吉田修一による小説『国宝』を、『悪人』、『怒り』の李相日監督が映画化。主演は吉沢亮、共演は横浜流星や渡辺謙など錚々たる顔ぶれの本作は、2025年のカンヌ国際映画祭監督週間で公式上映を果たすなど、公開前から話題を集めている。歌舞伎役者としての半生を見事に演じきった吉沢亮に話を訊いた。
喜久雄として生きた3か月
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──撮影が始まる1年以上前、2023年1月に歌舞伎の稽古はスタートしました。そのときはどんな心境でしたか?
漠然とした不安はありましたけど、撮影期間を含めて約1年半を役作りにかける経験は初めてだったので、まだワクワクしていたと思います。
──「まだワクワクしていた」ということは、そのあと変わっていったんですね。
変わりました、いろいろ(笑)。稽古をすればするほど、1年半では足りないなって。冷静に考えたら、歌舞伎役者の方が子どもの頃から何十年もやっていることを、たった1年半で学びきれるわけがない。足元にも及ばないということを、やればやるほど痛感して、どんどんしんどくなっていった記憶があります。
ただ今回は、どれだけ稽古しても足りないと思いながら、それでも歌舞伎役者として舞台に立たなければいけないという、ある種の意地や根性がもっとも大事だったのかもしれません。その執念みたいなものに、歌舞伎役者ではない我々がこの作品をやる意義があったのかなと、撮影が終わってから思いました。
──撮影は2024年3月から6月にかけて行われました。「つねに追い込まれていて、3か月間死ぬような思いだった」と以前話してくれましたが、やはり歌舞伎役者を演じることに、そうやって追い込まれていたんですか?
歌舞伎役者よりも、喜久雄という役を演じることに追い込まれていた気がします。クランクインするまでは、こんな人間なのかなとイメージがあったんですけど、インした瞬間に、なにもわからなくなって。
──吉沢さんが扮した喜久雄は、任侠の一門に生まれながら歌舞伎の世界に飛び込み、稀代の女形として脚光を浴びる役柄です。
最初の1週間くらいはなにをやっても違うと思いましたし、李(相日)監督も納得していない様子でした。だから考えるのをやめたんです。事前に考えることをやめて、現場で起きることにただ反応するようにしていきました。
──その演技のスタイルはこれまでの吉沢さんとは異なるものですか?
他の役者さんとのキャッチボールとか、現場で生まれるものをいちばん大事にするのはもちろん一緒ですけど、いつもはちょっと高いところから自分を俯瞰しているような感覚があるんです。いまこの場にどんな空気が流れているのかを、意識しながらお芝居をしていて。でもこの作品に関しては、自分の目の前に見える世界だけを生きるという感覚でした。精神的にも、体力的にも、しんどい3か月間でした。
映画史に残る「鷺娘」
──劇中ではさまざまな演目が披露されますが、体力的にもっとも大変だったのは、やはり踊りのシーンですか?
そうですね。踊りのシーンは基本的に、1日から2日くらいかけて、朝から晩までずっと同じ演目をやりつづけるんです。衣裳もめちゃくちゃ重かったし、体力的にはけっこう限界でした。
──でもその甲斐があって、どの演目もスクリーンに引き込まれるような、優美で華麗な仕上がりになっています。なかでもクライマックスの「鷺娘」は驚異的でした。撮影にもそうとう時間をかけたのだろうと思いますが。
いや、計2日間で撮ったんですけど、2日目に撮影した演目の後半部分は、2、3テイクくらいしか撮らなかったと思います。他の演目は、それこそ1日に何十テイクも撮ったんです。でも「鷺娘」はいちばん長くて、いちばん動くので。
──体力的に2、3テイクしか撮れなかったということですか?
