最高速度も0-100km/h加速もCLA35と同じ
text:Mike Duff(マイク・ダフ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
伝統のMの頭文字の後ろには、BMW流の、内容に見合った数字が並ぶ。とはいえ、M235i xドライブ・グランクーペは、古くからのBMW信者に好んで選ばれるクルマではないだろう。
1シリーズのM135iと同じく、2シリーズのグランクーペもFAARという前輪駆動ベースのアーキテクチャに置き換えられた。2ドアのM240iに搭載されていた6気筒エンジンにかわって、4気筒エンジンが搭載されている。
ボンネットを開くと全長の短いエンジンが横向きに、前輪の車軸より前方に搭載されているのが見える。BMW信者への背信行為だと感じる人もいるかもしれない。BMWが幅広く市場調査を行った上での決断だとはいえ、筆者も仕上がりには半信半疑ではある。
メルセデス・ベンツは、4ドアクーペのAMG仕様となるCLAを、2013年から生み出している。今回のM235iは明らかにストレートなライバルモデルだ。
両者とも2.0Lの4気筒ターボから300psを超える最高出力を発生。パートタイム方式の4輪駆動システムを搭載する。紙面上のスペックはほぼ同一で、0-100km/h加速はどちらも4.9秒、最高速度は249km/hに設定されている。
CLA35の試乗では、さほど優れた印象が得られなかった。M135iは後輪駆動モデルだった先代を上手に更新しているが、M235iは似た評価にならないか心配ではある。
BMWの幹部によれば、古いプラットフォームでは、新しいグランクーペを生み出すことはできなかったようだ。直列エンジンとトランスミッションの組み合わせでの制約があったという。
好みの分かれるボディデザイン
多くのクーペスタイルの4ドアサルーンと同様に、2シリーズ・グランクーペもアジアや北米の市場向けにデザインされている。それを裏付けるように、M135iよりシャシーの味付けはわずかに柔らかい。
見た目の評価は主観的な部分が大きいと思う。でも、グランクーペはコンパクトなボディサイズから、堂々とした佇まいを表現することに苦労している様子。
ホイールベースは2670mmで、1シリーズと同値。全長は207mm延び、そのすべてはボディ後半に当てられている。
ボディ中央部の伸びやかさは感じられず、後方で傾斜したルーフラインによって、ホイーベースが短く感じてしまう。長いリアのオーバーハングに合わせたテールライトのカタチは、ひと回り大きなクルマにマッチしそうだ。
外観よりもインテリアは良い。ダッシュボードは1シリーズと共有で、デザインや用いられている素材は、このセグメントでは高級感のある方。スイッチ類の質感や装備の多くも、ライバルより上位に位置するだろう。
8.8インチのタッチモニターが標準装備で、ネットワークへの接続機能にも対応。M235iにはセミ・バケットシートやアルカンターラの内装、ライブ・コクピットと呼ばれるデジタルメーターも標準で付いてくる。
フロントシートやステアリングホイールの調整幅は大きい。リアシートの頭上空間は、傾斜するルーフラインによって狭い。小柄な大人や子供向けと考えた方が良い。もっとも、4ドアクーペを選ぶ人は、後部座席の広さを期待していないかもしれないが。
荷室容量は430L。充分な広さがあるが、テールゲートからの積み下ろしは少々しにくいようだ。
強力な2.0Lエンジンとトラクション
エンジンをスタートすると、威勢よく破裂音も混ざったサウンドを鳴らす。走り出すと、このエンジンが発するエグゾーストノートの中で、最も刺激的なものだとわかった。
6気筒エンジンを積んでいた1シリーズの魅了する音響は再現できなかったとしても、4気筒エンジンも充分力強いサウンドを放つ。一部に合成音も混ざり、回転数を上げるとボリュームも大きくなる。だが、美しい旋律ではない。
排気量が小さくなったエンジンのデキは良い。2.0Lから45.8kg-mの最大トルクを、1750rpmという低回転域で発生させる。素早く変速する8速ATが、知的にシームレスに速度を乗せていく。
2000rpm以下では少しのターボラグも感じるが、マニュアルモードで高すぎるギアを選んだ時くらい。パフォーマンスはスペック通りに力強く、6600rpmまで、ためらうことなく綺麗に吹け上がる。
