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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第17回:フェラーリ F430】

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池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第17回:フェラーリ F430】

フェラーリによる唯一のレースで優勝をもたらしたF430

日本人がスーパーカーを溺愛するようになったきっかけは、池沢早人師先生(※当時は池沢さとし)が描いた『サーキットの狼』がルーツとされている。1975年に週刊少年ジャンプで連載がスタートして爆発的な人気を獲得し、さらに続編である『サーキットの狼II モデナの剣』はバブル後の日本での新たなスーパーカーブームを牽引した。

池沢早人師が愛したクルマたち『サーキットの狼II』とその後【第17回:フェラーリ F430】

その人気は『サーキットの狼』連載時から45年を経た今もなお衰えることを知らず、コンビニエンスストアに並ぶミニカー付きの缶コーヒーやミニカーシリーズとしてリリースされた「サーキットの狼シリーズ」は瞬く間に完売。コンビニエンスストアで販売されたミニカーの中には現在、数万円のプレミアム価格で取引されているものも存在するという。

日本のモータリゼーションの発展に大きな影響を与えた同作品だが、作者である池沢先生は漫画家の他にもレーサー、自動車評論家としての顔を持つ。また希代のクルマ好きであり、フェラーリ、ポルシェ、ランボルギーニなど80台近いスーパーカーを乗り継いできた。今回は池沢先生が現状では最後に所有した跳ね馬、「フェラーリ F430」についてお話をお聞きする。

F430は「神様のお告げ」で買ったんだ

スポーツカーブランドとして常に頂点で輝き続けているフェラーリ。創始者であるエンツォ・フェラーリの遺志は時代が変わろうと色褪せることなく受け継がれ、揺るぎない自信に満ちあふれているのが素晴らしい。フェラーリのクルマは決して安いものではないけれど、その歴史や哲学、スポーツカーへの誇りを込めた価格だと思えば適正価格だと思う。

ボクにとってフェラーリというクルマは特別な存在であり、常に意識しながら人生を過ごしている憧れの自動車メーカーでもある。ボクのフェラーリ遍歴はディーノ 246GTから始まり、365BB、308GTS、512BB、400AT、308QV、512BBi、テスタロッサが2台、348GTB、F40、F355が2台、360スパイダー、360チャレンジストラダーレ、そしてF430と、数々の跳ね馬たちと過ごしてきた。フェラーリと過ごした時間はとても貴重なものだし、ボクの人生には欠かせないスパイスになっていると思う。まぁ、手が掛かり過ぎてすぐに手放してしまったモデルもあったけど、その苦労も漫画や小説のネタとして貢献してくれた。

今回、取り上げる「フェラーリ F430」は、現状ではボクが最後に手に入れたフェラーリ。そう思うとF430を最後にちょうど10年も跳ね馬を相棒としていないことになる。冷静に考えると少し寂しい気がするね。今はF8トリブートがものすごく気になっているんだけど、実際に手に入れるのは大きな仕事が入ってからと決めている。

今まで16台のフェラーリを所有してきたけど、実はこのF430は初めて正規代理店から購入した記念すべき一台。それまでは並行輸入車として手に入れていたんだけど、正規輸入のフェラーリが身近になったこともあってコーンズで購入することに。F430の発表時にGENROQのイタリア取材で一般道、高速、フィオラノサーキットを走ったのも大きいね。それと丁度その当時、『サーキットの狼』がパチンコのキャラクターになる契約が決まっていて、F430の登場に合わせたようなタイミングで契約金が入ってくるということは「フェラーリを買いなさい」という神様からのお告げだ・・・と信じて買ってしまった(笑)。

サーキットを意識せず豪華な内装を選んだが・・・

360を手放してから3年間くらいブランクがあったから、久しぶりのフェラーリは嬉しかったねぇ。真っ赤なボディカラーにクリーム色の内装の組み合わせをオーダーしたんだけど、驚くような速さで納車してくれた。さすが「コーンズ」だ!って感心したことを今でも覚えている。その頃のボクはサーキットや峠に行く機会が減っていたから、電動本革シートのラグジュアリー仕様をオーダーしたんだ。F355はレース仕様のバケットシートだったから、最初は柔らかい座り心地のレザーシートは不思議な感覚だった。

しかし、塞翁が馬というかタイミングが悪いというか、F430が納車されてすぐにコーンズが主催するイベント(編注:コーンズ フェスティバル 2007)でナンバー付きのフェラーリを対象としたレースが開催されることを知ったんだ。富士スピードウェイを舞台にしたクラブマンレースなんだけど、その昔フェラーリのチャレンジカップに出場できなかった悔しさが蘇ってきてエントリーすることに。まだ納車されて1500kmくらいしか走っていないときだった。

レース前日、練習走行としてコースを走ってみると本革シートのゴージャスさが裏目に出てしまい、走らせるだけでもひと苦労。リビングのソファに座ったままサーキットを走っているような感覚だから、ステアリング操作に集中できず予選は3番手に・・・。その際に配られたリザルトを見て驚いた。審査委員長のサインは何と!あの清水和夫氏ではないか!? これはみっともないところは見せられないと気合が入った(清水氏とは彼が大学生でスバルエンジンのFJで常勝していたころに、スポットで同じカラーリングの同チームからFJレースに一度だけ出たことがあった)。

翌日朝のウォーミングアップ走行では何とかトップタイムを刻むことができたけど、シートポジションが全く決まらない。本戦ではスタート直後に2位に上がり、プレッシャーを掛け続けて残り2周でトップを奪取。そのままゴールして優勝を飾ることができたんだけど、ホールド性に優れたバケットシートの重要性を痛いほど教えられた。しっかりホールドしてくれるバケットシートの仕様なら、あと2秒は縮められたと思う。

