シフトレバーが激しい進化を遂げている。従来型のトランスミッションから電気信号を伝達して作動させる、「電制シフト」が急速に広まりつつある。
シフトパターンは、P(パーキング)が独立し、R-N-D-B、R-N-D/Sといった、P-R-N-DにBやSを加えたものが多くなってきた。
ATのBモードってバック? S、Mモードって何? なぜ最新車のシフトパターンはムズいのか
そもそもPとRとDしか使ったことがない! という人が多いのではないだろうか? ここで改めて最新車のCVT、ATのシフトパターンをおさらいし、おじさんにもわかりやすく解説していきたい。
文/岩尾信哉、写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、BMW、ベストカーweb編集部
■活用したいBポジションの機能
現行型トヨタ プリウスのシフトレバー。Bポジションがある。Bは「ブレーキ」のBだ。どのレンジに入っているかはメーター内の表示で確認できるが、どのレンジに入っていてもレバーの位置は見た目は同じ。常に元の位置(ニュートラルポジション)に勝手に戻るので区別がつきにくい。しかもエンジンが停止しても無音だから気づかない
プリウスはエンジンを掛けると、まずPレンジになり、Dレンジにダイレクトに入れる。ここからNレンジに入れるためには、レバーを右へ約1秒間、長倒ししないと入らない。日常的にはNレンジに入ってしまうことはない。ちなみにBレンジは、一段手前に引くだけでDからBに切り替わる
誰でもトランスミッションのシフトポジションに関して、P(パーキング)、R(リバース、後進)、D(ドライブ、前進)、N(ニュートラル、中立)のポジションが存在することは知っているはず。
このなかでNポジションでは、エンジン(やモーター)からトランスミッション(BEVにはほぼ存在しない)を介して動力の伝達を遮断することができる。
現行50系プリウスの場合、DレンジからNレンジに入れ、アクセルを踏むとメーター内に「Nレンジです。アクセルを緩めて希望レンジに切り替えてください」という表示が出てピーという警告音が鳴る
滅多にないケースではあっても、故障時のレッカー車による車両移動などではNポジションを選択するわけだ。高速道路を走行する際に選択して燃費向上にも利用できるが、不意のアクシデントに遭遇した場合などでは急減速などへの対応が遅れるなど、あまりお勧めできない。
現行型トヨタ プリウス
※過去にメーカーに質問状を送った誤発進についての記事はこちら
前述のBポジションに関しては、利用方法の目的はより日常的になる。BEVやハイブリッドでは、Bポジションでモーターの回生ブレーキを利用して、エンジンブレーキの機能を代替させている。
高速道路や山道で急勾配に遭遇した際には、マニュアルトランスミッション(MT)での低速ギアへのシフトダウンと同様に扱うことができる。
ほかにも、ATであれば、後述するL(ロー)やS(スポーツ)ポジション、最近ではCVTでも見られるようになったマニュアルシフトが可能なMポジションが設定されていれば、MTでの変速と同様にシフトダウンして低いギアを選択できる。逆に急加速時にも使用できる。
スバルクロストレックのCVTのシフトレバー。Dの横にM(マニュアルモード)がある
シフトポジションについてはトランスミッションの進化に伴って変わり続けてきた。現在では、P-R-N-DのポジションにBポジションもしくはMポジション、スポーツ性を高める意図を持たせたSポジションを、Dポジションに並列させたパターンが一般的といえる。
むろん、悪路での走行などを想定した1~2速の機能を設定したL(2L)ポジション(低速ギアを意味する)は少数派になりつつも、山間部や積雪の多い地方では有効であることに変わりはない。
また、新型スバルクロストレックにはDの横にMの表示がある。これは何だと思いますか? そう、マニュアルモードのMです。
スバル新型クロストレックのシフトレバーにある、BでもLでもないMって何? マニュアルモードのMだ
■変化するギアポジションの選択方法
ここまで変速機構を「シフトレバー」と呼んできたが、最近では「表現の仕方としてマズイのでは?」と思えるようになってきた。
英語の「シフト」は日本語では大まかには「変更」を意味する言葉だが、MTから続いてきた「匂い」がする。たとえばシフトノブという呼び方にMTの雰囲気を感じるのは筆者がオジサンゆえに違いない。だが、昨今では様子が変わり、シフトレバーが消滅の危機にあるのだ。
電制シフトは2003年登場の2代目トヨタ プリウスで採用(写真は3代目のもの)
日本では2003年の2代目トヨタプリウスの登場に始まる、機械的な接続を伴わない電子制御式シフト機構(電制シフト)の採用によって、シフトレバーは大きさや形状とともに設置位置など、設計上の自由度が格段に拡大した。
機能やデザインが安定していないと自動車メーカーによって装備の呼称が定まらないというのはありがちな話で、シフトレバーの呼び方も最近では乱立状態に陥っている。
おそらく現状では「シフトレバー」ではなく「ギアセレクター」や「セレクトレバー」などが正確な呼び名といえる。
最新仕様では、P-R-N-Dの各シフトポジションを選択するスイッチ機能を分割したうえで、タッチ式あるいはボタン式として設定されている。特にPポジションはボタン式として分離されたデザインが多くなった。
さらにボタン+レバー式などといったパターンもあるので話は簡単には収まらず、小型化されたレバーは「ノブ」と呼ぶほうが相応しいのでは? などと考え始めると始末が悪い。
■シフト機能の進化の先にあるのは?
