かつてステアリングはスポーティカーならグリップ太目の3本スポークだったりと個性を主張するアイテムのひとつだった。純正品、アフター用品ともいろいろな形状があり、素材はウレタン、本革巻き、ウッドなどなど多種多彩を誇ったものだ。
この図式が崩れた最大の要因はエアバッグの登場で、エアバッグ登場黎明期はデザインの自由度がなく同じようなステアリングを採用するケースが増えていった。
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そんなステアリング暗黒期を経て現在ではD型と呼ばれる円形でないステアリングも登場しているし、ボタン、スイッチがアレコレ装着されて複雑になってきている。
そんなか、新型フィットが現代では珍しい2本スポークステアリングを純正採用してきた。かつて存在した2本スポークだが、今見ると逆に新鮮に映るから不思議だ。
本企画では、個性的なデザインのステアリングを純正装着していた1970年代以降に登場した国産車を集めて紹介していく。
文:永田恵一/写真:SUBARU、MITSUBISHI、HONDA、TOYOTA、NISSAN、CITROËN
【画像ギャラリー】独創性が凄い!! 個性的なステアリングと言えばシトロエン!!
左右非対称ステアリング
採用車:スバルアルシオーネ(初代)
販売期間:1985~1991年
1985年にデビューしたスバル初のスペシャリティクーペのアルシオーネは直線基調のデザインが特徴的。北米では人気だったが、日本では苦戦
日本車史上最も斬新なデザインのステアリングを採用したのがアルシオーネと言っていいのではないか。
ステアリングは左右に回すため、左右対称というのが一番理にかなっている。当然の話だが、アルシオーネのステアリングはピストル型のような左右非対称デザインだ。3本スポークの1本が欠けているのだ。
一説では富士重工の頭文字であるFをモチーフとしたデザインだったとも言われていた。
エクステリアに負けず劣らず斬新なインテリア。ピストル型の非対称ステアリングが凄すぎる。ステアリングの両サイドにスイッチが並ぶのは当時としては画期的
アルシオーネはチルト(上下調節)&テレスコ(前後調節)を備えていたが、チルト時はメーターパネルごと動くというのも特徴的だった。個性的なエクステリアに負けず劣らず、ステアリングも超絶斬新だった。
ただし、操作感についてどのくらい切っているのかわかりにくいと不評だったようだ。
1本スポークステアリング
採用車: 三菱ギャランΛ(ラムダ・初代)
販売期間:1976~1980年
三菱のスペシャリティクーペとして大人気となった初代ギャランΛは角型4灯ヘッドランプを日本車で初採用し、スラントノーズのトレンドも作った
今見ると意外にしっかりしている1本スポークステアリング。逆にシフトレバーとウィンカーレバーの細さが強調される
オート三輪や1960年代のクルマでは非常に簡素な1本スポークステアリングが採用されていたが、1980年代以降の日本車で1本スポークステアリングの代表選手と言えば三菱のスペシャルティカーであるギャランΛを置いてほかにない。
1本スポークのステアリングを採用したのはメーターの視認性向上のためだが、デザインにこだわった点も無視できない。
実際の操作感だが、人それぞれ運転に癖があり、スポークに親指をかけて運転する人は多く、慣れるまでかなり違和感があったという。
いっぽう内掛け愛好家には、邪魔するものがないので回しやすくて好評だったという。
ギャランΛは、角型4灯ヘッドランプ、スラントノーズの先鞭をつけ、その後の日本車のエクステリアデザインに大きな影響を与えたが、1本スポークステアリングは伝播せず!!
