2022年シーズンも各カテゴリーで熱戦が繰り広げられたモータースポーツ界。現在は2023年シーズンへ向けた束の間の“充電期間”に入っているわけですが、当企画ではオートスポーツwebの各カテゴリー担当編集が、2022年の戦いを『ベスト3』という切り口で振り返ります。
今回はふたりの日本人ドライバーが挑んだF1直下のレースカテゴリー、FIA F2の14大会28レースから、担当編集が悩みに悩んでセレクトした『印象に残ったレース・ベスト3』をお届けいたします。
ダムス、2023年シーズンも引き続き岩佐歩夢を起用すると発表「タイトル獲得が目標」/FIA-F2
■第9戦ル・キャステレ レース2:岩佐歩夢の初優勝
2022年のFIA F2を語る上で中心となるのは、やはりホンダ/レッドブル育成の岩佐歩夢です。なかでも、フランスのポール・リカール・サーキットで開催された第9戦ル・キャステレのレース2は印象的です。
予選で岩佐は2番グリッドを獲得。ただ、ウイリアムズ育成のローガン・サージェント(カーリン)からは0.006秒差と僅差だったこともあり、悔しい結果とはなりました。でも、Twitterでハッシュタグ『#F2jp』を見る限り、決勝へ向け大きな期待感が日本のファンの皆さんの間には流れていたように感じています。
スタートで4番グリッドスタートのジャック・ドゥーハン(ビルトゥジ・レーシング)がトップに浮上した瞬間には「やられた!」と正直思いました。ただ、2番手の岩佐はぴたりとドゥーハンの背後から離れず、「これはターン8(シケイン)で抜けるかもしれない」と思った矢先、岩佐はターン8でアウト側から予想以上にスムーズかつDRSがまだ使えない中で見事なオーバーテイクを仕掛けトップに浮上しました。
その後も岩佐は安定したペースでレースを進めますが、私はまだ勝利への確信は持てませんでした。それはダムスというチームが2022年シーズン中に幾度となくピットミスを繰り返していたからです。そのため、岩佐がピットに入るまでタイミングモニターと睨めっこしながら、ただただ無事に岩佐のタイヤ交換が済むことを願っていました。
岩佐は14周目終わりにピットイン。その前周の13周目にピットに入ったサージェントがピットストップの際にエンジンストールをしたこともあり、私の緊張も最高潮に達していました(当時のメモが誤字だらけなので、キーボードを叩く指も震えていたのかもしれません)。ですが、ダムスチームは完璧なピット作業で岩佐をコースに送り出しました。ここで私は岩佐の勝利が確信に変わります。
ただ、唯一の懸念は2番手プルシェールと3番手ドゥーハンが岩佐とのギャップをわずかに縮めていたことでした。ただ、この心配も19周目に起きたプルシェールとドゥーハンの接触で消え去りました。
このレースのレポート記事のタイトルに『ポール・リカールに君が代が流れる』という文言を入れました。私自身、FIA F2で君が代が流れる瞬間を心待ちにしておりましたし、それはFIA F2を見続けてきた日本のファンの皆さんと同じだと思ったからです。「いつか、F1でも君が代が流れる瞬間を」、そう期待が積もる一戦でした。
■第13戦モンツァ レース2:技術違反で失格も期待を抱かせた一戦
岩佐のFIA F2デビューイヤーを振り返る上で欠かせないのがシーズン終盤の第13戦モンツァです。予選最終アタックでセクター2までは好タイムをマークし、あとはチェッカーを受ければシーズン2度目のポールポジションの可能性もというなか、岩佐は最終クルバ・アルボレート(旧称:パラボリカ)でクラッシュ。車両は大きなダメージを受けました。
予選を7番手で終えた岩佐は決勝レース1(スプリントレース)を4番手からスタート。しかし、レースペースが上がらず、また5秒加算ペナルティもあり16位に終わりました。この決勝レース1での走りを見る限り、岩佐の車両には問題を抱えていたように思えたので、決勝レース2(フィーチャーレース)も厳しい戦いになると思っていました。
ただ、大荒れの決勝レース2ではペースが上がらない車両で3番手まで浮上すると、後続の猛追からポジションをキープ。上位グリッドからスタートしたライバルがリタイアとなったことも要因とはいえ、あの車両で3番手をキープした岩佐の走りは素晴らしかったです。第13戦を終えてシリーズランキング4位となり、スーパーライセンス獲得条件クリアに大きな一歩を進めた一戦となったと思われました。
しかし、レース後の車検で技術規則違反が見つかり、岩佐の17号車は失格となりました。岩佐はランキング9位へと後退することになり、スーパーライセンス獲得条件はさらに厳しいものとなりました。
ただ、そんな厳しい目標も、岩佐なら越えられるのではないかという期待を抱かせる走りを目にすることができたとも感じました。リザルト上は失格ですが、与えられた環境の中で最大限の結果を求める岩佐の姿を見ることができた、忘れ難い一戦だったと思います。
■第14戦ヤス・マリーナ レース2:王者の猛追を退けたポール・トゥ・ウイン
迎えた最終戦第14戦ヤス・マリーナ。岩佐はフリー走行をトップタイムで終えると、続く公式予選で今季2度目のポールポジションを獲得しました。ちなみに、予選後車検で岩佐の車両に違反というドキッとする裁定が出ましたが、ダムスに1000ユーロの罰金で済んで本当に良かったです(汗)。
決勝レース1はリバーズグリッドにより10番手スタートとなった岩佐。どこまでポジションを上げられるかが注目でしたが、前日まで見せた勢いは身を潜め13番手でチェッカーとなりました。そうなると、「決勝レース2は大丈夫なのか?」という思いも出てきました。岩佐は決勝レース1を振り返り、「自分の感覚としては、今日ペースの上がらなかった原因は、自分のドライビングが7割、マシンが3割という印象ですので、エンジニアとも話してフィーチャーレースに向けて改善したいと思います」と語っていました。
そうして迎えた、決勝レース2は岩佐の強みが存分に溢れるレースとなりました。前戦モンツァでFIA F2シリーズタイトルを掴んだフェリペ・ドルゴヴィッチ(MPモータースポーツ)との攻防戦。とくにバーチャル・セーフティカー明けのファイナルラップは痺れました。2021年のF1最終戦アブダビGPのファイナルラップがフラッシュバックするほど、まさに手に汗握る戦いでした。
初のポール・トゥ・ウインでシーズンを締め括った岩佐でしたが、惜しくもスーパーライセンス獲得条件クリアには届きませんでした。ただ、彼のポテンシャルの高さ。レース運びの巧みさをFIA F2関係者だけではなく、F1関係者、そして世界のモータースポーツファンの皆さんに示すことができたシーズンだったのではないかと思います。
* * * * * *
今回のスタッフ選出2022総集編Best 3では岩佐にフォーカスする結果となりました。2022年のFIA F2に参戦したもうひとりの日本人、佐藤万璃音については2022年が厳しいシーズンとなった要因やFIA F2の特殊性、そして2023年のレース活動について独占インタビューを実施しております。佐藤万璃音独占インタビューは2023年1月2日に掲載予定ですので、こちらもぜひお楽しみいただければ幸いです。(編集部カワノ)
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