試乗したポルトガルは、あいにくの雨模様。そのかわり、M235i xドライブ・グランクーペが持つ驚くほどのトラクションを濡れた路面で確かめる機会となった。
リアに電子制御の機械式クラッチを搭載する4輪駆動システムは、ビスカスカップリングより素早く駆動力を伝える。BMW i3にも採用されている、直接エンジンの回転数を制御するARBと呼ばれる電子制御システムも搭載する。
基本的にM235iは前輪駆動で走行し、機械的なエネルギーロスを減らし、燃費を向上。必要に応じて瞬時に4輪駆動へと切り替わるため、滑りやすいコーナーでもラインを外すことはほとんど不可能といえるレベルにある。
ハイライトは感触豊かなステアリング
xドライブ・によって、前輪駆動の220dでは路面へうまくパワーを伝えきれなかった環境でも、優れたグリップ力を見せつける。ただし、リミテッド・スリップデフを介さず、リアタイヤへ伝えられるトルクは最大で50%。後輪駆動のようには走らない。
M235iを限界領域まで攻め込んでも、アクセルペダルを少し戻してラインを内側に戻す程度のことしかできない。低速域では後輪駆動の先代よりアンダーステアを抑えられるが、グリップとスリップとの境界を探りながら、スリリングさを味わうことは難しい。
一方でステアリングはM235i xドライブ・グランクーペのハイライト。重み付けも良く、手のひらに伝わる情報量は、BMWのパワフルな後輪駆動モデルたちより豊富。前輪へ伝わるトルクによるフィーリングの悪化も最小限だった。
意図的に前輪駆動感は弱められつつ、ステアリングのレスポンスは鋭い。FAARのシャシーエンジニアによれば、前輪と後輪との反応速度を一致させることを、重要な目標としていたそうだ。
ブレーキも素晴らしい。標準で18インチとなるホイールに収まる一杯の、大きな4ポッドキャリパーとディスクがしっかり速度を受け止めてくれる。
ハッチバックのM135iと比べるとサスペンションは柔らかいとはいえ、M235iの乗り心地はまだ引き締まっている方。試乗車には500ポンド(7万円)のオプションとなるアダプティブダンパーが装備され、コンフォート・モードではしなやかだった。
ランエボのようにコーナリングする
ポルトガルの高速道路では、隆起部分や橋桁を通過すると、スポーツ・モードでは明確な上下動を示していた。だが、コンフォート・モードにすれば、すべてをなだらかに均してくれる。エンジニアによれば、標準の固定式ダンパーの設定は、スポーツ・モード寄りだという。
誤解を恐れないでいえば、スポーツ・モードにした時のカーブが続く道での走りは、三菱ランサー・エボリューションのように感じられた。実際に運転するまで、こんな印象を抱くなど想像もしていなかった。
M235iのエンジンは洗練性に優れるものの、ランエボ並みのパワー感はない。それでもコーナリングラインをしっかり掴んで旋回していく振る舞いは、近いものがあると思う。
世界的な嗜好の変化で、2シリーズのグランクーペはすっかり珍しくない選択肢の一部となった。BMWによれば、多くのユーザーは前輪駆動でも気にしないそうだ。昔からのBMWファンは納得できないとしても、グランクーペが誕生したということは、それが事実なのだろう。
われわれが望むのは、6気筒エンジンを積んだ右ハンドルモデル。BMWは次世代の2シリーズ・クーペとM2を、従来どおり後輪駆動で作るとしている。そこに期待したいところだ。
BMW M235i xドライブ・グランクーペのスペック
価格:3万7255ポンド(532万円)
全長:4540mm
全幅:1800mm
全高:1430mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:4.9秒
燃費:14.0-14.9km/L
CO2排出量:153-162g/km
乾燥重量:1570kg
パワートレイン:直列4気筒1998ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:306ps/6250rpm
最大トルク:45.8kg-m/1750-5000rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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