■さまざまな駆動方式があった昭和の軽自動車
1955年、日本の国内経済成長を進めることを目指した、通商産業省(現在の経済産業省)の「国民車構想」が公になりました。
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この構想に合致したクルマを作ることは非常に困難とされていましたが、1958年に「スバル360」の発売によって現実化します。
それ以降、各メーカーが軽自動車の生産に乗り出し、大衆車として全国に広まる過程のなかで、さまざまな軽自動車が生まれては消えていきました。
これまで、ユニークな軽自動車が多数存在しましたが、駆動方式もバラエティに富んでいました。現在、軽乗用車ではFFが主流ですが、かつては各メーカーがさまざまな駆動方式を試しています。
そこで、FF以外の駆動方式を採用した懐かしの軽自動車を、5車種ピックアップして紹介します。
●スズキ「フロンテクーペ」
スズキ「フロンテ」は、1962年に「スズライトバン」の乗用車版として登場したFF方式のセダンです。
1967年に発売の2代目では駆動方式をRRに変更し、直列3気筒エンジンを搭載。同年にデビューしたホンダ「N360」とのパワー競争が勃発します。
1970年にモデルチェンジした3代目では、RRのスタイリッシュな2ドアセダンに生まれ変わりました。
さらに1971年には、ホンダ車との差別化のために、軽自動車初のスポーツカーとも呼ばれる派生車種「フロンテクーペ」がデビューします。
フロンテクーペの低いフロントノーズと、傾斜したフロントガラスから続く小さなキャビンスペースは、まるでイタリアのスーパーカーを小さく縮めたようなデザインとなっていました。
内装も6連メーターを備えたデザインで、スポーティさを演出。さらに37馬力のハイパワーな2サイクル直列3気筒エンジンのフィーリングは刺激的で、多くの若者を魅了します。
1976年に、軽自動車の規格が550ccに移行したことで、フロンテクーペはキープコンセプトとした初代「セルボ」にバトンタッチされました。
排気ガス規制の影響で出力は28馬力と控えめとなりましたが、フロンテクーペよりもワイドトレッドになったことで、スポーティな走りは健在でした。
●三菱「ミニカ」
1962年にデビューした三菱「ミニカ」は、先に登場していた軽バンのパワートレインを流用して造られた4人乗りセダンです。
当時はRRが一般的だった軽自動車のなかで、小型車と同様のFRとしたことで、リアシートの居住性とキャビンと独立したトランクスペースを持っていました。
1969年にモデルチェンジされた2代目ミニカはボディが3ドアハッチバックとなり、FRであることを活かしてリアシートを前に倒して広い荷室がアレンジできるなど、軽ステーションワゴンとしての機能を持ったクルマとなります。
初代の垢抜けしないスタイルからモダンな外観に変わったことに加え、水冷エンジン搭載車や、ツインキャブ装着により高出力化したグレードを追加するなど、他社とは違った高級感を漂わせていたのです。
また、この2代目に設定されていたバンは、Cピラーを立てて大きな開口部のテールゲートとしたことで、後の軽ボンネットバンや現在のベーシックな軽乗用車の原型といえるスタイルを先取りしていました。
●マツダ「キャロル」
1960年、マツダは「R360クーペ」で4輪乗用車市場に参入します。軽自動車は1人か2人での乗車が多いということで、軽量化のために2+2とし、1958年に発売されたスバル360と同等の車両重量380kgを実現。
完成度の高い外観デザインで、スバル360と人気を二分しました。しかし、実質2人乗りのR360クーペは他社から続々と発売された軽自動車に対抗できなくなり、マツダは1962年に「キャロル」を発売します。
キャロルは、1961年の東京モーターショーに出展したプロトタイプ「マツダ700」と平行して開発され、18馬力を発揮する水冷4サイクル直列4気筒OHVのオールアルミエンジンを横置きでリアに配置し、フロントにはトランクルームを備えていました。
また、サスペンションも4輪独立懸架とされ、小型車並みのメカニズムを備えた本格的な乗用車として好評を博し、1963年にはリアシートの乗降性に優れる4ドア仕様を追加。
しかし、軽自動車専用に開発されていなかったことでボディは重く、先進的だった4気筒エンジンもパワーの割に重くなってしまったことで、動力性能に大きな影響を与えました。
さらに、ホンダ「N360」など室内が広いライバルが現れたことで販売は低迷し、1970年に生産を終了。
なお、キャロルという車名は、現在もスズキ「アルト」のOEM車として残っています。
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●スバル「サンバー」
1961年にデビューしたスバル「サンバー」は、1958年に発売された「スバル360」のパワートレインを流用したRRの軽商用車です。発売当初から4輪独立懸架を採用するなど他の軽商用車とは一線を画す存在でした。
RRとしたことでクルマの重量物が車体後部に集中することから、空荷時でも駆動力が強くかかり、雪道の走行安定性や田畑など泥濘路での走破性が高いといわれました。
スタイルはキャブオーバーで、狭い交差点などを通過する際に、車体最前方にドライバーが居ることで安全確認がしやすく、また、FRのセミキャブオーバーよりもペダルレイアウトの自由度が高いことで、乗降がしやすかったといいます。
配送業務など長時間運転を強いられるドライバーには「サンバーでないとダメ」と評価されたほどです。
2012年、スバルの軽自動車生産終了に伴い、ダイハツからOEM供給されることになった7代目にモデルチェンジしたことで、RRのサンバーは消滅してしまいました。
●ホンダ「T360」
ホンダ初の4輪車として1963年に発売された「T360」は、未発売となったスポーツカー「スポーツ360」と合わせて開発された、日本初のDOHCエンジンを搭載した軽トラックでした。
外観は短いフロントノーズの下にエンジンを置く、セミキャブオーバーのようにも見えましたが、水冷直列4気筒DOHCエンジンがマウントされていたのはシート下の後方で、リアホイールを駆動するものでした。
前輪と後輪の間にエンジンがあるミッドシップレイアウトとなっており、スポーツ走行を狙ったものではありませんでしたが、前後重量配分には有利で、田畑などの泥濘路での走破性を高めていました。
360ccから30馬力という高出力を絞り出すエンジンはライバルに対して大きなアドバンテージでしたが、600kgを超える車重も起因して「エンジンを回さないと乗りづらいクルマ」など、評価は高くありませんでした。
また、商用車に搭載するには複雑すぎるエンジンで、メンテナンス性が悪くなってしまい、販売は低迷。
1967年にはN360と同じ空冷2気筒SOHCエンジンを搭載した、キャブオーバーの軽トラック「TN360」にスイッチしました。
※ ※ ※
冒頭と繰り返しになりますが、ホンダ「S660」やスズキ「ジムニー」といった特殊なモデルを除くと、現在の軽乗用車はFFかFFベースの4WDが主流です。
軽自動車という限られたサイズで最大限の室内空間を確保するには、やはりFFがもっとも合理的だということでしょう。
軽自動車の黎明期は各社がベストな駆動方式を模索していたことで、バラエティに富んでいました。したがって見た目や走りは、いまよりもはるかに個性的だったといえるでしょう。
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