スーパーGTのGT500クラスで、2023年、2024年とタイトルを連覇し、2025年は3連覇に挑んだTGR TEAM au TOM’S。2025年は、1号車au TOM’S GR Supra(坪井翔/山下健太)の吉武聡チーフエンジニアに特別コラムを寄稿していただき、毎戦レースのターニングポイントとなった部分を中心に振り返ります。
11月1日(土)~2日(日)に栃木県のモビリティリゾートもてぎで行われた第8戦で1号車は予選2番手、決勝優勝。2023年から続くタイトルを守り切り、GT500史上初の3連覇を達成しました。コラム第8回では、最終戦で1号車が乗り越えた3つのピンチと、3連覇を成し遂げたトムスの強さについて説明していただきます。
au TOM’S GR SupraがGT500史上初の3連覇。ライバルの奇襲と追撃を守り、勝利でチャンピオンを決める【第8戦決勝レポート】
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●3つの危機を乗り越えた最終戦もてぎ
みなさんこんにちは。TGR TEAM au TOM’Sの吉武です。
GT500クラス3連覇、ほっとしました。今年もやり切って、ようやくゆっくり休みたいところなのですが、トムスとしては全日本スーパーフォーミュラ選手権の大仕事が待っていますし、自分はマカオGPやスーパーフォーミュラ・ライツ最終戦と続くので、チーム揃っての祝勝会は先になりそうです。
さて、勝ってチャンピオンを決めることができた最終戦もてぎについて振り返りましょう。1号車は今回、2番手スタートから1周目にトップに立って優勝という展開でした。ただ、実はそのなかでもピンチが3つほどありました。ドライバーのふたりからもかなり緊張している雰囲気を感じましたし、決して簡単な戦いではなかったのです。
ひとつ目は1日(土)の公式練習。タイムは4番手まで持ち直しましたが、走り出しから途中まではかなり厳しい状況でした。というのも、ドライバーからのフィードバックとして「グリップ感がない」とのことで、正直なところその深刻さは“黄信号”を通り越して“赤信号”でした。
原因としては、今回持ち込んだタイヤが想定よりもパフォーマンスが低かったことです。今回持ち込んでいたタイヤについては、事前のテストで試したものでした。それが良かったので、トヨタのブリヂストンタイヤユーザーは結果的に同じタイヤで持ち込むことになったのですが、走り始めはうまく機能しませんでした。
走行開始直後からドライバーはグリップ不足をフィードバックしていたので、ウチは「このままではダメだ」と切り替えて足回りのセットをガラッと変えました。そこでドライバーとエンジニアとメカニックが良い仕事をしてくれたことで、限られた時間のなかでも最低限のリカバリーはできたように思います。その後の予選Q1で山下選手がトップタイムを出してくれたときには、今回の勝負は決まったなと思いました。
それでも、まだまだ別のピンチが残っていました。決勝レースをご覧になったGTファンの皆様は、1号車のピット作業で右のフロントタイヤを最後に増し締めしていたのを覚えていますでしょうか。一見、メカニックの作業ミスがあったように見えるシーンだったのですが、実はその逆で、ウチのチーフメカのスーパーファインプレーだったんです。
後でチーフメカに聞いた話では、ナットを締めた感触に違和感を感じて締め直したとのことでした。そこで走り終わってからタイヤを外して確認してみたところ、ナットとハブの間にバリ(細い金属片)が挟まっているのを発見。おそらく、ピット作業時はとにかく感触に違和感を覚えてナットを締め切るまでトルクをかけ直したのだと思いますが、この増し締めでなんとかバリが潰れてナットが締まってくれたのだと思います。いつもナットを締めているチーフメカの感覚とコンマ数秒の瞬間的な判断、そしてリカバーがなければ、その後はおそらくタイヤが外れてリタイアになっていたと思います。
最後のピンチは、タイヤ無交換作戦が話題を呼んだ100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GTの走りでした。というのも、第1スティントの後半でもっとも速いペースを見せたのは100号車だったからです。後半スティントもこのペースが続いた場合、追いつかれてしまうだろうと警戒していたのです。
