだ!」と、グランドスタンドのフェンスによじ登って観客の大歓声に応えた勝者レディック。
「かなりの混沌だったが、これこそ皆にとってのタラデガだ。そしてタイ・ギブスとマーティン・トゥルーエクスJr.に多大な敬意を表しなければならない。トヨタで残ったのは僕らだけで、彼らは全力で僕を押してくれた。彼らのプッシュがなければ僕はここで勝てていないと思うよ」
そして、現地観戦で初めて自身のチームの勝利をお祝いした“神様”ジョーダンは「チーム全体が良い仕事をした」ことを強調する。
「デニー(・ハムリン/23XI共同オーナー)は『今日の僕は運が悪かった』って言い続けているが、どうやら今日は彼が間違っていることをチームが証明した。ここに観に来られてとてもうれしいし、勝てば誰もが祝福の言葉をくれるが、そこにいて一緒に祝えたのはこれが初めてだ」と続けたジョーダン。
「ご存知のとおり現在NBAはプレーオフを迎えているが、私にとってこれが NBAプレーオフのようなものさ(笑)。スポーツ自体をサポートしてくれるファンのことをとてもありがたく思うし、この地位に辿り着くまでメンバー全員が大変な仕事をしてきた。チームが注いだ努力にとってはとても意味のある勝利だよ」
「もしこれがバスケットなら、私自身がすべてを完全にコントロールできるだろうが、ここではそんなコントロールはできず、その分だけドライバーやクルーチーフの代わりに私も全力で取り組んできた。23XIには110%、とても満足している」
土曜夜に併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第9戦『Ag-Pro 300』は、都合2回にわたる典型的なオーバータイム決着を制した19歳のジェシー・ラブ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)が、雪辱を果たすシリーズ初勝利を手にしている。
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