トヨタ bZ4Xのダイヤル式シフト。右に回すとDレンジ、左はRレンジ、押すとPレンジに入る
トヨタ bZ4X
シフト機能の変化のトピックを振り返れば、ジャガー&ランドローバーが一時期進めていたダイヤル式は、演出として斬新ではあっても、ブラインド操作を可能とするには慣れを要したことは想像に難くない。トヨタbz4ZXとスバルソルテラが珍しくこのダイヤル式を採用している。
ドライバーの手が届きやすいセンターコンソールに配置されることが必須となってしまい、デザインの自由度が意外に小さいことも広まらなかった理由だろう。
「電制シフト」のデザインと操作性での有効性が明らかになったのは、いわゆる「インパネシフト」の採用拡大といえる。いまやミニバンはもちろんSUVやクロスオーバーでも標準仕様といえるほどまでになった。
開発当初のインパネシフトは前席足元の空間に余裕をもたせるアイデアから生み出されたもので、ドライバーの立場からすると視線の移動を考えれば、操作性に優れるとは言い切れない部分もある。現状ではインストルメントパネルのデザインをすっきり仕上げられることのほうが優先されているように思える。
■トヨタはパワートレーンに細かく対応
2022年7月に発表されたトヨタ クラウンクロスオーバー
ここからは、2022年に発表された主な新型車の「ギアセレクター」を、日本メーカーを中心に見ていくことにしよう。意外といってはなんだが、各メーカーがトランスミッションの仕様に関して丁寧に対応していることが見えてくる。
それが明確にわかるのが、ハイブリッドをフルラインナップしているトヨタだ。トヨタはアクアやプリウスといったハイブリッド専用モデルを除けば、パワートレーンの仕様に合わせてシフトレバーのデザインを、微妙な変化を含めて個別に設定している。
トヨタに関しては電子制御式シフトをハイブリッドを中心に推し進めているわけだが、最新モデルを追ってみると、7月15日にワールドプレミアとして発表された、話題沸騰の新型クラウン(クロスオーバー)には、シフトレバーが明確に存在している。
新型クラウンのシフトレバー
シフトレバーが生き残っている理由としては、続いて登場する予定のセダンなどのモデルと共通の仕様となることが予想されるからだ。一気にインテリアまでデザイン改革を実践することは、多少ははばかられたことが想像される。
トヨタに関しては電子制御式シフトをハイブリッドを中心に推し進めているトヨタ。新型クラウンではシフトレバーは生き残った。
2022年8月に発表されたトヨタ シエンタ
新型シエンタ(8月23日発表)のシフト機構はパワートレーンに対応して3種類設定されている。
具体的にグレードを見ると、トップグレードといえるハイブリッドZには、一般的な大きさのシフトレバーとボタンを組み合わせた、電制シフトの「エレクトロシフトマチック」、ハイブリッドのGとXにはストレート式シフトレバーを用意。
すべてのガソリン仕様にCVTの10速シーケンシャルシフトマチック付きストレート式シフトレバーと仕様を変えている。コストがらみといえなくもないが、それぞれを最新仕様としたのは、トヨタの底力の表れといえる。
新型シエンタのハイブリッド、上級グレードのZに採用されているエレクトロシフトマチック。このほか、ハイブリッドのG、Xグレードにはストレート式シフトレバー、ガソリン車の全グレードには10速シーケンシャルシフトマチック付ストレート式シフトレバーを採用
■ボタンスイッチ式を広く採用するホンダ
ステップワゴンe:HEVのシフトスイッチ
ステップワゴン(ガソリン車)のオーソドックスなシフトレバー
日本メーカーで最もセレクトターの設定で先進的といえるのは、ホンダに違いない。
コンパクトカーのフィットは一般的なストレート式レバー式を採用しているが、フリードではe:HEVモデルのみ電制シフトを採用するいっぽうで、他のガソリンエンジン+CVT仕様では見慣れたストレート式シフトレバーを設定している。
