現在の経済的な停滞感が嘘のような高度成長の時代。日本のモータリゼーション華やかりし頃、自動車メーカー各社から次々に発売される高性能な新型車に人々は歓喜し、その車両の見た目や特徴をヒントに愛称やニックネームを付けて親しむようになった。自動車をあだ名で呼ぶ文化の始まりだ。
すべてのあだ名に共通しているのは、ユーザーからその自動車に対する愛情だ。小中高と学生時代、ロクなあだ名で呼ばれてこなかった筆者のそれとは違い、日本車のあだ名とは、自動車好きが仲間と語り合うための共通の隠語だったり、小学生が好きな子を虐めてしまうような逆説的な愛情に溢れている。その証拠にあだ名の付いたクルマは生産終了後も人々の記憶に刻まれ、いまだ根強くファンに支持されていることが多い。
「走る仏壇」を覚えてますか…よくも悪くも愛された証!! 殿堂級のあだ名で呼ばれた名車たち
それでは、今後語り継がれるべき「殿堂級のあだ名」を振り返ろう。
文/藤井順一、写真/トヨタ、日産、三菱、FavCars.com
あだ名は成功の証!?
漫画「頭文字D」で広く認知されたように、近年クルマの愛称は車検証に記載される車種やモデルの識別・分類のための「型式」で呼ばれるのが一般的となった。その筆頭たる「86(ハチロク)」は、ついにはあだ名を飛び越えて、正式にモデル名として冠されるという、まさに自動車あだ名のサクセスストーリーともいうべき成り上がりまでみせた。
だが、昭和・平成時代の自動車のあだ名には、今の時代にはない“様式美”ともいうべきものがあった。フロントフェイスやボディのシルエット、ディテールなどの見た目を形容したものに始まり、「パソコン」、「コンビニ」のような日本語特有の略語を由来とするもの、メーカーが謳った広告コピーを世代の識別に利用したもの、性能やストーリー性からどこからともなく付けられた異名など、そこには多様性があった。
言うなれば、それらは自動車のあだ名や愛称の系統といったものだ。モデルやグレード名を省略し、呼びやすくした略語系。自動車メーカーがリリース時に採用したキャッチコピーが、後に世代を識別する記号となった広告系、フロントフェイスやボディラインの造形やディテールを象徴的に捉えた人相系。誰が言ったか知らないが、構造や属性、性能からそう呼ばれるようになった異名系、あるいはそれらが複合したものもある。ここからはその代表的な例をご紹介していきたい。
あだ名のデパート! そのキャラクターは「ハコスカ」から始まった 日産・スカイライン
サイドからリアに延びる通称「サーフィンライン」も特徴。2ドアハードトップ版とともにレースで輝かしい記録を打ち立てた初代GT-R(スカイライン2000GT-R)
日本の自動車史に燦然と輝く名車の系譜、「スカイライン」は元々、日産自動車と合併する以前、プリンス自動車が展開していた車種だった。なかでも2代目は乗用車然とした見た目に、高性能2リッター直列6気筒エンジンを搭載した走りの良さから、国産車における「羊の皮を被った狼」という例えのルーツとも言われる。実はスカイラインは、当初からあだ名で呼ばれることが宿命づけられたクルマだったのかもしれない。
そんな先代のDNAを受け継ぎ、日産自動車とプリンスの合併後初めてリリースされた3代目は、スポーツグレードとして発売された「GT-R」がツーリングカーレースを席巻するなど、後の“走りの日産”的ブランドイメージを確立するきっかけとなった。
何より、その特徴的な角張ったフォルムと、当時レース用語でツーリングカーを箱車と呼んだことなどから“箱型のスカイライン”を略した「ハコスカ」の愛称で呼ばれるようになると、以降、スカイラインシリーズは、歴代でさまざまな愛称が付けられる“あだ名のデパート”とも言うべき存在となっていく。
4代目は販売時の広告コピーだった「ケンとメリーのスカイライン」を略した「ケンメリ」、5代目は「スカイライン ジャパン」の広告コピーから「ジャパン」など、キャッチコピーを元にしたかと思えば、6代目はTVCMで起用された俳優ポール・ニューマンからとった「ニューマン」。
「ハコスカ」と並び有名な6代目後期RSに付された「鉄仮面」は、当時はまだ珍しかったラジエターグリルのない意匠と薄型ヘッドライトを採用した先鋭的なデザインが、リリースと前後して放映された女優、南野陽子主演のTVドラマ『スケバン刑事II 少女鉄仮面伝説』での鉄仮面が、その愛称のルーツとも言われるなど、振り幅の広いネーミングセンスにはただただ脱帽だ。
7世代目の「セブンス」、8世代目の「超感覚」あたりからは、現在も主流の「R31」、「R32」という型式での呼称が主流となり、スカイラインの愛称は時代とともに潰えてしまったのだが、クルマをあだ名で呼ぶ文化に同車が果たした役割は大きいだろう。
あだ名で呼ばれた官公庁御用達車は国民的人気の表れだ トヨタ・クラウン
くじらというあだ名を付けられた4代目クラウン。空力を考慮して丸みを帯びた斬新なエクステリアのためか、1955年の誕生以来初めてクラス首位の座から陥落した不名誉な記録も
日産自動車の主力モデルであるスカイラインがあだ名で親しまれたように、昭和の時代、長らくライバル関係にあったトヨタ自動車のクルマも、さまざまなあだ名で呼ばれてきた。なかでも日本国民にとっての“アガリのクルマ”として君臨し、パトカーやタクシー、社有車など「日本車のベンチマーク」たる地位を確立し、現行モデルで16代目を数える「クラウン」も印象的な愛称が多いクルマだ。