しかし、100号車は1号車の前に出るために無交換作戦を選びました。ウチとしては、最終戦は無交換作戦が可能だというデータを持っていたのでやってくるチームはあるだろうと読んでいましたが、100号車がやってきたときには驚きとともに、「これなら大丈夫だろうな」と思って安心したところもありました。
もし100号車が4輪を換えていたら、のちに2台のニッサンZの前に出て、1号車とバトルになっていたと思います。だからこそ無交換作戦で一時的に前に出られた時には、山下選手に「いずれ追いつくから焦らなくていいよ」と話して、ギャップとペース差を伝えました。
こうして振り返ると、最終戦もてぎは一見スムーズに勝ったように見えながら、実際にはいくつもの危機をチーム全員で乗り越えたレースでした。ドライバー、エンジニア、メカニックがそれぞれの場面で冷静に判断し、確実にリカバーしてくれたからこそ、2番手スタートからトップに立ち、最後まで守り切ることができたのだと思います。この積み重ねが、3連覇という大きな結果につながったのではないでしょうか。
●3連覇を支えたチーム力とトムスのモットー
コラム後半は、GT500クラス3連覇を達成してみて実感しているトムスの強さについて。やはり一番重要な点は、3年間を通してメカニック、エンジニア、ドライバーの大きなミスがなかったということです。
10月の第7戦オートポリスではエアクリーナーに砂やダストが入ってしまい、最終戦に向けてエンジンを守るためにリタイアしましたが、あれは防ぎようもないアクシデントによるリタイアでした。それ以外では、クルマのトラブルやドライバー、チームのミスによってリタイアになるケースはありませんでした。
安定した競争力を3年間持続しているというのは本当にすごいことで、だからこそ、GT500クラスの3連覇をこれまで誰も成し遂げることができなかったのだと思います。
SNSなどでもたくさんのGTファンが『1号車が速すぎる』と話しているのを見かけますし、現地でも「どうして毎戦速いの?」「なんかやってるんじゃないの?」と聞かれます。
それでも、今年行われたノーウエイトのレース(開幕戦岡山、第4戦富士、最終戦もてぎ)で1号車は、一度もポールポジションを獲っていません。さらに言うと、1号車は今年更新された3つのコースレコード(開幕戦岡山、第3戦セパン、第6戦菅生)をひとつも獲っていません。
何が言いたいのかというと、クルマとドライバー、タイヤなども含めてそのパッケージの100%を出し切れば、1号車よりも速いクルマやドライバーは沢山いるということ。最終戦のライバルの様子を見ても、それぞれに好調な速さを感じるシーンがありましたが、一方で予選や決勝でミスもあったと思います。
100%の実力をつねに出そうとすると、どこかでミスが出てしまいます。だからこそ、トムスのモットーは『つねに98%を出すこと』としています。最終戦も公式練習の時点から、ドライバーはタイヤにフラットスポットを作らないように気を付けました。
続く予選Q2でも、坪井選手がタイムを出した後にもう1周アタックする余裕があったのですが、ターゲットは3番手以内でしたしQ2のタイヤを決勝で使うケースも考えられるので、暫定2番手でも良しとしました。こうした98%をキープする戦い方が、結果的にはシーズンを通した戦闘力のアベレージを上げ、速さというよりも、1号車の強さの理由になっているのだと思います。
そして2025年のスーパーGTチャンピオンは、seven x sevenさんの賞典として石垣島にプライベートジェットで招待いただけます! 詳細はまだ知らされていないのですが、もし石垣島でのひとときが実現すれば、チーム全員で一息ついて、次なる4連覇の挑戦へ気持ちを切り替えていきたいと思います。
●Profile:吉武聡(よしたけさとし)
福岡県出身、1979年3月23日生まれ。自動車メーカー勤務からTRD(現TGR-D)へ入社し、2013年にトムスへ入社。F3のエンジニアを務めながら、2014年からはスーパーGT500クラスで36号車(現1号車)のデータエンジニアを、2020年からはトラックエンジニアを担当。2021年、2023年、2024年に王者に輝いた。2025年は1号車のチーフエンジニアを担当し、スーパーフォーミュラ・ライツでは35、36、37、38号車の4台のチーフエンジニアを務めている。
[オートスポーツweb 2025年11月13日]
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