CVTが市場で多数を占めるために、コストに配慮した一般的な仕様としたとも考えられる。
2022年5月登場のホンダ ステップワゴン
対して、上位車種の新型車ではボタン式の採用を確実に進めている。まず新型ステップワゴン(5月26日発売)でのe-HEV仕様では「エレトリックギアセレクター」を採用。セレクターボタンのみ(Rポジションはプル式)の装備としている、ガソリンエンジン仕様にはストレート式シフトレバーが与えられている。
シビックのトランスミッションは6速MTとCVTに加え、2モーターハイブリッドシステム採用の「e:HEV」(6月30日発売)では、アコード(セダン・ハイブリッド)から受け継がれたレバーを廃したボタン(プッシュ)式を採用。シビックでは細部の仕様も煮詰められ、反力を高めて操作性を向上させている。
ホンダはレジェンドやアコードなどボタン式がメインだが、新型シビック(ガソリン車)ではレバー式となった。マニュアルトランスミッションの設定とも関連があるはず
2022年6月登場のホンダ シビックe:HEV
■「e-POWER」とともに仕様の共通化が進む日産
日産 ノートe-POWERのシフトレバー
シリーズハイブリッドの「e-POWER」採用のSUVである日産エクストレイル(7月20日発表、同25日発売)は、シフトノブに近いような小型レバー(のシフト後に物理的な中立位置に戻る)の電制シフト機構を採用、N(ニュートラル)であることは表示で確認することになる。
エクストレイルはノートと同様に全グレードでパワートレーンがe-POWERに統一されているため、コストも考えれば無駄のない設定といえる。
日産のe-POWER車の最新仕様ではシフトレバーのデザインはほぼ共通化されてきた。ちなみに、リーフから続いているレバー上部にPポジションの選択ボタンが据えられているデザインは、e-POWERモデルでは新旧問わず共通となっている。
■BMWも小型が進む「シフトノブ」今後はどうなっていく?
ついにというべきか、マイナーチェンジを受けたBMW3シリーズはシフトレバーを廃止。変速ポジションの選択機構の操作をスイッチ式とした。むろん、ドライバーズカーとして全グレードでパドルシフトを採用する
シフトレバーが廃止されスイッチ(ボタン)式に変更されたBMW 3シリーズ
最後に輸入車のシフトレバーの変化を、ドイツ勢の代表例として取り上げておこう。BMW3シリーズはマイナーチェンジを受けて(9月20日発売)、フロント部の変更を含めて細部にわたってリニューアルを施している。
BMWの基幹モデルとしては大胆とも思えるが、上級モデルから順次シフトレバーの「最小化」を進める流れを受けて、マイナーチェンジを受けた3シリーズでは、インテリアでもセンターコンソールにおいてシフトレバーを廃止して、スイッチ類のみの構成となった。
方やの急先鋒といえるテスラのシフトレバーはどうなのか見ていくと、最新のモデルSでは、ボタン式かと思いきや、ステアリング右側にあるシフトレバーという、時代に逆行したシフトレバーを採用しているのがおもしろい。
今後は、トヨタ車のように極めて小さいシフトレバー、日産車のEVやe-POWERに採用されているようなマウス式、ステップワゴンのようなスイッチ式など、いまやフロアにデカいシフトレバーを前後に移動させる昔ながらのシフトレバーは絶滅していくのではないか。
いずれにしても高齢者が、いまどこのポジションにあるのかわかりやすい表示、そして急発進しない、間違えない方式のシフトレバーにするよう、徹底してもらいたいものだ。
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みんなのコメント
複雑怪奇なシフトパターンで誰得だった?
もはやギミックでしかないんだから
直感的にわかるI 字シフトで何の問題もなかっただろ