12月26日に65歳の誕生日を迎えたエイドリアン・ニューウェイは、伝説的なデザイナーとしてF1で輝かしい実績を残してきた。
ニューウェイはレッドブルの同僚たちとともにRB19を開発し、22戦中21勝を挙げて2023年のF1コンストラクターズチャンピオンシップとドライバーズチャンピオンシップの両方を制覇した。
■レッドブルで時代を築いたふたりの王者。完成度はベッテルに軍配?「技術的な面でフェルスタッペンは成長の余地がある」
しかし、伝説的なデザイナーが貢献したチャンピオンシップはこれが初めてではなく、14台のマシンがタイトルを獲得している。ここでは彼が手がけたチャンピオンマシンを紹介する。今回はその後編。
■レッドブルRB6
2010 F1 コンストラクターズチャンピオン(9勝)
2010 F1 ドライバーズチャンピオン - セバスチャン・ベッテル(5勝)
2010 F1 ドライバーズランキング3位 - マーク・ウェーバー
2006年、ニューウェイはレッドブルへの移籍を決断した。ジャガーを買収し、2005年にF1参戦を開始したばかりの新興チームに加わったのだ。
しかし、この移籍が実を結ぶのにそれほど時間はかからなかった。ニューウェイはレッドブル初のチャンピオンマシンとなったRB6の設計に携わり、久々のタイトル獲得となった。
RB6は、レッドブルに初勝利をもたらしたRB5の後継マシンであり外見もよく似ている。空力面では排気を利用してダウンフォースを生むブロウン・ディフューザーなどを武器に18戦中9勝を挙げ、2010年のコンストラクターズ選手権を制覇した。セバスチャン・ベッテルもまた、劇的な幕切れとなったアブダビGPで自身初のドライバーズタイトルを獲得した。
■レッドブルRB7
2011 F1 コンストラクターズチャンピオン(12勝)
2011 F1ドライバーズチャンピオン - セバスチャン・ベッテル(11勝)
2011 F1 ドライバーズランキング3位 - マーク・ウェーバー
RB7はF1史上最も速いマシンのひとつと言える。2011年は1戦(韓国GP)を除いてすべてのグランプリでポールポジションを獲得した。11勝をマークしたベッテルは4戦を残して2度目のタイトルを獲得し、1992年のナイジェル・マンセルを上回りシーズン最多ポールポジション記録(15回)を18回に更新した。
マルチディフューザーやFダクトが禁止された2011年の大幅なレギュレーション変更を、ニューウェイと彼のチームは見事に乗り越えた。その代わりにレッドブルは、ブロウン・ディフューザーを進化させた。排気管を延長し、リヤタイヤ内側に排気を吹き付けることで大きなダウンフォースを得た。低速時にも一定量の排気が得られるよう「オフスロットル・ブローイング」も使用した。
この年、リヤウイングのフラップを稼働させるDRSが導入され、自主規制されていたKERS(運動エネルギー回生システム)が復活。ニューウェイは「KERSを搭載したくない」とこぼし、実際に使用しないレースもあった。
■レッドブルRB8
2012 F1 コンストラクターズチャンピオン(7勝)
2012 F1ドライバーズチャンピオン - セバスチャン・ベッテル(5勝)
2012 F1 ドライバーズランキング6位 - マーク・ウェーバー
レギュレーションによりエキゾーストパイプの出口が特定のエリア内に限定されたため、RB8はブロウン・ディフューザーの変更を余儀なくされた。
その影響もあってか2012年は非常に僅差なシーズンとなり、開幕から6戦すべてで勝者が入れ替わり、レッドブルは開幕から13戦でわずか3勝しかできなかった。ニューウェイもマシンの状態を正しく把握できず、フラストレーションを溜めていた。
しかし、シンガポールGPに向けた大規模なアップグレードがレッドブルのシーズンを大きく変えた。チームはフロントウイングをフロアに近づけることができるよう、ノーズを再設計。また、RB8にはリヤウイングの下にあるビームウイングに気流を導き、ドラッグの低減に貢献するダブルDRSが追加された。
日本GPではレッドブルがシーズン初のフロントロウ独占を果たすなど、ベッテルが4連勝を飾り、レッドブルは3年連続のダブルタイトルを獲得した。
■レッドブルRB9
2013 F1 コンストラクターズチャンピオン(13勝)
2013 F1 ドライバーズチャンピオン - セバスチャン・ベッテル(13勝)
2013 F1 ドライバーズランキング3位 - マーク・ウェーバー
