■2022年は「MT車の復権」が目立つ、Z&タイプR&GRカローラ…なぜ続々?
2022年の自動車業界を振り返ると、EVをより身近なものにした日産「サクラ」および三菱「eKクロス EV」や、まったく新しいスタイリングへと生まれ変わったトヨタ「クラウン」など、例年にも増して話題が豊富な年だったように感じます。
ただ、これらの話題と同じかそれ以上に印象的だったのが「MT車の復権」ですが、いまMT車が注目されているのでしょうか。
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MT車が希少な存在となっている昨今にありながら、2022年にはトヨタ「GRカローラ」やホンダ「シビックタイプR」、そして日産「フェアレディZ」といったMT車のビッグネームが続々と登場したことに加え、トヨタ「GRスープラ」にもMT仕様が追加されました。
なかでも、GRカローラとシビックタイプRはMT仕様しか設定されておらず、現代では非常にめずらしいモデルとなっています。
日本の場合、1970年ころまではほとんどのクルマがMT車でした。1980年代頃から、新車販売台数におけるAT車の比率が急増し、現在では新車のおよそ99%がCVTを含むAT車となっています。
AT車の最大のメリットは、シフト操作やクラッチ操作が不要であることなどによる、運転のしやすさにあります。
かつては、MT車のほうがAT車に比べて燃費が良かったり、車両価格が安かったりするというメリットもありましたが、ATの技術が進歩した昨今では、そうしたことはほとんどありません。
誤解を恐れずにいえば、圧倒的大多数のユーザーにとっては、MTは積極的に選ぶべきものではなくなっているのが実際のところです。
こうした状況のなかで、MT仕様をラインナップするモデルが減少しつつあるのは極めて自然なことであるといえます。
にもかかわらず、2022年には前述したような多くのMT車が登場しました。
いずれのモデルも発売直後からオーダーが殺到し、フェアレディZやシビックタイプRは新車価格を大きく超えるプレミア価格で中古車市場に登場したことが話題となりました。
では、なぜいまになってMT車が復権しつつあるのでしょうか。そこには、現代の自動車業界における大きなトレンドが影響しています。
■いまでは「MTであること」が付加価値に
現代の自動車業界において、もっとも重要なキーワードのひとつとなっているのが「電動化」です。
電気自動車(BEV)や燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HV)など、電動車にはさまざまな形がありますが、いずれもモーターによって駆動もしくはアシストされている点が特徴です。
電動車は基本的に変速を必要としないため、「無段変速機(CVT)」が搭載されることがほとんどです。
逆にいえば、現在販売されているBEV、FCV、PHEV、HVにMT車は設定されていません。
カーボンニュートラルの実現を目指している日本では、今後段階的にガソリン車の新車販売を規制していく方針を打ち出しており、将来的には新車販売されるすべてのクルマが電動車になると予測されています。
そうした政策の是非はともかく、電動化が進めば進むほどMT車は減少していくことは日を見るよりも明らかです。
一方、現在においてはMTをあやつることによって、運転そのものを楽しみたいというユーザーが一定数存在することも事実です。
決して数は多くはないものの、そうしたニッチなユーザーのニーズを満たすために、各自動車メーカーはMT車の開発を進めるわけですが、そこにはコストという大きな壁が立ちはだかります。
MTとATの機構を比べると、ATのほうが複雑であるため、一見するとATの方が高価であるように思われます。
しかし製造業には、生産数が多ければ多いほど商品1つあたりの単価が低くなるという「規模の経済」の原則があり、これにのっとるとむしろ大量生産が難しいMTのほうがコストが高くなりやすいという逆転現象が発生します。
こうした背景から、昨今のMT車は、AT車と比べてむしろプレミアムなものにならざるを得ません。
その視点で見ると、シビックタイプRとGRカローラはいうまでもなく「シビック」と「カローラ」の高性能版であり、さらにフェアレディZやGRスープラも、国産車のなかでは比較的高価なスポーツカーであり、いずれもプレミアムモデルといえます。
思えば、かつてAT車が登場した当時には、「AT車であること」が付加価値となっていました。
しかし、AT車が市場を席巻した現在では「MT車であること」が大きな価値となっています。
こうした現状に加えて、今後クルマの電動化が進むことで、近い将来にMT車が絶滅してしまうかもしれないというユーザーの意識が、プレミアムなMT車に人気が集まる理由になっていると考えられています。
※ ※ ※
2022年12月、レクサスの欧州法人がコンパクトSUV「UX300e」をベースに、ギアレバーとクラッチペダルを備えた、BEV用MTの開発を進めていることを明らかにしました。
公開された動画を見ると、開発車両はEVであるにもかかわらず、エンジン音が車内に響きわたり、シフト操作に応じてその音が変化していることがわかります。
現在のところ、市販化の予定などは公表されていませんが、BEVでもMTを操作する楽しみを感じることができる可能性が示唆されています。
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トルコンによるダイレクト感のなさが嫌いなだけでシフトチャンジがしたいわけじゃない