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【EVの未来は暗くない】アウディEトロンS スポーツバック 試作車に試乗

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【EVの未来は暗くない】アウディEトロンS スポーツバック 試作車に試乗

トリプルモーターを搭載して間もなく登場

text:Richard Lane(リチャード・レーン)

【画像】EトロンSとライバルEV SUV 全111枚

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


かつて、ミニを発明したエンジニアのアレック・イシゴニス。彼を含めた技術チームが、848ccのエンジンを2来搭載した北極探査マシンとして、ミニ・モークを再発明したことがある。

1台のクルマに2基のエンジンを積むことは、そうそうあることではない。しかし電気モーターの場合、複数搭載に適したユニットなことは新しいEVを見ればよくわかる。

内燃エンジンと比べて、パッケージングも容易で、制御やメンテナスも難しくない。複数台を統合することで、圧倒的なパフォーマンスを引き出すこともできる。テスラ・モデルSやポルシェ・タイカンの上位モデルが、前後に1基づつモーターを搭載することはAUTOCARの読者もご存知だろう。

独立した駆動モーターは、トラクションを最大化しつつ、負担も分担。効率性を大きく悪化させることもなく、貴重な航続距離を脅かす心配もさほどない。

メーカーは急速に技術的知見を高めつつある。充分な技術力さえあれば、個々の車軸制御を行うことで、重量級の大容量バッテリーを搭載していても機敏な走行を叶えることも可能だ。

今回試乗したのは、アウディEトロンSのスポーツバック。プロトタイプながら、カモフラージュは軽め。他メーカーより優れた技術力を武器に、2つではなく、3モーターを搭載したクルマを今年の春にリリースする準備を進めている。

ハイレベルな水平方向のダイナミクス性能

ファストバック・スタイルを持つSUVは、インゴルシュタットから放たれるEVとしては初めて「S」のエンブレムを獲得する。走行性能とハンドリングには、自信があるということだろう。

MEBエボ・プラットフォームを共有する既存のEトロン55クワトロから、駆動系のパッケージングを強化。バイワイヤ制御のブレーキと、冷却系も性能を向上させた。エアサスペンションも、引き締まった姿勢制御のために手が加えられている。

既存のEトロンとの大きな違いは、電気モーターの追加。これまではリアタイヤを駆動するモーターは1基だったが、EトロンSには2基搭載される。

ポールスター1のように、左右のリアタイヤをそれぞれ1基が受け持つ。モーターにはシングルスピードのトランスミッションが備わる。

このシステムにより、極めて正確なトルクベクタリング機能を実現できる。アウディの言葉を借りれば、ハイレベルな水平方向のダイナミクス性能を得ている。

筆者の言葉で説明するなら、ダイナミック・ドライビングモードを切り替えれば、あり得ないようなドリフト走行を楽しめる。スタビリティ・コントロールがスポーツ・モードか完全なオフになっている場合。

最新のRS6に搭載されている機械式のスポーツデフと比較して、4分の1の時間でトルク分配の制御が可能だという。また電気モーターによるベクタリングシステムは、グリップ限界領域のみで作動するのではなく、機械式LSDのような制御を行える。

システム総合で502psと99.0kg-mを獲得

コーナリング中には、内側のタイヤより外側のタイヤへ22.3kg-mも大きいトルクを与えることができる。クラッチを内蔵するスポーツデフの場合、内側と外側の差は10%だから、大きな差だ。

つまり、ドライバーは外側のリアタイヤへ強いトルクが送られる満足感を、いつでも得られるということ。理論的には、だが。フロントタイヤ側は一般的な仕様で、ブレーキ制御によるトルクベクタリング機能と同等だという。

3基のモーターをセンターユニットが統率し、スポーツLSDとトルセンデフの機能を電気的に再現している。しかも素早く正確な制御が、常に可能なのだ。アレック・イシゴニスも驚くに違いない。

システム全体の最高出力は、Eトロンの408psから502psへと向上。フロント側のモーターは、Eトロン55のリアモーターと同じ強力なものを採用した。リアは203psの小型モーターがサブフレーム内に2基、背中合わせに搭載され、総合での出力は359psとなるという。

システム総合での最大トルクは、驚きの99.0kg-m。そのうちリアタイヤ側のモーターが生むのは62.9kg-mとなる。

今回、このプロトタイプの試乗を許されたのは、ドイツ・ミュンヘン近郊にあるアウディの開発施設だった。ここは、アウディR8 LMS GT2やLMP1など、レーシングマシンのための場所。

初めてのシェイクダウンに備えて、コースを外れてもアスファルトと芝生の広ランオフエリアが用意してある。筆者にとってもありがたい。

希望通りのパワー・オーバーステア

アウディEトロンS スポーツバック・プロトタイプの車重は、ドライバーを含めなくても2500kg以上。3基の電気モーターが生むトルクが甚大とはいえ、軽い相手ではない。

静止状態からの加速は確かに鋭いが、それ以降はゴルフR並みの加速力といって良いだろう。何よりも印象的なのが、軽くペースを速めて走らせているときに感じる、微妙なリアタイヤ寄りのトルク配分にある。

ステアリングホイールを切り始めた瞬間から、フロントタイヤは前進させるよりも、ブレーキ制御でのトルクベクタリングの方へ軸足が移る。同時にリアタイヤ側は、2基のモーターによるトルクベクタリングが効き始める。

攻め気味にコーナーへ侵入すると、思わず驚いてしまった。フロントノーズをラインへ乗せれば、アウト側のリアタイヤに強いトルクが掛かっているおかげで、望めば応えるようにパワー・オーバーステアに持ち込めるからだ。

さらに驚くのが、リアタイヤの挙動が充分に予見できるところ。EトロンS スポーツバックの技術が、アウディTTのようなコンパクトで軽量なクルマに搭載される日が、待ち遠しく感じてしまう。

ただし、滑らかながら淡白なステアリングフィールも、ブレーキペダルの感触も、特に自信を掻き立ててくれるわけではなかった。

アウデイが目指す素晴らしい操縦性

システムの特徴のもう1つが、リアタイヤが外へ流れ始める前に、プッシング・アンダーステアがほとんどないところ。これまでのエンジンを積んだクルマとは異なる体験でもあり、EトロンS スポーツバックは少し不自然にも感じてしまう。

それでも率直にいって、とても扱いやすく楽しい。あまり深いドリフトアングルを加えると、電子制御システムが介入し、テールスライドを止めてしまうけれど。

プロトタイプとはいえ、そのシャープな爪は隠すことができない。アウデイは巨体のSUVに、素晴らしい操縦性を与えることに成功しつつある。

いつの日かポルシェ・ボクスターのEV版が登場したのなら、想像もできないほどゾクゾクするクルマになるのではないだろうか。EVの未来は暗くなさそうだ。

EトロンS スポーツバックの英国価格は、8万ポンド(1144万円)を超える見込み。ちなみに、アウディEトロン55クワトロが5万9900ポンド(856万円)となっている。

アウディEトロンS スポーツバック・プロトタイプのスペック

価格:8万ポンド(1144万円・予想)
全長:-
全幅:-
全高:-
最高速度:210km/h(リミッター)
0-100km/h加速:4.5秒
航続距離:370km(予想)
CO2排出量:0g/km
乾燥重量:2500kg
パワートレイン:トリプル非同期モーター
バッテリー:-
最高出力:502ps(システム総合)
最大トルク:99.0kg-m(システム総合)
ギアボックス:シングルスピード

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