1965年のカッスルクームで大クラッシュ
1964年10月には、南中部のチャーチ・ローフォードで開かれたスプリント・レースにイーガルは参戦。ロジャー・マック氏が駆る軽量なEタイプ・ロードスターを凌駕し、44.5秒というベストタイムを記録している。
【画像】V8エンジンのジャガーEタイプ「イーガル」 オリジナルのS1と近年のレストモッド例も 全90枚
シーズン最後となった中東部のオウルトンパークでは、最後にトランスミッションが破損してしまうものの、1964年全体では好成績を残した。
イーガルを製作したロブ・ベック氏とジェフ・リチャードソン氏は、純正トランスミッションがシーズン終了まで耐えることを願っていた。見事にそれは叶ったようだ。
1965年はボルグワーナー社製のトランスミッションに換装されるが、カッスルクーム・サーキットでのテスト走行中、高速コーナーでギアが抜けコースアウト。大クラッシュに見舞われるなかで、ベックは一命をとりとめた。
彼はその事故をきっかけに、勝利を追い求めなくなったらしい。甥のアラン・ブルックス氏が振り返る。
「ベックおじさんはそれ以来、穏やかになりました。叔父の母、わたしの祖母はまだ生きていて、レースで命を危険に晒していることへ不安を抱いていました。考えて、レースを諦めたようです」
1966年は、F1も戦ったレーシングドライバーのクリス・サマーズ氏が、リビルドされたイーガルを運転した。ベックとリチャードソンも、サーキットへ足は運んでいた。
ベックは、ブライトン・スピードトライアルに参戦。時速146マイル(234.9km/h)でフィニッシュし、クラス2位を奪取している。スピードに対する熱意は、完全には消えていなかったのだろう。
ドライバーを思わず笑顔にさせる個性
1967年になると、2人はバリー・ウィリアムズ氏をドライバーとして採用。「パワーが高すぎてグリップ力が足りず、運転は恐ろしいものでした。それでも第1コーナーの侵入には有利で、多くのレースで勝利しましたが」。と、後にウィリアムズが話している。
それ以降、ベックとリチャードソンはイーガルを売却。複数のオーナーを介して、1970年代半ばにトム・マッカラム氏が購入した。幼い頃からモータースポーツ・ファンで、自身もチューニングされたジャガーXK120やEタイプでの参戦経験を有していた。
「わたしもイーガルを思う存分楽しみました。ボブ・カーという人物と北部のドゥーン・ヒルクライム・サーキットのパドックで、自分のEタイプと交換したんですよ」。とマッカラムが振り返る。
「そのイベントでは、ヒルクライムへ参戦しました。ドゥーンのコースは手強いのですが、それでもイーガルはドライバーを思わず笑顔にさせる個性がありましたね。優勝もできました」
「別のクラシックカー・イベントでは、予選でポールポジションを獲得しています。2位はライトウエイトEタイプで、スポーツカーやオープンホイールのマシンが混戦するレースでした」
「本番が始まると路面はウェット状態になり、イーガルには適さないコンディションに。最終的には僅差の2位を掴んでいます」。とマッカラムが回想する。
アメリカのレストアで当初と違う姿に
彼が購入した時点で、イーガルはネイビーブルーに塗装されていた。ホイールはボラーニ社製のワイヤータイプから、現在も履いているJAピアース社製のアルミホイールに交換されていたという。
「グリップを強めるため、ダンロップのスリックタイヤに自ら溝を切って履かせていました。車高が低く、ヒルクライムでボディがバウンドしてもエグゾーストに当たらないよう、スキッドプレートも溶接しました」
「激しく走ると、火花が散るんです。楽しかったですよ。何よりトルクが凄かった。ちょっとやりすぎなクルマが大好きでしたからね」
1980年にマッカラムはスティーブ・モース氏という人物から電話をもらう。英国車用の部品製造業をロサンゼルスで営む人物で、単刀直入にイーガルを購入したいと希望を伝えてきたという。
「大切に乗っていたので、想定した価格を2倍にして提案しました。それでも彼はイーガルを諦めませんでした。住宅ローンと2人の子供を理由に、売却を決めたんです。ちょっと馬鹿げた考えでしたね。モースさんは25年ほど所有したようです」
さらに別のアメリカ人コレクターへ渡ったイーガルは、最近になって英国のジャガー専門家、クリス・キース-ルーカス氏のもとへやって来た。レストアされたばかりだったが、久しぶりに再会したマッカラムは仕上がりへ納得できなかった。
クルマを作ったベックとリチャードソンの頃とは、異なる見た目になっていた。キース-ルーカスも疑問を抱き、マッカラムへ相談したようだ。
ジャガーとフォードが融合したEタイプ
フロントノーズのエアインテークも、当時の画像と形状が違っていた。ボンネットが交換された可能性があった。記録写真をさかのぼり、1968年にエアインテークの形状が変えられていたことを発見したそうだ。恐らく、修復が目的だったのだろう。
キース-ルーカスは、クルマを調べるほど独創性の高い内容に関心を強めていった。1960年代にリチャードソンが手掛けた、ガス溶接の跡などにも惹かれたという。
結果的に、ボディシェルとフロント・サブフレームはオリジナルのままだった。シャシーには、2人が試行錯誤したトランスミッション用のブラケットが残っていた。見た目的には大幅に手が加えられていたが、内側ではイーガルは健在といえた。
キース-ルーカスが内容に納得すると、イーガルは新しい所有者のもとへ引き渡された。2021年の夏に開催された、英国のジャガーEタイプ・クラブの60周年記念イベントで、華々しく披露されている。
現在は違っているが、1960年代当時の姿へ戻す計画が立てられている。このクルマに関わった多くの人物が、過去を共有するために協力を申し出ているらしい。
1台限りといえる、ジャガーとフォードが融合したEタイプ。V8エンジンの響きには、1度体験すれば忘れることのできない衝撃がある。イーガルが人々へ与える興味や関心は、サウンドに負けないくらい大きなもののようだ。
協力:CKLデベロップメンツ社、クリス・キース-ルーカス氏、ジェームズ・フレイザー氏、アラン・ブルックス氏、トム・マッカラム氏、ピート・ストウ氏
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