〝空飛ぶクルマ〟と呼ばれているが、道路を走るわけではなく、究極的には自律飛行を目指す、乗用ドローンのことを指す。お披露目まで2年を切った次世代モビリティーの未来を展望する。
官民体制で推進する次世代モビリティー
4月からレベル4が解禁!自動運転のレベル分けはどうなっている?
無人航空機であるドローンは、ここ数年で身近な存在になった。趣味で操縦をする、ダイナミックな景色を撮影するといったプライベートな楽しみだけではない。農薬・肥料の散布や地図の制作、警備、インフラ点検、また昨年はセブン-イレブン・ジャパンがANAと共同で、コンビニエンスストアがない離島へ、スマホのアプリで注文した商品を島の指定された場所に配送する実証実験を実施したことが話題になった。ドライバーの人手不足が懸念される2024年問題の解決策のひとつとしてドローンの活用が期待されているのだ。
そしてこのドローンに、さらなる進化をもたらすと目されているのが、政府が主導する空飛ぶクルマ構想だ。空飛ぶクルマは、日常の移動スタイルを変える可能性を秘めた技術であり、2025年の大阪・関西万博の目玉として世界中から注目を集めている。空飛ぶクルマを簡単に説明すれば〝人が乗ることができるドローン〟だ。ヘリコプターのように燃料を使って飛ばすのではなく、ドローン同様にバッテリー駆動の電動で飛ばすが、電動化したヘリコプターと言い換えても差し支えないだろう。
昨年10月、ANAとセブン-イレブンはドローン配送サービスの本格運用に向けて実証実験を実施した。
オンデマンド飛行は10年先の未来を視野に
政府の構想によれば、万博を皮切りに空飛ぶクルマの商用化に向けた動きが加速するという。実際の状況はどうか? 2014年より空飛ぶクルマの開発に動き出した人物であり、空飛ぶクルマの運航事業者のひとつであるSkyDrive社と機体を共同開発するDream On(旧CARTIVATOR)の中村翼代表に話を伺った。
中村代表によると、空飛ぶクルマの正式名称は「電動垂直離着陸型無操縦者航空機(eVTOL)」といい、ドローンのように垂直に上昇してから前へ進む運航方式をとる。高度はドローンよりも高い上空150m以上が最低要件で、都心部では建物から300m上空での運用が求められているという。
また、駆動音が静かであることも特徴としており、日常生活を送る中で、上空を飛んでいることを気づかせない程度の騒音を想定して開発が進んでいる。
空飛ぶクルマの商用化が実現し、一般的なモビリティーとして普及したあかつきには、タクシーと比べて運賃は1.5倍、移動時間は5分の1程度に短縮されると予想。2030年頃には空飛ぶクルマが電車やタクシーと同様に、身近な移動手段のひとつになる可能性を秘めていると中村代表は話す。
地域連携と環境整備も空飛ぶクルマ普及の鍵に
ただ、商用化実現で重要なのは性能だけではない。何よりも不可欠なのが、機体の型式証明、航空運送事業の許可である。
「一般的な航空機はこれまで培ってきた経験や技術で、安全性を予測することができます。しかし、eVTOLという規格自体がこれまでなかったもの。機体の開発競争が加速しているとはいえ、経験値は圧倒的に少ない。そうした状況の中で、現在の航空機と同様の安全性を満たすことを証明し、安定した品質で生産できる体制を確保するというのは、非常に高いハードルなのです」(前出・中村代表)
法整備も進んでいる。2022年12月、国土交通省は、無人航空機の飛行形態を、無人地帯における目視外飛行「レベル3」から、有人地帯における目視外飛行が可能になる「レベル4」まで引き上げた。これにより、人が住んでいる地域での目視外飛行が認められるようになった。もちろん、環境整備には自治体の理解と連携を欠かすことはできない。
商用化実現の前に立ちはだかる大きな課題として中村代表は〝離発着場の拡充〟と〝充電インフラの整備〟の2つを挙げる。
都市部の離発着場整備においては、ビルの屋上の活用を想定している。そこでヘリポートの出番となるわけだが、空飛ぶクルマが普及した際は、複数機が駐機できるスペースを新たに確保する必要がある。充電のインフラにおいては、離発着場での充電環境も重要で、当面は一回フライトするたびに30分~1時間の充電時間が必要になると想定される。超急速充電を整備して充電時間を短縮する方法もあるが、高圧電流を流す必要があるなど課題は尽きない。
「もうひとつ、空飛ぶクルマの自律飛行を実現するためには、運航管理と堅牢な通信環境が不可欠です。クルマの自動運転の進展と同様、空の世界でもそういった整備が進むことで、本当の意味での空飛ぶクルマの実装が始まるのではないでしょうか」(同)
政府が推進する「空の移動革命」ロードマップ
昨年3月に政府が公開した、空飛ぶクルマ商用化に向けたロードマップ。2025年開催予定の大阪・関西万博を皮切りに、商用運航に向けた動きが全国で加速する。
万博上空を飛ぶ4社の機体が商用化の狼煙に
大阪・関西万博で、日本初となる空飛ぶクルマの商用運航を予定。関西空港や神戸空港と万博会場間で来場者を輸送するほか、会場周辺や瀬戸内海を含む地域での遊覧飛行も検討。
Joby Aviation「Joby S4」(米国)
運用会社:ANA 定員:5人乗り 機体タイプ:推力偏向
画像提供:Joby Aviation
Volocopter 「VC2-1」(ドイツ)
運用会社:JAL 定員:2人乗り 機体タイプ:マルチコプター
画像提供:Vertical Aerospace
Vertical Aerospace「VA1-100」(英国)
運用会社:丸紅 定員:5人乗り 機体タイプ:推力偏向
画像提供:Volocopter
SkyDrive「SD-05」(日本)
運用会社:SkyDrive 定員:3人乗り 機体タイプ:マルチコプター
© SkyDrive
無操縦者航空機だがパイロットが搭乗。〝自律運転化〟は次の未来へ託す
2023年3月29日、国土交通省は英Vertical Aerospace「VA1-100」の型式証明を受理。万博会場上空を翔ける4機体がついに出揃った。機体はいずれも「eVTOL」と呼ばれる電動垂直離着陸機。最終的には自律運転・遠隔操作を目標に掲げるが、万博開催時はすべてパイロットが搭乗する。航続距離は約10kmとするSkyDrive「SD-05」が最短で、約240kmとする「Joby S4」が最長。性能に差はあるが、スペックをフル活用した運航は予定されていない。
© SkyDrive
取材・文/鳥海高太朗、安藤政弘
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