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【真のアメリカン・スポーツ】デュポン・モデルG スピードスター 5.3L直8でル・マン参戦 前編

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【真のアメリカン・スポーツ】デュポン・モデルG スピードスター 5.3L直8でル・マン参戦 前編

アメリカ最速のクルマを夢見たデュポン

執筆:Mick Walsh(ミック・ウォルシュ)

【画像】デュポン・モデルG スピードスターと同時期のデューセンバーグ・モデルSJ 全56枚

撮影:James Mann(ジェームズ・マン)

翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)


コルベットやコブラが登場する以前、アメリカ製スポーツカーは珍しい存在だった。その中で最も成功したモデルが、マーサー・レースアバウト。レーシングマシンから派生したそのままの、オープン・コクピットが特徴だ。

1920年代、艶やかなコーチビルドボディをまとったスポーツカーは、裕福な人だけが楽しめるアイテムに過ぎなかった。広大な土地に長大な道路を持つアメリカ人にとって、2シーターのクルマは贅沢品そのものだった。

そんな時代に、アメリカ最速のクルマを夢見る男がいた。ノース・カロライナ州ウィルミントンで、海洋製品から高級自動車の生産へ事業転換を図った、ポール・デュポンだ。

裕福な親族の協力が身近にあったデュポンは、1900年代初頭に創業したマーサー・モーター社で営業部長を努めていたウィリアム・スミスと、航空事業を展開するライト・マーティン社で技術者だったジョンAピアソンを招聘。

当時最高の部品を調達し、ハンドビルドの高性能エキゾチック・マシンを開発した。その頃のアメ車としては画期的な、4速MTと優れた潤滑機能を備えるクルマだった。

デュポン・モーター社のモデルとして、自社開発のエンジンを搭載していたのは、最初のモデルAのみ。ハーシェル・スピルマン社製の直列6気筒などがパワフルだと気づくと、社外エンジンへ早期に切り替えた。

モデルEの頃には、排気量の拡大と同時にスーパーチャージャーも搭載。多気筒化も、より多くの馬力を得るうえで有効な手段になっていた。

5.3L直列8気筒のスピードスター

モデルGに積まれたのは、航空機用エンジンを手掛けるコンチネンタル・モータース社製の5.3L直列8気筒。4速MTのほか、油圧ブレーキとショックアブソーバーも採用。美術大学を卒業したての、ジョージ・スウィーバーがボディデザインを担当した。

モデルGで最も速く興奮を誘うクルマが、チューニングされたコンチネンタルLヘッドで強化された直列8気筒を搭載するスピードスター。ホイールベースが125インチ、3175mmのシャシーを持つ、今回ご紹介するクルマだ。

専用カムと硬いバルブスプリング、アルミ製ピストンを採用し、最高出力は142ps/3600rpmと、当時としては優勢な数字だった。コンチネンタル社製であることを隠すため、デュポン・ロゴの入ったバルブカーバーがエンジンに被せられた。

ニューヨークで有力なディーラーを営んでいたアルフレドJミランダ・ジュニアは、スピードスターの計画を聞くとデュポンへ提案。コーチビルドを手掛けるブリッグス・ウィーバー社による、象徴的なスタイリングが与えられることになる。

その結果獲得したのが、樽型のフロントノーズと、滑らかに後ろへ流れるワンピースのフェンダー。航空機のようなヘッドライトに、傾斜したフロントガラスもユニークだ。

モデルG スピードスターは、1929年のニューヨーク自動車ショーでデビューする。すぐにセレブからの注文を受け、その1台には赤い蛇革のインテリアが指定された。

ところが大恐慌が世界を襲い、生産されたのは11台限り。驚くことに、6台が現存しているようだ。

ル・マン24時間レースへ参戦

新モデルの高性能ぶりを証明したいと考えたミランダ・ジュニアは、ル・マン24時間レースとアイリッシュ・グランプリへの出場を考える。当時のル・マンでは、4シーター・ボディが参加ルールとして決められていた。

2台の1929年式モデルG スピードスターをル・マン・ボディに改めるため、デュポンはブリッグス・ウィーバー社へ作業を依頼。専用のデュアルカウル・ボディを成形し、アメリカン・レーシングホワイトで塗装された。

英国のラッジ・ホイットワース社製ホイールに、フレア・サイクルフェンダー、レザーのボンネットストラップなど、ヨーロッパ風のディテールで仕上げられた。特徴だった流線型のヘッドライトは、高効率の丸形3灯へ置き換えられた。

ミランダ・ジュニアは、チャールズ・モラン・ジュニアのコ・ドライバーとしてル・マンに参戦。彼もデュポン・モデルの販売に関わっており、すでに欧州での参戦経験を持っていた。ル・マンに参戦した、初めてのオール・アメリカンのチームだった。

高身長のモラン・ジュニアも、生粋のクルマ好き。ベントレーやマセラティ、フェラーリを定期的に乗り継いでいた。当初は販売員の1人だったが、優れた技術力はデュポン社ですぐに頭角を現したという。

1932年には金融事業に注力するためモータースポーツから手を引くが、第二次大戦以降はル・マンに復帰。1951年にはフェラーリ212、1953年にはカニンガムC4Rクーペで戦っている。その後、スポーツカー・クラブ・オブ・アメリカの中心人物になった。

サンドバッグが壊したトランスミッション

さて、1929年のル・マンに参戦することになったデュポン・モデルG スピードスター。準備は首尾よく進められたが、2台目のクルマは試走中に破損。1台での出場を余儀なくされた。

必要なすべての装備は、フランスへ一足早く到着。レース前のテスト走行として、フランス・モンテリ・サーキットが予約された。

コンチネンタル・モータース社製のサイドバルブ5.3L直列8気筒エンジンを積むとはいえ、モデルG スピードスターの車重は2t以上と軽くなかった。それでもテスト走行では、160km/h以上のスピードが出ることが証明された。

期待を胸にスタートしたル・マン。真っ白のスピードスターが、レーシンググリーンの英国勢と互角に走った。当初はトップ10にランクインするほど。アメリカ勢として他にスタッツとクライスラーも参戦していたが、平均117km/hの速度でリードした。

しかし20周目にトランスミッションが故障。リタイアしてしまう。後にポール・デュポンが回想している。「レースでは、無駄なウエイトを載せる必要がありました。経験不足で、リア側のフロアにサンドバッグを載せて、バランスを取ったんです」

「レース中にバラストがフロアを破り、プロペラシャフトに当たってトランスミッションを破壊。車載道具での修理は不可能でした。アメリカ勢として、ノーマルのクルマでアマチュア2人がル・マンでの栄光を目指した、勇敢なチャレンジでしたね」

この続きは後編にて。

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