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【F1メカ解説】度々浮上する”フレキシブルウイング”問題。FIAとF1チームの終わりなき戦い

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【F1メカ解説】度々浮上する”フレキシブルウイング”問題。FIAとF1チームの終わりなき戦い

 レッドブルが”可変”リヤウイングを使っているとメルセデスが指摘したことで、物議を醸している。この可変空力パーツは、長年にわたって議論の的になってきたものであり、FIAは取り締まりを続けてきた。

 しかしそんな中でも、各チームはレギュレーションの網をくぐり抜け、”動きやすい”パーツを使おうとしてきた。これによって、少しでもパフォーマンスを向上させようとしているのだ。

■可変リヤウイング問題に進展。FIAが各F1チームにより厳格な検査を実施、“たわみ”を制限へ

 そのチームと戦うのはFIA。チームがレギュレーションの抜け穴を過度に悪用しないよう、常に取り締まりの方法を探っている。今回の問題を受けてFIAは、フランスGPから検査を強化することを早速決定することになった。

 現状でも、ウイングの剛性を確認するためのかなり厳しいプルバック(後ろに引く)および垂直荷重検査を実施している。しかし数々の証拠から判断すれば、その検査に合格しながらも、可変する空力パーツがいくつか存在しているのが確認できる。

 FIAがチームに送った通達の中で、複数のデザインが静的検査に合格したものの、「マシンが動いている間には、過度の”たわみ”を示す」という懸念があることが述べられている。さらに「このような変形は、マシンの空力性能に大きな影響を与える可能性があると考えている」とも語られている。

 ただFIAとしても、これを完全に取り締まるのは実に難しいことである。物理的に考えれば、どんなパーツでもある程度は曲がるようになっている必要がある。そうしなければ、荷重がかかると粉々に壊れてしまうのだ。

 しかしチームにとってそのような”弾力性”は、空力性能を向上させる可能性がある。そのため、この20年ほど絶え間ない”戦い”が続いてきたのだ。

■フレキシブルウイングの歴史

 1999年頃、負荷がかかるとリヤウイングが後方に傾く事例がいくつか報告された。これは低速域ではダウンフォースを発生するが、速度が上がるに連れて後方に倒れることで、空気抵抗を減らしてスピードを上げるという効果を狙ったものだった。

 FIAはこれに対応するため、ウイングの後傾を検出できるよう、車検に新たな負荷検査を組み込むことになった。

 2005~2006年頃には直線スピードが再び上昇し始めた。チームは再び、空力パーツの”弾力性”を利用して、パフォーマンスを上げ始めていることが明らかになったのだ。

 この時のウイングは前回のように後方に倒れるモノではなく、メインプレーンとフラップの間の隙間を閉じるようなモノだった。

 こうなることによって、気流がウイングの周りを通常通りに通過することができず、”ストール”させる効果があった。これによりダウンフォースと空気抵抗の発生が減り、最高速が伸びる。マシンが減速するとその隙間が開き、ダウンフォースが回復することになった。

 F1のテクニカル・ワーキンググループは、これに対処するための策を2007年に導入しようとしていた。しかし2006年シーズン中に手に負えなくなるかもしれないという危惧があったため、FIAはカナダGPから、隙間を維持するセパレータを導入することを決めた。これにより負荷がかかっても、メインプレーンとフラップの間の隙間が閉じないようにしたのだ。

 フレキシブル空力パーツがその次に話題になった時、中心にいたのはレッドブルだった。

 レッドブルは、FIAの負荷検査に合格しながらも、フロントウイングの弾力性を最大限に活用する方法を理解しているように見えた。

 彼らはフロントウイングに負荷がかかった時、その外側の部分が地面に近づくようにたわみつつ、負荷検査をクリアできる方法を検討し始めた。

 これにより発生するダウンフォース量を増やし、さらに気流がタイヤの前を横切って左右に押し出す効果を生み、後方へ向かう気流を整えることになった。

 タイヤ後方の気流が左右に向かうことで、フロア下の気流が邪魔されることなく、しっかりとダウンフォースを生み出すことができるようになった。

 FIAは、ライバルとの差を縮めようとするチームの進歩を抑えるために、その後数年間にわたってルールを変更していった。

 ひとつの方策で、全てのフレキシブルウイングを禁止することはできない。しかし2014年にウイングの幅が変更され、検査でウイングにかけられる荷重が増え、フレキシブルウイングに対する取り締まりが強化された。

 フロントウイングの構成は、2017年にもさらに変更された。それまでは車体中心線に対してフロントウイングのメインプレーンの前端は垂直に交わっていたが、この年からは若干後傾する形になった。上から見ると、その姿は矢印のような格好である。

 これによってウイングとノーズ先端の位置関係が代わり、フロントウイング前端からフロアまでの距離も変わった。これらは、マシン全体を流れる気流にとってとても重要なエリアである。

 とどまることを知らないレッドブルは、この変更に対する抜け道を見つけたようだ。彼らはフロントウイング翼端板のフットプレートが他の部分とは異なる形で動いていたように見えた。その結果、生み出される気流の渦の影響も変わることになった。

 結局、2019年にレギュレーションが変更され、フロントウイングの構成が簡素化された。これにより、フレキシブルウイングに関する各チームの追求は、行き詰まったように見えた。

 その後も時折フレキシブルウイングに関する議論が持ち上がったが、今季メルセデスとレッドブルの争いが激化したことにより、再び火がついたように見える。

 レッドブルのオンボードカメラ映像を見ると、ストレートを走っている時にはリヤウイングが下に向けて曲がり、ブレーキング時には元の位置に戻っているように見える。

 ハミルトンが「レッドブルは動くウイングを使っている」と発言したことから、この問題にスポットライトが当たった。しかしその直後に検査基準を改定してきたことを考えると、FIAは以前からこの問題を注視していたはずだ。

 しかし今のところ不明なのは、フランスGPから検査が厳格化されることで、問題に完全に終止符が打たれることになるのか、あるいは決して終わりのない戦いが続いていくのか……ということだ。

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みんなのコメント

2件
  • 技術としていいじゃないか?と思うのは誤り?
  • 究極としては流体回路のように、
    物理的に構造が可動しなくても空気の流れが変わるような構造が導入されるのではないでしょうか。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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