初代モデルの登場は1955年。小型車チャンネルだった「トヨペット」ブランドから発売されたセダンは、「クラウン(王冠)」のエンブレムを配した2代目から高級車路線へと舵を切り、3代目にして搭載した直列6気筒エンジンを同車の象徴的なフォーマットとし、ライバルである日産自動車の「セドリック」、「グロリア」と熾烈な販売競争を繰り広げていく。
そうしたなか、1971年に発売された4代目は先代までの上級志向のオーセンティックなデザインから一転、空力を意識したスピンドルシェープ(紡錘形)と呼ぶ先鋭的なデザインを採用する。
前後を集約させた丸みを帯びたシェイプに、ボディ一体型のバンパー、ボンネットフードとグリルの間へ車幅灯とウインカーを内蔵した今見ても斬新なデザインは、その見た目から「クジラ」と呼ばれることに。
自動車デザイン先進国である欧州のトレンドを意識したと思われる“攻め過ぎた”デザインは、保守的なクラウンのユーザー層に響かず、販売実績でライバル車にクラス首位の座を奪われることになったが、時代を先取りするかのようなデザインの革新性は、クロスオーバーモデルで自動車ファンを沸かせた現行モデルにも通じる、クラウンの底力と言えるかもしれない。
また、80年代前半、6代目後期に設定されたハードトップモデルは、つり上がった目じりが印象的な異形ヘッドランプや、先端がせり出したフロントマスクなどが“鬼の形相”に見えることから「オニクラ」と称された他、2000年代に入ってからリリースされた12代目は、伝統の直列6気筒からV型6気筒などプラットフォームを一新した際の広告キャッチコピー「ZERO CROWN」から「ゼロクラウン」と呼ばれる。
クラウンといえば、7代目で採用された広告コピー「いつかはクラウン」も有名だが、販売促進のキャッチコピーがそのまま愛称として受け入れられるのは、オーナーとメーカーの信頼関係を象徴しているのかもしれない。
22年モデルチェンジなしの「走るシーラカンス」! 三菱 デボネア
1964年に登場した初代デボネア。以来、三菱自動車のフラッグシップとして22年間も基本設計を変えずに生産され続けた。ボディバリエーションは存在せず、4ドアセダンのみだった
実のところ、筆者はいわゆるスーパーカーブームより後の世代のため、クルマのあだ名全盛期をドライバーとしてリアルに体験した世代ではない。だが、「そういう呼び方もあるのだなぁ」と幼心に鮮烈に記憶しているのが、当時愛読していた「こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)」で登場した三菱自動車の「デボネア」に関する内容だった。
1964年に発売された初代デボネアは、1986年に2代目へとモデルチェンジするまでの22年間、その基本設計やデザインを変更することなく生産された。そのことから“生ける化石”として知られるシーラカンスになぞらえた“走るシーラカンス”と呼ばれていた。
こち亀では、ある日後輩とクルマでパトロールしていた主人公・両津勘吉が走行中の初代デボネアを発見。「'60年代の生き証人、現代の反逆児」、「どんな思想を持っているやつかしれない」と散々な言われようのなか、実際にデボネアのドライバーがかなりやっかいな人物で……、というのがストーリーの概要。これを読んだ自分を含む当時の少年たちの間ではそんなデボネア像が出来上がってしまったのかもしれない。
デボネアはその後、三菱の高級ラインとして3代目まで続き、1999年12月に35年に渡るモデルライフに幕をおろしたが、当時を知る自動車好きにとってデボネア=シーラカンスなのである。
おまけ~なんとも不吉な「走る仏壇」なんてあだ名も!!
5代目ローレルのキャッチコピーは「ビバリーヒルズの共感ローレル」。その言葉通り、アメリカ車を意識した押し出し感のあるフロントマスクが特徴だった
デボネア然り、クルマのあだ名に“走る〇〇”と付けるのは、昭和平成の時代に生まれたクルマにおける定型文や構文のようだった。「走る仏壇」という何やら不吉な感じの愛称で知られるのは日産・ローレル5代目だ。
曲線基調だった先代モデルから一新し、当時のアメリカ車を強く意識した押し出し感のある直線的なスタイリングは、格子状のフロントグリルやメッキパーツの多用、整然としたインパネ回りなどが、まさに仏壇的設え。こうなると世界初採用だった伝統格納式ドアミラーなども、ますます豪華な仏壇感を助長していたのではと、罰当たりなことを考えてしまう。
あだ名で呼ばれる自動車は、以前に比べて格段に減ってしまった感がある。これは社会全体の自動車離れが進んだ結果なのかもしれないが、どれも横並びで傑出した特徴がなく、良くも悪くも自動車が均質化してしまったことで、気の利いたあだ名が浮かばなくなっている、というのは考えすぎだろうか。秀逸なあだ名が付けられる自動車とは、ある意味で名車(迷車!?)の証と言えるのかもしれない。
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あとCITYターボⅡのブルドッグも。