時価総額で年産1000万台級のトヨタやVWを超えた?
イーロン・マスク氏率いるテスラモーターズの評価は上がる一方です。すでに時価総額(株価に発行済株式数を掛けた乗数)では自動車メーカートップとなっています。つまり、年間で1000万台を超える自動車を売っているフォルクスワーゲン・グループやトヨタ・グループよりも高い評価を株式市場から受けているわけです。
とはいえ、2019年実績でいえばその生産規模は36万台程度(2019年度)であって、自動車メーカーとしては、かなり小規模な部類です。現在はアメリカ、中国の生産工場に加え、ドイツのベルリンにも工場を建設していますが、それでも世界中に工場を持つフォルクスワーゲンやトヨタと同等レベルの生産能力があるとはとてもいえません。
10年後も生産は300万台以下だが売上高でトヨタを抜く?
世界的な金融機関グループであるモルガンスタンレーのアナリストが予想するところによると、テスラモーターズの売上高は10年以内にトヨタやフォルクスワーゲンを追い抜くといいます。その一方で10年後の生産規模は300万台にとどまるといいます。
自動車業界は100年に一度の変革期といわれていますが、10年後にトヨタやフォルクスワーゲンの生産規模が現在の1/3になってしまうというのは考えづらく(もし、そうなったらどちらかは消滅している可能性が高い)、300万台規模のメーカーが世界一の売上高を誇るという予想は眉唾物です。
テスラモーターズが電気自動車専業ブランドとして価値を高めており、販売台数的にも確実に成長しているのは間違いありませんが、売上(販売台数)で世界一になるためには、300万台でも足りないと考えるのが妥当です。もちろん、シェアリングの普及などにより世界的な自動車の販売台数が10年後には激減している可能性もあります。そうした状況において300万台を売っていれば世界一の売上を実現できるかもしれませんが、そこまでの変革が、“この10年”で起きるかどうかも不確定要素といえましょう。
世界はAppleのようなイノベーションを期待している
では、テスラモーターズの株価や時価総額は単なるバブル的なものなのかといえば、そうとはいえません。おそらくテスラモーターズに投資している人は同社を自動車メーカーとしては見ていないからこそ、既存の自動車メーカー的な価値では考えられないほどの時価総額になっているといえます。
たとえば、アメリカ企業でいえばAppleはコンピュータがメインで、Windows陣営に押されていた時代には株価はいまでは考えられないほど低かったことは知られています。そもそも最悪の時代には倒産の危機に瀕していた会社です。それが現在では、スマートフォンの代名詞ともいえるiPhoneでAppleの株価は上がり続けています。
テスラはGAFAのような巨大企業になるポテンシャルがある
おそらく株式市場が期待しているのは、テスラモーターズが単なる自動車メーカーではなく、モビリティにおけるイノベーション企業になったときへの成長でしょう。
イノベーションの源泉が自動運転のオペレーティングシステムなのか、まったく別の移動体を生み出すのかまったく予想もつきませんが、少なくとも既存の自動車ビジネスと同じ土俵で戦うと考えられていないからこそ、現在の規模であれだけの株価をつけているといえます。
そうした期待にこたえる提案を見せ続けることが同社の株価を上昇させるには必要であり、そのシンボルとしてイーロン・マスク氏の存在は不可欠といえます。彼のプレゼンテーションによって株価を高めていると考えるべきでしょう。
ですから、テスラモーターズが時価総額でトヨタを超えたというのは、それはそれで驚くべき事実ですが、本質的にはテスラモーターズの株価は自動車メーカーとしての評価ではないと考えるべきです。むしろ、GAFAのような巨大企業になるポテンシャルがあると市場が期待していることで株価が上昇していると理解すべきではないでしょうか。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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みんなのコメント
しかし、時価総額が会社の将来を約束しているものではない。
自動車評論家なら、EV事業の将来性をどう見ているか、もっと取り上げて欲しいものだ。