実際に日常使いできる初めてのフェラーリ
1972年に発表され、北米で人気を集めたフェラーリ365 GT4 2+2。1985年のジュネーブ・モーターショーで、2度目のマイナーチェンジ版となる412が発表される。
【画像】V12でFRの2+2 フェラーリ365 GT4 2+2 400 GTi 412 現行FRモデル ローマ他 全109枚
改良は広範囲に及び、シリンダーの内径、ボアが1mm広げられ、V型12気筒の排気量は4943ccに。圧縮比は9.6:1で、インジェクションや排気系にも手が加えられ、最高出力344ps、最大トルク45.8kg-mを発揮した。
ボディでは、トランクリッドの位置が高くなった。空力特性が理由とされたが、2基目のエアコン・ユニットが標準装備となり、荷室容量の確保にもつながった。ABSが装備され、フロント・サスペンションは再設計を受け、安定性も高めている。
バンパーはボディと同色に塗られ、テスタロッサ風のアルミホイールを履き、新しさをアピール。フロント・ウインカーはクリアレンズへ改められた。
1976年から1985年までに生産された400 GTと400 GTiでは、1796台のうち1210台がATで、市場の安楽志向を示した。一方、412では270台と306台でほぼ二分。時代の変化を匂わせていた。
今回ご登場願った3台、365 GT4 2+2と400 GTi、412はいずれもマニュアル。特に400 GTiと412では、ATより大切に乗られてきた傾向が強い。残存率も大きく異る。
筆者は、この3世代のFRシリーズを、実際にオーナーが日常使いできる初めてのフェラーリだと考えてきた。キャブレター仕様の400 GTと、オートマティックの乗り味を確かめられないことが少々惜しい。
実際の走りに明確な違いはない
365 GT4 2+2は、センターロック式ホイールと、ディーノ風のトグルスイッチが特徴。現オーナーのサイモン・グリーンウッド氏は、これらが初期のFRのフェラーリとの繋がりを想起させると話す。
ダークブルーのボディにはチンスポイラーが備わらず、クリーンなインテリアは機能性重視に見える。この3台では最も美しいと思う。ボンネットを開くと、6基並んだキャブレターが壮観だ。
とはいえスタイリングは似ていて、ドライビングポジションもほぼ同じ。実際の走りにも明確な違いはないといっていい。オリジナルのコンセプトが、完成していた証拠だろう。
今の水準でいえば着座位置がかなり低く、ボディは想像ほど大きくない。フロントマスクは控えめで、フロントガラスは強く寝かされ、力強いテールへシャープにラインが伸びる。ルーフラインもタイトだ。
ブラックの412を10年以上所有するのは、ピーター・ヴォーン氏。これまで3万km近くを運転している。ボディと同色で塗られたバンパーが、スタイリングに調和している。4本出しのマフラーを、モダンに隠す役割も果たす。
「フェラーリのクラブイベントには、毎回このクルマで参加しています」。誇らしげに彼が笑う。
その間の年式となるロッソ・チェリーの400 GTiは、フェラーリのレストアを得意とするマイク・ウィーラー氏が仕上げた1台。1983年以降のシーズン2で、低い位置のドライビングライト、リアバンパーのフォグライトなどが見分ける違いだろう。
12本のシリンダーの滑らかで躍動的な演奏
アルファ・ロメオ・スパイダーと同じドアハンドルを握り、365 GT4 2+2の長いドアを開く。レザーとガラスで覆われた空間が広がる。大きく傾斜した巨大なセンターコンソールが、エンジンを可能な限り後方へ配置した、技術者の苦労を物語る。
ペダルが近く、ステアリングホイールが遠いレイアウトは共通。しかし365 GT4 2+2のダッシュボードはアルカンターラで仕立てられ、補機メーターが高い位置に4枚並んでいる。3台とも、小物入れなどは比較的充実している。アームレストもある。
スターターの甲高い唸りを合図に、12本のシリンダーによる躍動的な演奏が始まる。アイドリングは900rpm。400 GTiと412はセンサーとインジェクションの制御で、冷間時でも荒々しさはない。365 GT4 2+2は、整うまでに時間を要する。
グランドツアラーのフェラーリで穏やかに公道を流すことは、充足感に満ちている。アクセルペダルのストロークは長く、反応は正確。クラッチペダルとステアリングホイール、シフトレバーの重み付けと感触は、適度で調和が取れている。
シフトゲートには、レザー製のカバーが掛かる。レバーのストロークは長く、メカニカルな手応えが心地いい。最短時間での変速はできなくても、理想的な比率のレシオを積極的に選べる。7000rpmまでのシルキーな能力を、存分に発揮させられる。
回転数の変化とともに艷やかにパワーが上昇
サウンドで最も聴き応えがあるのは、キャブレターの365 GT4 2+2。軽快に回るカムのノイズと、盛大に吸い込まれる吸気音を伴い、満ち足りた加速を引き出せる。
