McLaren 570S Spider
マクラーレン 570Sスパイダー
もはやクーペを選ぶ理由はない。マクラーレン 720Sスパイダーの試乗で至った境地 【Playback GENROQ2019】
太陽の誘惑を実感するスパイダーでのドライブ
マクラーレンのスポーツシリーズの中心的存在である570Sに新たにスパイダーボディが加わった。V8ツインターボによる軽快な走りはそのままに、光と風と一体となれるオープンドライブという選択肢が増えたことで、マクラーレンの世界はさらなる広がりを見せることになるだろう。
「スパイダーの追加で570Sは3つめのボディスタイルを持つことになる」
2012年に12Cスパイダー、14年に650Sスパイダー、そして16年に675LTスパイダーを送り出してきたマクラーレンにとって、スポーツシリーズにスパイダーをラインナップすることはやはり当然の流れだったようで、570Sは開発時からスパイダーの設定を考慮していたのだという。これで570はクーペの「S」、横開き式のガラスハッチを持つ「GT」に加えて3つめとなるボディスタイルを持つことになる。
570Sスパイダーの構造は、従来のマクラーレンのスパイダーたちと同じように、ハードトップのルーフ部分をシート背後のスペースに折り畳んで収納するというもの。その操作はセンターコンソールに設けられたスイッチを押すだけで、まずはトノカバーが後ろを軸にして跳ね上がり、そこにルーフがふたつに折り畳まれて格納され、再びトノカバーが閉じて完了する。所要時間はわずか15秒で、40km/h以下であれば走行中でも操作は可能だ。
「新たな色使いで地をはうようなスパイダーのスタイルがさらに強調された」
オープン化に伴ってボディ後半部分は大きく作り替えられている。トノカバーとなるシート直後の部分は、ヘッドレストからそのまま大きな山がリヤに向かってスロープを作り、力強さと軽快感を主張すると同時にややクラシックな雰囲気も醸し出す。ルーフの動作とは別にトノカバーだけを単体で開閉することも可能で、その理由はクローズド時にはトノカバー下のルーフ収納スペースを物入れとして利用できるからだ。その容量は52リットルで、ビジネスバッグふたつくらいなら十分に収納できる。もちろんフロントの150リットルのラゲッジスペースはそのままだから、スパイダーは実用面でもクーペよりアドバンテージを持つことになるわけだ。リヤサイドウインドウはなく、トノカバーのふたつの山の間にはガラス製のウインドディフレクターが設けられている。これはやはりセンターコンソールのスイッチで上下させることができるようになっている。
これらのデザイン変更はマクラーレンの他のスパイダーと同様の手法なので、新鮮な驚きは薄いかもしれない。しかし、570Sスパイダーは従来と違う、新しいスタイルを採用している。それはカラーリングだ。570SスパイダーはAピラーからルーフ、そしてトノカバーからエンジンフードまでをブラックアウトしているのである。これによって視覚的な重心がグンと下がり、地をはうようなスパイダーのスタイルがさらに強調された。今回の試乗には新色となる鮮やかなボディカラーが用意されていたので、上半分のブラックとのコントラストは、より鮮やかで鮮烈だ。
「570Sとの重量差は僅か46kg。カーボンシャシーの効果は絶大だ」
もうひとつ、クーペとの外観上の違いはリヤスポイラーが12mm高められていることだ。その理由をチーフエンジニアのポール・バーンハム氏に訊ねると「オープン化によってリヤのダウンフォースが30kg減ってしまいました。そこでリヤスポイラーを12mm高くして、クーペと同等のダウンフォース量を得ています」と教えてくれた。そういえば570GTも同じようにリヤスポイラーが高くされていたことを考えると、クーペのトンネル状のCピラーはかなりダウンフォースを高める効果があるということだろう。
マクラーレンがディヘドラルドアと呼ぶ、斜め上方に跳ね上がるドアを開けてシートに滑り込む。570Sはサイドシルのフレームの張り出しが穏やかなので、ルーフが閉じていても乗り込むのにさほどの苦労はない。この重量75kgと軽量ながら強固なバスタブ状カーボンストラクチャーの恩恵で、スパイダー化に伴うボディ補強の必要はまったくなかったのだというから、驚きだ。570Sスパイダーの重量は1498kg。これはクーペより僅かに46kg重いだけだ。おそらくその要因はリンク類やモーター、ハーネスなど、リトラクタブルルーフの構造に伴うものだけだと思われる。
「収納が充実しているのも現代のスーパースポーツカーとして十分に合格点」
インテリアの基本的な作りはクーペと同様で、レザーとアルカンターラで覆われた上下2分割のインパネは、TFT液晶のメーターパネルや縦型の大型モニターなど、モダンで洗練された雰囲気。スイッチ類を極力廃したおかげでドリンクホルダーなどの収納が充実しているのも、現代のスーパースポーツカーとして十分に合格点だ。
