つちやエンジニアリングの代名詞的存在だった86マザーシャシーだが、2019年いっぱいでこのマシンを使用しての参戦を終了することになった。
チームオーナーの土屋武士氏が「若い職人」を育てることを目的に長年使い続けてきたマザーシャシー。それは同時に、チームに携わったドライバーたちを成長させるマシンでもあった。
【連載】第1回:佐藤公哉「自分に繊細さと丁寧さが身についた」
それは代役参戦や鈴鹿1000km(2017年)や富士500マイル(2018年)での第3ドライバーという形でマザーシャシーのステアリングを握った近藤翼にとっても例外ではなかった。
2017年と2018年に同チームの第3ドライバーとして携わった近藤。特に両シーズンの第2戦富士では当時のレギュラードライバーだった山下健太(2017年)、坪井翔(2018年)がGT500クラスから参戦することになったことで、代役として25号車をドライブした。
「他のクルマとバトルになった時にマザーシャシーは無理が効かないクルマでしたね。どちらかというとGT3の方が乗っていて安心感があります」
現在はアストンマーティン ヴァンテージGT3でスーパー耐久(ST-Xクラス)を戦う近藤は、パフォーマンス面での違いを感じる部分がたくさんあったと語った。
「マザーシャシーは攻めるとピーキーになる一面があるので、(コントロールが)難しくなってしまいます。特に競り合っていて、いつも以上に攻めなければならなくなった場面で、それが顕著に現れてしまいます。だからバトルがなかなか出来ないというか……競り合いになると苦しくなるクルマでしたね」
他の25号車に在籍したドライバーと比べるとマザーシャシーでの走行経験は少なかったが、その中でも近藤は、収穫できたことは多かったと言う。特にメンタル面を鍛えられたようだ。
「(収穫は)すごくありました。僕はスポットでしか乗っていないですけど、マザーシャシーは(運転するのが)すごく難しいクルマなので、タイヤの使い方だったり、ドライビングの技術だったりはもちろん、特にメンタル面が鍛えられました。携わったのは短い期間でしたけど、(土屋)武士さんや松井(孝允)さんと一緒にレースをさせていただいて、勉強になることばかりでした。あと僕が関わった時には山下選手や坪井選手もいて、ふたりの凄さも間近で感じることができて、すごい貴重な経験をさせてもらいました」
25号車での経験が活きたのか、近藤は2017年の86/BRZレース(プロフェッショナルクラス)でシリーズチャンピオンを獲得すると、2018年ポルシェ カレラ カップ ジャパンでもチャンピオンに輝いた。25号車マザーシャシーで得られたものは、今でも彼のレースシーンで役立っているという。
「つちやエンジニアリングとマザーシャシーで経験したことは非常に為になっています。僕は今86レースやポルシェカップ、あとはS耐にも出ていますが、どのカテゴリーでも非常に役に立っています。武士さんから色んなことを教えてもらいましたし、また機会があればもっと教えてもらいたいなと思うくらいですね」
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