そうなんです。たぶん何度もくり返し撮れないから、2、3回の集中力に賭けようと。そういう意味では、緊張感も大変なものでしたし、エキストラの方々の張り詰めた空気もじかに伝わってきました。おかげで、とんでもない集中力を発揮できた気がします。その瞬間、自分の鼓動と呼吸の音しか聞こえなかった。これまでに1度か2度しか経験したことのない、ものすごい集中力で入り込めたと思います。
──撮り終えたときの達成感は、大きなものがあったでしょうね。
はい、クランクアップを迎えたんじゃないかと思うくらい(笑)。撮影はそこから1か月近く残っていたんですけど、終わったような気になるほど達成感がありました。
──一門を追われた喜久雄が、ホテルのバルコニーで踊る中盤のシーンにも、心を鷲掴みにされます。脚本には「劣化したバルコニーで酔った喜久雄が踊る」といった程度のト書きしかありませんが、現場で組み立てていったということですよね。
そうですね。どんな踊りにするのか、振付の谷口裕和先生と事前に考えていたんですけど、いざ現場に入ったらすべて関係なくなってしまって。喜久雄の人生において最も底辺にいる時期で、たまりにたまった膿が噴き出る場面ではあるんですが、爆発させすぎるといやらしくなってしまう。その微妙なさじ加減を意識していた気がします。
10年前を振り返って
──李監督の作品は、『怒り』(2016)の際にオーディションを受けたものの、そのときは出演がかないませんでした。それから約10年、俳優としてどう成長できたと思いますか?
『怒り』の頃は21歳くらいだったと思うんですけど、お芝居するのが楽しくてしょうがなくて、いろいろな作品を観て研究しながら、「こういう芝居をしてみたい」で溢れかえっていたと思います。だから現場で「こういうシーンだからこんな芝居を……」と言われても、「いや、自分はこうだと思います」って、我が強かった時期で。
──そんな頃があったんですね。
21歳あたりはそんな感じでしたね。今になってようやく、映画は総合芸術だと気づくようになりました。自分の役は自分がいちばん理解していると思っていたけど、作品全体のバランスもあるし、監督の言うことには深い意図があるんだなって。
──そうして作品を俯瞰できるようになった今、李監督と作品作りができたことは大きかったかもしれませんね。
ところが今回、21歳の頃に引き戻されたような感じがするんです。引き戻されたというか、それを求められていた気がして。全体のバランスうんぬんではなく、自分の役だけに集中しろとずっと言われているような感覚がありました。頭の中で計算したりせず、自分自身をひたすらに追い込む以外に、役に入る方法がなかった。たぶん初めての経験だったと思います。役を生きることが今まででいちばん苦しかったし、それを乗り越えた先にしかない表現がきっとスクリーンに映っているんじゃないかって。役者はきつい仕事だなとあらためて思いました。
──今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭で、晴れて作品をお披露目することができました。上映後には約6分間のスタンディングオベーションが起きましたね。
上映前はすごく不安だったんです。カンヌのお客さんは気に入らないと平気で会場を出ていくと言われていたので(笑)。ところが3時間、みなさん集中して観てくれて、その感触がしっかり伝わってきたんです。僕たちが作品に込めた熱量を、すべて受け取ってくれた気がしました。想像しうる中ではいちばんの、大成功と言っていい反応でした。たぶんあれだけ苦しまなければ、見ることのできなかった景色なんでしょうね。
『国宝』任侠の一門に生まれた喜久雄(吉沢亮)は15歳の時に父を亡くし、天涯孤独となる。喜久雄の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)は彼を引き取り、喜久雄は思いがけず歌舞伎の世界へ飛び込むことに。喜久雄は半二郎の跡取り息子・俊介(横浜流星)と兄弟のように育てられ、親友として、ライバルとして互いに高めあい、芸に青春を捧げていく。そんなある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、2人の運命は大きく揺るがされる。
監督は李相日。『悪人』『怒り』に続き吉田修一の小説を映画化。脚本を『サマー・ウォーズ』の奥寺佐渡子、撮影をカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『アデル、ブルーは熱い色』を手がけたソフィアン・エル・ファニ、美術を『キル・ビル』の種田陽平が担当。2025年・第78回カンヌ国際映画祭の監督週間部門出品。
写真・加藤彰人
スタイリング・九(Yolken)
ヘアメイク・木内真奈美(オティエ)
文・門間雄介
編集・遠藤加奈(GQ)
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