46kgの重量増は、570ps/7500rpm、600Nm/5000~6500rpmを発揮する3.8リッターのV8ツインターボにとっては誤差にもならないようで、その加速はすさまじい。ハイウェイではアクセルをちょっと踏めばあっという間に前のクルマが迫ってくるが、アクセル操作に対するエンジンのレスポンスの素晴らしさ、トランスミッションのオートモードのスムーズさなどはしっかりと伝わってくる。気持ちのいいエンジンサウンドがよく聞こえてくるので、やはりクーペとは違うな、と思ったら背後のウインドディフレクターが開いていた。これを閉めると室内はいきなり静かになる。逆に言えばクローズドでもエンジンサウンドを楽しみながら走れるのは、オーナーにとっては大きな楽しみとなるだろう。
「コーナーでの一連の動きはまるでダンスを踊るような軽やかさ」
ハイウェイを降りてワインディングに乗り入れたところで、いよいよフルオープンにしてみると、乾いた空気や流れる景色を全身に感じることで、ドライブの興奮は一層高まる。開放感はタップリだが、不快な風の巻き込みはほとんどない。ウインドディフレクターの効果はいかほどかと、走行中に上げたり下げたりしてみたが、その差をあまり感じなかったのは良いことなのかどうかわからないが。
街中では初期タッチが甘く感じられたカーボンセラミックディスクのブレーキも、ワインディングでは足の指先による微妙なスピード調整が思いのまま。大きめのパドルシフトで瞬時にシフトダウンし、ステアリングを切り込んでいくと570Sスパイダーは狙った通りのラインを寸分違わずトレースし、強烈なトラクションで次のコーナーへ突き進む。その一連の動きはまるでダンスを踊るような軽やかさで、操る者に震えるような快感を与えてくれる。
V8ツインターボは3000~6000rpmあたりが最も気持ちが良く、まるでNAエンジンのようにアクセルに呼応して繊細な回転の上下を見せてくれる。それに伴って発生するサウンドを全身で感じられるのも、スパイダーならではだ。これでも物足りない人には、エキゾースト・サウンドをさらに室内に導いてくれるエキゾースト・サウンド・ジェネレーターもオプションで選ぶことができる。
「操る楽しさはさらなる高みへ。もはやスパイダーを選ばない理由はない」
そして多少ハードな走りを試みてもボディの軋みやゆがみなどを一切感じないのは大したもの。F1のテクノロジーを活かしたカーボンのモノセルIIシャシーの効果は絶大だ。サスペンションはノーマル、スポーツ、トラックの3つのモードが選択できるが、少なくとも公道で楽しむ限りではノーマルで十分だと感じた。正直、ノーマルとスポーツの差があまり大きくないというのもあるのだが、一般レベルでは街中から峠まで、ノーマルに入れっぱなしで問題はないだろう。
600psクラスのV8ミッドシップスポーツは強力なライバルも多いが、その中でも570シリーズはプロドライバーでなくても操る楽しさを存分に味わえる1台ではないかと思う。それはこのスパイダーでもまったく変わらず、いや、オープンとなってなお一層その楽しさは広がったといえる。すでにマクラーレンは4000台のスパイダーを販売してきたというが、新たにこの570Sスパイダーが加わることで、その数字はさらに大きく飛躍することだろう。走りや耐候性へのネガがまったくないうえに、実用性や操る歓びはさらに上の高みへと引き上げられた。もはやスパイダーを選ばない理由は、ない。
REPORT/永田元輔(Gensuke NAGATA)
PHOTO/McLaren Automotive
SPECIFICATIONS
マクラーレン 570Sスパイダー
ボディサイズ:全長4530 全幅1930 全高1202mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1498kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
最高出力:419kW(570ps)/7500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/5000-6500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前394 後380mm
タイヤサイズ:前225/35R19(8J) 後285/35R20(10J)
最高速度:328km/h
0-100km/h:3.2秒
燃料消費率:10.7リッター/100km
車両本体価格:2898万8000円
※GENROQ 2017年 10月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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