クルマの基本機能である「走る・曲がる・止まる」のうち、最も重要な「止まる(=ブレーキ)」機能。昨今は、運転支援技術が発達し、前走車にぶつかる前に自動でブレーキが入る衝突被害軽減ブレーキや、前走車との車間を調節して追従してくれるアダプティブクルーズコントロールなど、ブレーキ制御は進化を遂げています。
しかし、ブレーキが効かなくなったことによる事故は、いまでも年間数十件ほど発生しており、いつ自分の身に起きても不思議ではありません。もし、運転中にブレーキが効かなくなったら、あなたはどうしますか。
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文:吉川賢一
アイキャッチ画像:AdobeStock_ yamasan
写真:AdobeStock、写真AC、エムスリープロダクション
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故障以外でもブレーキが効かなくなることはある
「ブレーキが効かなくなる」というと、ブレーキ系統の故障や、雨や雪道、アイスバーンなど路面のミューが低い場合を思い浮かべ、「そうそうないでしょ」とか、「自分には関係ない」と、思ってしまうかもしれませんが、ブレーキが効かなくなる現象は、故障や路面ミューによらず、ドライバーの運転方法次第で起こり得ます。長い下り坂を走行中に起こりやすい、「フェード」と「べーパーロック」です。
長い下り坂で、フットブレーキを使いながら減速をし続けると、ブレーキパッドとブレーキディスクが擦れ続けることで、ブレーキパッドに熱が発生します。この熱が許容限度を超えると、摩擦係数が低下し、ブレーキペダルをどれだけ踏んでも減速ができなくなります。この状態が「フェード」です。
そのフェード現象が起きた状態で、さらにフットブレーキを使い続け、パッドとディスクの熱がブレーキフルードにも熱が伝わるようになると、ブレーキフルードが沸騰する現象が起きます。ブレーキフルードの沸騰によって、ブレーキホースの中に気泡が発生すると、いくらブレーキペダルを踏んでも、その力は気泡を潰すことに使われてしまい、制動力が発生しません。この状態を「ベーパーロック」といいます。
フェードやべーパーロックに陥るのを防ぐため、長く続く下り坂では、「セカンドレンジで減速しよう」とか、「エンジンブレーキを併用しよう」という看板が必ず立っています。これは「この場所でそのような状態に陥った人がたくさんいる」ということで、それは、あなたもフットブレーキを使い続ければ、そのような恐ろしい現象に陥ってしまう可能性がある、ということ。長い下り坂では必ずエンジンブレーキを併用してください。
さて、特にべーパーロックの状態に陥ってしまったら、もうフットブレーキに頼ることはできません。ドライバーは、周りに迷惑をかけないため、そして何より自身と同乗者の命を守るため、フットブレーキ以外の方法で、できるだけ安全に止める方法を、責任をもって考える必要があります。ブレーキが効かなくなったら、もしくは効きが甘いと感じたら、まずどうしたらよいでしょうか。
あたりまえに使っていた、フットブレーキが効かない。そんな恐ろしい現象も、起こりえる(AdobeStock_deagreez)
まず周囲の確認を
まずは、周囲の状況を確認することです。前走車や後続車はいるのか、対向車はいるか、道路脇に車寄せや緊急待避所などがあるか、などです。そして、ハザードを点灯させ、後続車にトラブルに陥っていることを伝えます。「なにかおかしい」と受け取る後続車は、車間距離をとるなどの、回避行動をとってくれるはずです。
そして、エンジンブレーキ、パーキングブレーキを活用した制動をトライします。マニュアルミッション車であれば、4速→3速→2速と一段ずつシフトダウンをすることで、徐々に減速を強めて速度を落とします。オートマチックミッション車も同様に、Dレンジから3→2→Lと、徐々に落としていきます。
このとき、一度に低速ギアにシフトを入れるのはNG。エンジンの回転数が激変するため、エンジン故障の危険性もあり、また、大きなエンジン音や、減速のショックによって、ハンドル操作をミスする可能性もあります。「徐々に減速」というのがポイントです。
手動のパーキングブレーキは徐々に
十分に減速できたら、次はパーキングブレーキを使用します。ただ、一気に強くパーキングブレーキをかけるのはNG。手で引くサイドブレーキのタイプでは徐々に引き上げ、何回かに分けて効かせていきます。足で踏むタイプのものも、徐々に踏み込みます。一度で強くパーキングブレーキをかけてしまうと、後輪がロックされてしまって、最悪の場合は、スピンをしてしまう可能性もあるからです。
また、電動パーキングブレーキのクルマの場合は、走行中にパーキングブレーキのスイッチを引き上げ続けることで、非常事態として、ブレーキを効かせることができます。日産車の場合だと、引き上げているあいだずっと、ブザーが鳴り続けますが、スイッチから手を離すと、電動パーキングブレーキは解除されるように、設計されています。
なかには、エンジンの制御も含めて減速する車種や、4輪のブレーキ制御を行ってくれる車種も。メーカーや電動パーキングブレーキの世代によって、動作がバラバラですので、非常事態に備え、愛車の電動パーキングブレーキがどのような動作をするのか、確認しておいた方がいいでしょう。
それでも止まることができない場合は、道路わきに設置されている緊急避難所に突っ込むか、ガードレールや路肩に車体を擦りつけ、強引にクルマを停止させます。同乗者がいる場合には、足を突っ張り、シートベルトを握りしめ、頭や体を守るように声をかけ、覚悟を決めて身構えてもらってください。
緊急避難所は、多くの場合、土や砂利で出来た坂が用意されており、クルマをうまく受け止めてくれるようになっています。また、現代のクルマは、衝突安全性能が高いので、ボディ側面を擦ったくらいでは、車体骨格が変形するようなダメージには至りません。
クルマを止めたらガードレールや路側帯側へハンドルを切り、他車を巻き込むような2次災害に発展しないよう、備えます。ギアをパーキングにすることもお忘れなく。
ブレーキが効かないからといって、エンジンをオフにするのはNG。油圧PS(パワーステアリング)の場合だとパワーステアリングが効かなくなり、緊急回避が困難になってしまいます。
長く下り坂が続くところでは、このような緊急避難所が道路わきにかならず設置されている。できる限りここを使う事態は避けたいところだが、そのような事態になってしまったときのため、普段から対処法をイメージしておきたい
下り坂以外でもフットブレーキが効かないときは同様の方法で
故障や雪道など、下り坂ではないところで、フットブレーキが効かないもしくは使えない、という状況に陥った場合も、対処法はほぼ同様です。ハザードを点灯させて周囲に異常を知らせ、シフトダウンで減速をし、パーキングブレーキで停止を試みます。
減速が間に合わず、前走車に追突しそうだったら、ガードレールや路肩に車体を擦りつけ停止させます。何よりも周囲に迷惑をかけることなく、自分と同乗者の安全を最優先し、停止させてください。
慌てずに最善策で対処を
長い下り坂では、(装備されているクルマであれば)クルーズコントロールなどの車速調整をしてくれる機能を使うとドライバーがシフトダウンする必要がなく、ラク。アダプティブクルーズコントロールなどの前走車追従機能付きであれば、なおさらラクで安全確実ですので、ぜひ使ってください。
フェードやべーパーロックだけでなく、クルマに何らかのトラブルが起き、ブレーキが機能しなくなる可能性は、ゼロではありません。起きたとしても、慌てずに最善策で対処をすることで、大きな事故を避けることはできます。
いざというとき、落ち着いて冷静に必要な行動がとれるよう、普段からイメージしておきましょう。
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