●シェアリング大手「LUUP」が新たな交通手段に
電動キックボードは、従来は原動機付自転車(原付バイク)と同じ法的区分で、運転免許の取得とヘルメットの着用が義務でした。
【画像】「えっ…こんなにあるの?」多様な電動キックボードを画像で見る(12枚)
これが2023年7月の改正道交法施行により、同法で新設された「特定小型原動機付自転車(特定小型原付)」に区分が変わったことで、免許は不要(16歳以上)、ヘルメットは努力義務となり、車道に加え自転車道や歩道(一部)も走行可能に。その法的な扱いはほぼ〝自転車並み〟に緩和されました。
あおり運転や飲酒運転による事故の増加を受け、近年は厳罰化の傾向にあった道交法がここまで緩和された背景には、国家的な戦略があります。
既存の法律が壁となり、民間発の革新的な技術の実装が円滑に進まない…。そんな社会課題を解消する目的で内閣官房は「規制のサンドボックス制度」を2018年に創設。
この制度では、認定事業者が規制の適用を受けずに新技術の実証を行うことができ、23年末時点ではモビリティやフィンテック、ヘルスケアなどの分野で150事業者が認定されていました。
あらゆる家電を高速通信でつなぐコネクテッド家電の実現をめざすパナソニックや、自販機による一般医薬品の無人販売をめざす大正製薬などの実証と並び、この制度に認定されていたのが「電動キックボードのシェアリング事業の実施に向けた実証」です。
その実証には現在、シェアサービス国内最大手の「LUUP」など複数の事業者が参画し、「時速15km・免許不要」といった条件下で約半年間の走行実証を大学構内などで実施。そこで一定の安全性が確認され、改正道交法の成立へとつながります。
法改正以降、電動キックボード市場を牽引したのが前述のシェアリング大手「LUUP」です。20年に東京・渋谷区内50カ所からスタートした24年10月時点で全国1万ヵ所以上に急拡大。大都市部を中心とするその普及エリアでは、自宅から駅、駅からオフィスと、路線バスやタクシー、自転車などと並ぶ〝ラストワンマイル〟の新しい交通手段になりつつあります。
●LUUP一強となった理由とは?
一方、電動キックボードの個人所有の領域=販売市場も法改正が追い風になっています。特定小型原付を扱うメーカーや販売会社が加盟する業界団体「JEMPA(ジェムパ)」(一般社団法人日本電動モビリティ推進協会)によると、加盟社が扱う原付1種・2種、特定小型原付の車両販売数は21年の5520台から、23年には9200台まで急増。
そのなかに占める、電動キックボード(特定小型原付)の販売台数は5010台と過半数を占め、躍進しました。
この1年で大きく拡大した電動キックボード市場ですが、事業者の参入状況では「シェアリング」と「販売」で好対照な動向が見られます。和歌山市に本社・工場を置くJEMPA加盟のメーカー「glafit」の鳴海禎造代表(兼・JEMPA代表理事)がこう話します。
「(主にメーカーと販売会社が加盟する)JEMPAの加盟社数は20年の設立当初で5社でしたが、法改正後は毎月1社ずつ加盟申請があるような状況で、現在は約20社に。非加盟社も数多く存在し、製造・販売分野の事業者数は何倍にも膨れ上がっています」
今年に入り、店頭での電動キックボードの取り扱いを始めたオートバックスセブンなど大手企業が参入する動きがあるのも販売市場の特色です。
一方のシェアリング市場は「法改正前まで5、6社が業界団体にも属する主要なプレーヤーとして活動していましたが、事業撤退が相次ぎ、今ではLUUPが市場をほぼ独占する状況にある」(鳴海氏)のが実情ですが、なぜ、LUUP〝一強〟の構図に……?
「LUUPは、国の実証事業の認可取得といった局面で業界内でも先行していました。また、他社が『マナー違反、交通違反の温床になる恐れがある』と二の足を踏んでいた訪日外国人向けのサービス展開も、アプリを英語対応にするなど、いわばアクセルを踏み切る形で一気に進めた。スピーディーな経営判断と思い切った資本投下が〝LUUP一強〟の構図を生む要因のひとつだったと感じます」(鳴海氏)
●ユーザー動向は「乗り心地」を重視する傾向に
法改正後の業界動向をつかんだところで、ここからは車種のラインナップや性能、価格といった車両そのものの直近のトレンドについて、神奈川県・川崎市に本社を置くメーカー、SWALLOW合同会社の金洋国代表の協力を得ながら解説します。
まず、電動キックボードには「特定小型原付」と、免許&ヘルメット必須の「原付一種」「原付二種」の3タイプの車両があります。
大きな違いは法定速度で、「特定小型原付」は時速20km、「一種」は時速30km、「二種」は時速60kmです。また、「特定小型原付」には電動キックボードのほかに、販売数はまだ少ないものの「着座型の二輪」があります。
SWALLOWは、その全タイプの車両を扱う数少ないメーカーのひとつ。金代表は、「昨年、最も売れたのは『特定小型原付』の電動キックボードでしたが、今年に入り、『原付一種』のキックボードを買うお客様の方が多くなってきた」と言います。なぜでしょう?
「複数のお客様から聞いた話では、『特定小型原付だと遅すぎる』『以前(特定小型原付の)LUUPに乗ったけど次々と自転車に抜かされるのが嫌だった』など、『特定小型原付』の法定速度に物足りなさやストレスを感じる方が多かったです」(金氏)
SWALLOWが取り扱う特定小型原付『ZERO9 Lite』の販売価格は13万9800円、一方の原付一種『ZERO9』は14万9800円と、価格差はわずか1万円でした。移動手段としての手軽さや安全性、スピード感や爽快感など、何を優先するかで選択肢が変わってきそうです。
続いて、電動キックボードは「車種によって乗り心地がかなり変わってくる」と金氏は言います。その理由は、タイヤにありました。電動キックボードのタイヤは、大きくは内部に空気が入った『エアタイヤ』と、空気が入っていない『エアレスタイヤ』の2種に大別されます。
「『エアタイヤ』はクッション性が高く、乗り心地がいい反面、空気圧の点検や充填といったメンテナンスが必要で、怠るとパンクしやすいというデメリットがあります。
『エアレスタイヤ』は空気充填の必要がなく、パンクしないという利点がありますが、タイヤ自体が硬質なゴムでできているため走行時の振動が身体に伝わりやすく、グリップ性も優れていないので、濡れた路面では滑りやすいというデメリットがあります」
市場に流通している電動キックボードは、「エアタイヤとエアレスタイヤで二極化しているのが現状」と金氏はいいますが、前述のシェアリング大手「LUUP」の車両は、「『エアレスタイヤ』の方を採用している」とのこと。
「一般的に、シェアサービスの車両は不特定多数の方が高頻度で利用するため、乗り心地よりもパンクのしにくさを重視する傾向が強い。また『LUUP』の車両は、販売用では主流の折り畳み式ではないのですが、これも、可動部が多ければ多いほど故障しやすいというリスクを回避する狙いがあってのことだと推察できます」
SWALLOWでは乗り心地を重視し、すべての取扱い車種について『エアタイヤ』を採用しているとのこと。事業者によっても判断が異なるタイヤの仕様。ここは車両選びの際には留意すべきポイントとなります。
ここまで、電動キックボードの普及の背景から市場の最新動向、車両のトレンドまでを取り上げてきました。後編記事では、違反者急増が火種となり、批判ムードが高まる電動キックボードの行く末と、「特定小型原付」のなかでも今後の成長性が最も高いと見込まれる新たなモビリティの動向についてレポートします。
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