2012年のタイトル争いがシーズン終盤まで続いたことで、レッドブルはRB9のシャシー開発を遅らせた。にもかかわらず、レッドブルRB9は圧倒的な強さを見せた。
ベッテルは最終戦アブダビGPで9連勝を達成し、シーズン13勝。3戦を残してチャンピオン4連覇を決めた。これはフロントウイングのたわみに関する規制強化など、様々なルール変更を乗り越えて達成されたものだった。
とはいえ、RB9は先代RB8が持っていた特性の多くを備えた正常進化だった。これはパワーユニット(PU)の導入を含む、2014年のレギュレーションの大幅変更を控えていたためでもあるが、以後しばらくレッドブルとニューウェイはタイトルから遠ざかることになる。
■レッドブルRB16B
2021 F1 コンストラクターズランキング2位(11勝)
2021 F1 ドライバーズチャンピオン - マックス・フェルスタッペン(10勝)
2021 F1 ドライバーズランキング4位 - セルジオ・ペレス
2021年は、マックス・フェルスタッペンとルイス・ハミルトンの世代を超えた激しいタイトル争いが繰り広げられた。
2014年から2020年までは、まさにメルセデスが時代の王者に君臨していた。しかし2021年に向けていくつかレギュレーションが調整され、フロア、ディフューザー、リヤブレーキウイングレットに変更が加えられた。安全のため、ピレリタイヤにかかる負荷を減らすべく、ダウンフォースが10%削減されたのだ。
メルセデスはこの影響を大きく受けたが、レッドブルはこの年限りでのF1撤退を発表したホンダが急きょ投入した新骨格のPUも武器に、メルセデスと互角以上の戦いを繰り広げた。
その結果、タイトル争いは大接戦。決着は物議を醸す形になったものの、最終戦アブダビGPのファイナルラップでハミルトンを交わしたフェルスタッペンが、自身初のチャンピオンに輝いた。なおコンストラクターズチャンピオンはメルセデスに奪われている。
■レッドブルRB18
2022 F1 コンストラクターズチャンピオン(17勝)
2022 F1 ドライバーズチャンピオン - マックス・フェルスタッペン(15勝)
2022 F1 ドライバーズランキング3位 - セルジオ・ペレス
2022年はF1にグラウンドエフェクト・カーが再導入され、これまでの多くのレギュレーション変更と同様に、ニューウェイが手掛けたマシンが勝者となった。
パドックで唯一、1980年代のグラウンドエフェクト時代のF1に携わっていたテクニカルディレクターであるニューウェイは、マシンの安定性が非常に重要であることを理解していた。RB18がライバルのようにポーパシング(空力の影響でマシンが激しく縦揺れする現象)しなかったのは偶然ではない。
レッドブルはマシンの安定性に寄与するサスペンションに注力し、アグレッシブなコンセプトのサイドポンツーンを採用した。
しかしRB18は重量オーバーに苦しみ、決勝では強力だったものの予選ではフェラーリに先行を許すシーンも多かった。
だが開発が進むにつれてダイエットに成功したRB18は22戦中17勝を挙げ、うち15勝をマークしたフェルスタッペンが連覇を果たした。
■レッドブルRB19
2023 F1 コンストラクターズチャンピオン(21勝)
2023 F1 ドライバーズチャンピオン - マックス・フェルスタッペン(19勝)
2023 F1 ドライバーズランキング2位 - セルジオ・ペレス
RB19はF1史上最も支配的なマシンであり、22戦21勝をマークするシーズン最高勝率で両チャンピオンを楽々と獲得した。
基本的にはRB18を正常進化させたマシンではあるものの、その空力効率の良さは圧巻。大きなダウンフォースを生みながらも、DRSをオープンした際のスピードはRB19の大きな武器になった。
レースペースでの強さも健在で、たとえポールポジションを逃したとしてもフェルスタッペンから笑みが消えることはめったになかった。
ニューウェイはこれまで数々のチャンピオンを獲得してきたが、2023年はおそらくこれまでで最高だっただろう。ニューウェイは週末を通してセットアップに苦戦し、唯一勝利を逃したシンガポールGPで「問題点が浮き彫りになった」と話しており、RB20はさらなる進化を果たすかもしれない。
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みんなのコメント
彼が居る限り、レッドブルは止まらないかも。