メルセデスは、今季用マシンの開発を早期に終了させ、新レギュレーションが導入される来季用マシンの開発にリソースの振り分けをシフトした。当初はこの決定について、激しいチャンピオン争いが繰り広げられているレッドブルとの戦いにおいて、劣勢に立たされることになるのではないかという見方もあった。しかし実際には、今もレッドブルと僅差の戦いを続けており、コンストラクターズランキングでは首位に立っている。
これについてメルセデスのトラックサイド・エンジニアリングディレクターであるアンドリュー・ショブリンは、レッドブルに対して劣勢に立つかもしれないという懸念を払拭できたと考えているようだ。
■メルセデス、“タイヤ無交換作戦”ではハミルトンは「ポイント獲得ギリギリまで」順位を下げていた可能性大
2022年からは、F1のテクニカルレギュレーションが大変更されることになっており、ダウンフォース発生に関するコンセプトを一新したニューマシンを登場させなければならない。そのため多くのチームが、今季用マシンの開発を早期に終了させ、開発リソースを2022年用マシンにシフト。とはいえ今季マシンの開発を完全にストップするわけではなく、両者のバランスをうまく取ることを目指している。
メルセデスもそのうちの1チームであり、やはり早々に今季用マシンW12の開発を終了させた。しかし、タイトル争いの最大のライバルであるレッドブルは、今季用マシンRB16Bの開発を継続しており、メルセデスが劣勢に立たされる可能性も危惧された。
レッドブルは、夏休みに入る前の段階では強さを見せ、メルセデスに対してリードを築いていた。しかし夏休み明けのベルギーGP以降はメルセデスが復調。ルイス・ハミルトンは、ロシアGPでイギリスGP以来となる優勝を手にし、チームメイトのバルテリ・ボッタスも、トルコGPで今季初の勝利を手にした。この結果、レッドブル勢の取りこぼしもあり、トルコGPを終えた段階では、メルセデスがコンストラクターズランキング首位に立っており、レッドブルに36ポイントの差をつけている。
ただメルセデスにとって重要なのは、結果よりも競争力を維持できているということにある。前述したリザルトにつながらずとも、メルセデスはコースによっては今もレッドブルを圧倒する強さを見せているのだ。
メルセデスのトラックサイド・エンジニアリングディレクターのショブリンは、当初抱えていた懸念が、払拭できていると語る。
「我々はドライコンディションでは良い形で走り、ウエットでも良いペースを見せている。チャンピオンシップに勝つことができるマシンのように見えるよ」
ショブリンはそう語った。
「今年の序盤に決断を下した時に戻って考えてみれば……その時は2年間のバランスを考えて開発に取り掛かったが、今年の終盤にポールポジションを獲得し、グリッド最前列を独占し、レースをコントロールすることができるか……ということが懸念のひとつだった」
「予選でレッドブルを打ち負かし、日曜日にも彼らを凌駕することができるパッケージがあることを示しながら、最後の6レースに突入したことは本当に心強い」
しかしチーフ・テクニカル・オフィサーのジェームズ・アリソンは、トルコGPを見返すと、レッドブルに対してどこでも強さを発揮することができているわけではないと考えている。曰く、トルコでは週末を通じてタイヤのスイートスポットを見つけることができたため、強さを発揮できた可能性があるというのだ。
「今週末にエンジニアの一人が、タイヤがある種”ちょうどいい”状態にあったと話した。特に厄介な路面でも、熱くなりすぎず、冷えすぎることもないとね」
そうアリソンは語る。
「我々は、自分たちが非常に強いことを理解していた。しかしこの強さと、平均的なモノとの差はかなり小さいモノであるということも、我々は知っていたんだ。場合によってはほんの数度の違いだけで、熱すぎたり、冷たすぎたりする方向にはみ出してしまっていた可能性がある」
「良いパフォーマンスを発揮したし、マシンはバランスが取れていた。各チームに”流行”していた、アンダーステアにも苦しんでいないようだった。しかし自然にそれを感じ取って、レースに挑むことができるとは思わない」
アリソン曰く、シーズン後半戦でメルセデスが苦しんだのはオランダGPだけであることが、今後に向けた良い兆候であると考えている。
「シルバーストンでマシンに搭載したアップグレードパッケージは、我々の今シーズンをより快適なモノにしてくれた」
そうアリソンは語った。
「それ以降のレースでは、我々が完全に苦労したのはザントフールトだけだったと思う。他のレースでは間違いなく最速のマシンだった。イスタンブールやソチのようにね。モンツァでも良かった」
「平均して、それはハッキリしていたと思う。しかし我々のマシンが最速だったほとんどの場所では、それはある種”保証された”モノというよりも、一種の表裏一体の状態だった。それが意味することは、少なくとも我々は戦いに参加できているということだ」
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