1速で引っ張れば80km/h。シフトアップし2速では130km/hに迫る。3速では160km/hを超える。回転数の変化とともに、艷やかにパワーが高まる。気持ちを抑えることが難しい。いずれも直線では極めて安定している。
長く続く高速カーブでも、過度なボディロールなしにスピードを保てる。レスポンシブなステアリングが、パワーアシストされる感覚を薄め、低速域でのダルさを忘れさせる。ターンインを緻密にこなせる。
ロードノイズは想像より小さく、ブレーキは強力。ダンパーの減衰力に不足はなく、乗り心地も安定している。市街地の速度域ではやや硬めながら、軽快で走りにくさは感じない。ボディは幅が広く、車線の幅次第では気を使うが。
聴覚的にはキャブレターの365 GT4 2+2が速く感じるとしても、インジェクションの400 GTiと412は同等以上に加速する。とりわけ洗練された412は粘り強く、能力は上といえる。
4速へ入れたまま、35km/h程度から190km/h以上までまかなえる。内燃エンジンの物理学を超えたようにも思える、長く精彩なダッシュを披露してくれた。
V12クラシック・フェラーリの現実的な選択肢
365 GT4 2+2から412への3世代は、家族で乗れるフェラーリとして、17年も生産が続いた。マセラティやランボルギーニの競合モデルが勢いを失うなか、1970年代が終わるまでは独占的に、年間500台と考えられた小さな市場を牽引した。
フロントにV型12気筒を搭載した後輪駆動のフェラーリは、1992年の456まで一時的に間が開く。しかし、365 GT4 2+2のようなヘビー級のグランドツアラーは、これが最後になった。
近年はクラシック・フェラーリとして価値が見直されつつあるが、同時期の2シーターモデルとの差は大きい。崇高なエンジンの技術を共有していても、365 GT4 2+2や400 GTi、412が同じ水準で取引されることはない。
結果的に、維持費やレストア費が相対的に膨らんでしまう。そのおかげで、価値が上昇しにくいという循環にある。
だとしても、一生に一度はV型12気筒のフェラーリを所有したいと考えるクラシックカー・ファンにとって、この3台は価値ある選択肢だと筆者は思う。現実的な予算で、現実的に一般道を運転できる。長年の夢を、夢のまま終わらせる必要はない。
協力:ラドリー・モーターズ社、英国フェラーリ・オーナーズクラブ
撮影:ジェイソン・フォン
365 GT4 2+2 400 GTi 412 3台のスペック
フェラーリ365 GT4 2+2(1972~1976年/英国仕様)
英国価格:1万4266ポンド(新車時)/9万ポンド(約1449万円)以下(現在)
販売台数:524台
全長:4801mm
全幅:1803mm
全高:1321mm
最高速度:244km/h
0-97km/h加速:6.6秒
燃費:3.9km/L
CO2排出量:−
車両重量:1500kg
パワートレイン:V型12気筒4390cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:329ps/6200rpm
最大トルク:40.4kg-m/4600rpm
ギアボックス:5速マニュアル
フェラーリ400 GTi(1976~1985年/英国仕様)
英国価格:2万3999ポンド(新車時)/7万ポンド(約1127万円)以下(現在)
販売台数:1796台(400を含む)
最高速度:246km/h
0-97km/h加速:6.7秒
燃費:4.2km/L
CO2排出量:−
車両重量:1887kg
パワートレイン:V型12気筒4823cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:314ps/6400rpm
最大トルク:41.9kg-m/4200rpm
ギアボックス:5速マニュアル
※ボディサイズは365 GT4 2+2と同値
フェラーリ412(1985~1989年/英国仕様)
英国価格:5万5599 ポンド(新車時)/8万ポンド(約1288万円)以下(現在)
販売台数:576台
最高速度:257km/h
0-97km/h加速:6.7秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:1500-1805kg
パワートレイン:V型12気筒4943cc自然吸気DOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:344ps/6000rpm
最大トルク:45..8kg-m/4200rpm
ギアボックス:5速マニュアル
※ボディサイズは365 GT4 2+2と同値
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