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アストン・マーティンの究極スポーツ──ヴァンテージはスタイリッシュでもある

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アストン・マーティンの究極スポーツ──ヴァンテージはスタイリッシュでもある

アストンマーティンが新しくなった。というか、アストンマーティンが新しい時代に入った。いまが勝負の時とばかり、2016年から18年にかけて3台のスポーツカーを発表、このさきにはSUVやEVも計画されている。

日本にも夏に「DBS」(あるいはDBSスーパーレッジェーラとも呼ばれる)が入ってきたことで、「DB11」と「ヴァンテージ」を加えた新世代のスポーツカーラインナップが完成した。

アストン・マーティンの最新GTを試す──後輪駆動車の究極だった

「反省をこめていうと──」というのは、夏に出会ったときの、アストンマーティンのチーフエンジニアであるマット・ベッカー氏である。

「これまでのラインナップはかなり混乱していました。よりスポーティであるべき車種のパフォーマンスが、その下のモデルより劣っていたり、そういうことがフツウにあったんです」

そのためロータスから移籍してきたベッカー氏は、すでに進んでいた3台のプロジェクトにおいて、明確な性格わけに着手したという。結果は、かなり明瞭なものになったといえる。

私は2018年夏にドイツでDBSの国際試乗会に参加したので、パワフルだけれど、スポーティ一辺倒でない、このクルマのおとなっぽさが印象に残っていた。

それでも千葉のサーキットで3台を乗り較べるというぜいたくな体験を通して、改めて各モデルの魅力を考える機会が与えられたのは嬉しかった。

はっきりいって、いまのアストンマーティンは最高だと思う。ひとによってはV12はいまの5.2リッターバージョンより6リッターのほうがシャープだったとも言うけれど、充分によく出来ている。

5.2リッターV12はDBSで試した。DB11とヴァンテージは、4リッターV8モデルが用意されていた。このV8エンジンはAMGのものがベースになっている。制御システムはアストンマーティンの仕様という。

サーキットで乗ると、もっとも印象的なのはヴァンティッジだ。サーキットで走るために開発されたようなモデルである。DB11やDBSという「DB」の名をもつモデルが2プラス2シーターであるのに対してヴァンテージは2シーター。ホイールベースも約100mm短い。

4リッターV8は375kW(510ps)の最高出力と685Nmの最大トルクを誇る。メルセデス ベンツAMGのモデルのAMG GT(350kW/469ps)よりはるかに上で、同GT S(384kW/515ps)に近い数値だ。

大きな違いはオイルの潤滑系統にある。メルセデスAMGがポンプで潤滑油を送り込むドライサンプであるのに対してアストンマーティンは一般的なウェットサンプを採用しているのだ。

パワフルなエンジンをフロントに搭載して後輪を駆動する。ドライバーの着座位置は比較的前方だ。その点ではライバルと目されるポルシェ911とまったく異なり、後輪近くに座るAMG GTとも異なる。

旋回中心をどこに置くかは、各メーカーの考えかたに違いがあって興味ぶかい。メルセデスAMGやBMWのスポーツモデルは古典的というか、さきに触れたようにドライバーの位置は後輪に近く、長いノーズがドライバーの前で回っていく感覚だ。

アストンマーティンはミドシップではないが、どちらかというと、重量物を車体の中心に集めて旋回性能を高めている。印象的には最もニュートラルというか、気持ちよく走れるレイアウトだ。

ヴァンテージの操縦感覚は、とにかくシャープである。ドライブモードを選べるようになっているが、日本なら富士スピードウェイか鈴鹿サーキットでないかぎり、ノーマル(ヴァンテージでは「スポーツ」が相当)のままで充分(すぎる)と感じるほどである。

「スポーツ+」にすると、エンジンの吹け上がりとともに、加速がよりするどさを増すかんじで、ちょっと焦るほどだ。「トラック」(レース場)モードはもう頭のなかが真っ白になりそうだ。足まわりは固く、ステアリングは最高にシャープに、そして排気音が豪快にキャビンを満たす。

コーナリング時の車体の安定性も高い。腕に自信のあるひとなら、あえて後輪を滑らせる楽しみもあるけれど、グリップ走行でも高い横Gによって、スポーツカードライビングの醍醐味が堪能できるだろう。

鏡面のようなサーキットではすばらしいロードホールディング性をタイヤに発揮させる。ロールは最小で、ステアリングホイールはごくわずかな切れ角だけでコーナーをこなしていく。

いっぽうで路面が荒れると、ストローク量はさほどないので、けっこう跳ねるのかもしれないとも思った。快適性を犠牲にしてまで性能を追究したスパルタンなモデルなのだ。私はこのクルマに公道で乗ったことがないのだが、この足まわりの設定だと、かなりキツいかもしれないと、とばしながら思った。

ところが経験者に話を聞くとそうでもないらしい。となると、スタイリングはそれなりにアグレッシブで、一目でスポーティなヴァンテージとわかるから、一般路上で乗ると、なかなかスタイリッシュなのではないか。

ことインテリアデザインに関するかぎり、アストンマーティンの美意識は独特だ。たとえばポルシェのように理詰めではない。時として悪趣味に思えるような造型や、シート表皮のパターンを採用する。そこに生命感があり、機械を超えた存在と思えてくるので、私は気に入っている。

ヴァンテージはたんなる速いクルマ、というのにとどまらず、個性でもってオーナーを喜ばせようとしてくれているのがわかるのだ。しかもこのモデルが新しいシリーズの入門篇であり、価格も1980万円からなのだから、驚きと嬉しさを一度に感じる。

アストンマーティンDB4シリーズ3(1961年)において、3基のカーブレターを備えた高性能エンジン搭載モデルとして設定された「(DB4)ヴァンテージ」は、こうして現代に、すばらしいモデルとしてその名をまたよみがえらせたのだ。

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