マクラーレンが今年のF1で巻き返しを図れるかどうかは、2023年マシン『MCL60』のアップデートに懸かっている。ただ、そのアップデートは目には見えないほど細かいレベルにまで及ぶとチーム代表のアンドレア・ステラは語っている。
MCL60を初公開した時にも、マクラーレンは”ローンチ仕様”のマシンが目指していたレベルには達しておらず、新たな開発路線が必要だということを隠していなかった。
■フロア写真は空力エンジニアの”大好物”! モナコGPで宙吊りにされたレッドブルRB19を「舐め回す」とメルセデス
宣言通り、マクラーレンは第4戦アゼルバイジャンGPで大型アップデートを投入。マシンを良く見てみると、エッジ部分にこれまでとは異なる処理を施した改良型のフロアが搭載されていた。
MCL60の見た目は大きくは変わらなかったが、2022年からF1に導入された現行のテクニカルレギュレーション下のグラウンドエフェクトマシンでは、その下面でいかにパフォーマンスを稼ぐかが鍵とされる。しかも現代F1では、”細かいディティール”が勝敗を分けるのだ。
昨年までチームでレーシング・エグゼクティブ・エンジニアを務めていたステラ代表は、現在のF1マシンのパフォーマンスを上げるためにはフロアの改善が欠かせないものの、そのための開発は細部にまで渡ると強調している。
「この世代のマシンのパフォーマンスに関するモノの多くが、目には見えないマシン下面から生み出されている」とステラは説明する。
「(下面形状の)パラメーターがフラットに設定されていた前世代のマシンとは大きく異なるのはそこだ。今はパラメーターがないのだ」
「だからマシンの下を見てみると、かなり重要な役割を果たす(空気の)チャンネルやフェンスがあることが分かる。そして、それらが全て組み合わさって機能しているのだ」
「基本的なコンセプトを正しく理解する必要があり、それは我々が今シーズン開始時点でできていなかったことだ」
「そしてF1は、あちこちでミリ単位の勝負になってきている。渦の流れがどれだけ安定しているかという点でミリ単位で大きな差が生まれるし、ポーパシングにも違いが出てくる」
「気流を正しく理解するためには、集中的に開発する必要があるハイレベルなコンセプトをまず理解していることが重要だ。そして空力部門では、多くのスタッフがマシンやフロアなど多くの部分でトライ&エラーを繰り返し、ミリ単位の勝負をしているのだ」
ミリ単位という小さな変化が、気流とマシンの他の部分にも大きく作用する空力の世界。F1チームのアップデートも細部に渡る。
以前のF1ではダウンフォースを確実に増加させるため、新たなフロント/リヤウイングやバージボードといった大型の空力アイテムの開発に注力していた。しかし、今は細かいディティールがもたらす大きなパフォーマンスを理解することに時間を割く必要がある。
そしてもはや、空力アイテムひとつでパフォーマンスを考えることはできない。フロア前部の小さな調整が、ディフューザー後方まで影響を及ぼす可能性が大きいからだ。
「フェンスを変えれば、他でも調整を行なう必要がある」とステラは説明する。
「全てが三次元的に繋がっている。単独で機能する要素を見つけるのは難しいんだ」
「前世代のマシンでは、フロアの組み立てはある程度モジュール化されていたし、フロア前方を取ってファクトリーで作り直すこともできたから、ずっと簡単だった」
「ただ、このマシンではそれも難しく、空力的にも上手くはいかない。だから開発速度という観点から見ると、そこでは少し課題が残っている」
モナコGPでは、マシンが吊り上げられたことにより、メルセデスやレッドブルのアンダーフロアが丸裸になってしまったことが大きな話題となった。しかし、それを自分たちのパフォーマンスアップに繋げるのは簡単ではない。
F1では2020年のピンクメルセデス問題の際、3Dカメラやソフトウェアなどを使ったリバースエンジニアリングが厳しく規制された。そのためアンダーフロアの写真は、他チームのアイデアに大きな影響を与えるだろうが、ミリ単位のコピーとそれをパフォーマンスアップに繋がるようにマシンに組み込むのは非常に難しくなっているわけだ。
ただ、チームが現行レギュレーション下のマシンを細かい領域で進化させることに苦慮する一方で、開発が容易になった面もあるステラは言う。マクラーレンでは、風洞やシミュレータなどファクトリーで得られたデータがコース上のマシンと近しいモノになりつつあるという。
ステラは前世代のマシンではコース上での動きをファクトリーの段階で予測することは難しかったとして、次のように語っている。
「少なくともマクラーレンでは、この世代のマシンは全体的に(風洞との)相関性が高いと思う」
「(トヨタの風洞を間借りしていた)前世代のマシンでは風洞で制約があり、ロジスティクスの面だけでなく、純粋に空力的な相関性にも大きな制約があった」
「このマシンはフロアで多くのことが行なわれていて、何らかの理由で全体的な相関性が良くなっている。(マシン上部の空力アイテムにダウンフォースを頼る)前世代のマシンでは、バージボード横から生まれるモノなど、フリーエアで多くの渦が生まれていた。その辺りは、フロントウイングにとって常に厄介な部分だったんだ」
「しかし(現行マシンの)フロントウイングは地面からかなり離れたところで機能するし、よりシンプルになった。なぜかフロアも相関性が良くなっている。だから全体的に、マシンの世代と関係があるのだと思う」
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みんなのコメント
素人でも運転していてわかる差だぞ
誤差0.01㎜の世界ならわかるが