本家三菱は1983年にデビューした5代目ギャランでは極太の1本スポークステアリングに進化させた。相変わらずの視認性のよさはあったが、Λ時代よりもデザインは劣化していた。
FFになって生まれ変わった5代目ギャラン。ギャランΛの後継モデルとして4ドアハードトップが追加された(写真は4ドアセダン)
ギャランΛの1本スポークステアリングの進化版でどっしり感はあるがΛにあった色っぽさは感じられない
4本スポークステアリング
採用車:ホンダアコード(初代)
販売期間:1976~1981年
シビックの兄貴分としてCVCCエンジンを搭載して登場したアコードは最初は3ドアハッチバックのみだったが、後に4ドアセダンを追加
4本スポークのステアリング自体はさして珍しいものではないが、アコードの4本スポークステアリングが世界的に見てレアなのは、時計で言えば10時10分に近い円形の上部にスポークが配置されていることだ。
ステアリングのデザインはメーターの視認性を妨げないようにスポーク類は9時15分の位置より下に配置されるのが一般的だが、アコードはその概念を覆した。
しかし、このステアリングが一般化しなかったのを見ると、評判はイマイチだったんだろうと想像がつく。ちょっとメーターが隠れているから見づらかったんだろう。
初代アコードの4本スポークステアリングは、スポークは9時15分より上の部分に配置しないというクルマ界の常識を覆して登場
ブーメラン型ステアリング(2本スポーク)
採用車:トヨタカローラ(4代目)、日産シルビア(3代目)/ガゼール(初代)、ホンダシティ(初代)
販売期間:1979~1983年(カローラ/シルビア/ガゼール)、シティ(1981~1986年)
カローラレビンと名乗ったのは3ドアハッチバックのみで、写真は2ドアハードトップでそのトップモデルがGTだった
セダンと差別化するために2ドアハードトップにはブーメラン型のステアリングが採用された。スポーティなデザインかつメーターの視認性もバッチリ
メーターの視認性を高めたいが、1本ではデザイン的あっさりし過ぎる、という場合に重宝したのが2本スポークステアリング。ただし、真横にスポークを配置するのではなく、デザインにこだわった結果登場したのがブーメラン型と言っていいだろう。
代表的なのは1979年にデビューした4代目カローラで、2ドアハードトップに純正採用された。今見ると確かに2本スポークでスポーティなイメージに感じる。
そのほかでは、1979年デビューの3代目日産シルビア/初代ガゼールはブーメラン型の変形でより角度のきつい逆V型、ホンダでは1981年にデビューしたシティにブーメラン型2本スポークステアリングがそれぞれ採用された。
3代目シルビアはノッチバッククーペ(写真)のほか、3ドアハッチバックもラインナップされた
3代目シルビアのステアリングはブーメラン型というよりも逆V字といったほうがいいくらいスポークの角度がきつい
ちなみに、よりスポーティなシティターボ、シティターボIIはオーソドックスな3本スポークステアリングを採用していた。
ある意味ブーメラン型が日本車でトレンドだったことがわかる。
1981年にトールボーイの愛称でホンダのコンパクトカーとして一躍人気モデルとなった初代シティ。ターボ、ターボII、カブリオレを追加
シティの標準タイプに装着されたブーメラン型のステアリング。ちなみにターボ、ターボIIはまったくデザインが異なる3本スポークステアリングが装着された
富士山型ステアリング(2本スポーク)
採用車:日産シルビア(4代目)/ガゼール(2代目)
販売期間:1983~1988年
シルビア史上初のリトラクタブルヘッドランプを採用した4代目。トップモデルにはスカイラインと同じFJ20が搭載された
富士山型(←勝手に命名)を採用したのは1983年にデビューした4代目日産シルビア/2代目ガゼールだけというレアタイプ。
基本は円の中心からオフセットされたストレートスポーク(2本)なのだが、ステアリング取り付け部分のボスのところがなだらかな峰の形状をしている。
操作性はさておいて、スポーツスペシャルティのシルビア/ガゼールでは日産はユーザーにアピールするためにあの手この手を駆使していたのがよくわかる。
基本は円の中心からオフセットされたストレートスポークなのだが、その上に稜線のような形状でボスにつながる不思議なデザインを採用
センター固定式ステアリング
採用車:日産セドリック(7代目)/グロリア(8代目)
販売期間:1987~1991年
日産のクラウン対抗モデルでラグジュアリーさとスポーティさを持ち合わせていたセドリック/グロリア(写真はセドリック)
日産セドリック(7代目)/グロリア(8代目)の4ドアハードトップモデルに純正採用されたステアリングの基本デザインは3本スポークなのだが、ステアリングセンターに弁当箱のような形状をしたボックスが付加されているのが特徴だ。
まぁ、これまで紹介してきたステアリングに比べてデザイン的に特徴があるわけではないが、このステアリングは、弁当箱部分が固定されていて動かない。
3本スポークのステアリングのセンター部分に弁当箱状のものを配置。このボックスはステアリングを左右に切っても固定されて動かない
このセドリック/グロリアはステアリングに複数のスイッチ、ボタンを装着されていて、ステアリングを切っても常に操作しやすいように設計されていたのだ。
実際にステアリングだけ回ってセンターが動かないのは慣れるまでかなりの違和感があるものだが、確かにスイッチ類の操作性に優れていた。
センター固定の動かないタイプのステアリングはシトロエンが有名だが、日産もしっかりと実用化してチャレンジしていたのだ。
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