ナンバー付きフェラーリのレースで見事優勝を果たす

このレースに参加したことで、ポルシェ(ポルシェ カレラ カップ初代チャンピオン)、ランボルギーニ(JGTC参戦)、そしてフェラーリ(フェラーリ トロフィー ストラダーレBクラス優勝)という、スーパーカーのビッグ3ブランドでレースに出場するという夢を達成することができたのは嬉しかったねぇ。クラブマンレースとはいえ優勝で夢を叶えることができたのは最高だった。

優勝してしばらくすると、コーンズのW社長から高そうなワインが届いた。その理由を聞いてみたら「コーンズが売った正規輸入のフェラーリで優勝したのは池沢さんが初めてなんですよ。これは感謝の印です」とのこと。それまでのコーンズ主催のレースでは並行輸入車ばかりが優勝していたようで、正規輸入モデルの初優勝はボクだったみたい(笑)。これまでに色々なレースに参加してきたけど、F430で優勝した時のトロフィーだけは今でも自宅の玄関に飾っている。

実際にF430をドライブしてみると360シリーズから大きく進化していることが分かる。基本的なボディデザインは360シリーズから受け継いでいるものの、フロントのデザインは古き良き時代のレーシングカーをモチーフにしたと言うこともありシャープさと華やかさがあって大好きなんだよね。室内空間は360シリーズよりも広くなった気がするし快適性も向上されている。エンジンのレスポンスもさらに良くなった気がするね。

ハンドリングはクイックでコーナリング時のシャープさも抜群。360シリーズのクセのある操縦性よりも明らかに素直になっていた。これは電子デバイスのE-Diffによる貢献度が大きいかも。そしてF430ではカーボンディスクブレーキを標準装備してサーキット走行でも十分に対応できるまでに進化を遂げている。スーパーカーの代名詞だったリトラクタブルヘッドライトをやめて、近代フェラーリとして生まれた360シリーズをベースにしながらも、格段に完成度を研ぎ澄ませた名車だということは間違いない。

パフォーマンスは完璧だが排気音が不満で手放す

ひと昔前は「フェラーリは実用に向かない」というのが常識だったけど、F430はポルシェ 911と比べても遜色のない実用性が大きな魅力だと思う。高速道路や一般道をドライブしてもとても扱い易くクセのない良く仕上がったモデルだった。唯一の不満点はエンジンの音。個人的には360スパイダーの前に乗っていたF355の方が格段に高音質でキレがあったと思う。基本構造が同じエンジンでもバルブの数を5バルブから4バルブにしたことが原因なのかな?

結局、F430はエンジンの音が気に入らなくて3年目に手放してしまったんだけど、その原因は先輩漫画家の本宮ひろしさん。F430の排気音が気に入らなくてマフラーを交換しようと考えている時、出版社が主催したゴルフのコンペでマセラティのグラントゥーリズモに乗った本宮さんと出逢い、グラントゥーリズモの官能的なサウンドに衝撃を受けてしまった。

F430と同じエンジンなのにFRレイアウトのグラントゥーリズモは排気管が長いことが影響しているのか「大人のフェラーリ」ってサウンドがするんだよね。そうなると我慢ができなくなってマセラティに乗り換え決定。F430を手放した原因は本宮さんってことになるのかな(笑)。

Ferrari F430

フェラーリ F430

GENROQ Web解説:実用性と美しさに磨きをかけたF430

2004年にデビューを果たしたフェラーリのV8エンジンモデル、F430。308シリーズから連綿と受け継がれたリトラクタブル式のヘッドライトを廃止して新たなデザインにチャレンジした360シリーズの後継モデルとして、更なる熟成を図ってバランスのとれたパフォーマンスが高く評価されている。

最高速度315km/h以上、0-100km/h加速は4.0秒を計上

ボディデザインはピニンファリーナのチーフデザイナーであるフランク・ステファンソンが務め、360モデナのイメージを踏襲しながらもより洗練されたボディ形状が与えられた。緩やかな曲線で構成されるボディはエアロダイナミズムが追求され、360モデナの弱点と言われていたダウンフォース不足を解消。フロントセクションは1961年にF1GPで活躍した156F1や1961年のル・マン24時間レースで優勝を果たした250TRをイメージしたシャークノーズデザインが与えられている。

メカニズムでは360モデナのシャシーをベースに4.3リッターのV型8気筒エンジンを搭載。このパワーユニットはF355から360モデナへと継承され、3世代目となるF430では排気量の拡大と共に5バルブから4バルブへと変更し、490psの最高出力と465Nmの最大トルクを発揮した。先代モデルの360モデナと比較して出力は90ps、トルクは92Nmのアップが図られている。

電子デバイスで大幅にパフォーマンスを向上

トランスミッションには6速MTの他にF1マチックと呼ばれる6速セミオートマチックを用意し、操る楽しさを前面に押し出しているのが大きな特徴。また、ローンチコントロールやエレクトリック・デファレンシャル(E-Diff)などの最新システムを採用することで動力性能を向上。実用性の高い近代V8フェラーリとして高い人気を誇った。その後、2009年に後継モデルである458イタリアへとバトンタッチを果たす。

ボディのラインナップにはクーペボディのF430の他、オープンモデルのF430スパイダーを用意。2007年にはよりスポーティなドライビングを提供するハイパワー&ライトウェイト仕様の430スクーデリアや、F1GPでの最多コンストラクタータイトル獲得を記念したスクーデリア・スパイダー16Mが499台の世界限定モデルとして発売された。

TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)

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