ル・マンを勝てなかったベントレー・ブロワー
text:Andrew Frankel(アンドリュー・フランケル)
【画像】復刻版ベントレー・ブロワー 最新バカラル 復刻版はほかにも 全90枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
古い記憶をたどっても、われわれを夢中にしてきたレーシングカーのほとんどはフォーミュラ・マシンではなく、より身近なスポーツカーだったと思う。特にル・マン24時間レースを戦ったモデルたちは、その筆頭だろう。
ジャガーDタイプにフェラーリ・テスタロッサ(330LM)、フォードGT40、ポルシェ917。少し考えただけで、見事な成功を収めたクルマが何台も思い浮かぶ。
一方でル・マンを完走しなくても、崇拝的な支持を集めるモデルがある。モータースポーツの記念碑的な存在として。今回試乗したのは、そんなクルマのコンティニュエーション、復刻版だ。
スーパーチャージャーで過給するベントレー 4 1/2リッター・スーパースポーツ、通称ブロワーは、ル・マンで勝てなかった。創設者のW.O.ベントレーが嫌ったモデルであり、1931年の倒産に関与したモデルとして、冷たい視線を集めた過去もある。
しかしビンテージ・ベントレーを考える時、英国人の頭に浮かぶのはベントレー・ブロワーだと思う。軽快な3リッターでも、スーパーチャージャーなしの4 1/2リッターでも、スピード・シックスでもない。
そのいずれもが、ル・マン24時間レースで勝利を収めている。1924年から1930年までの間に、述べ7度の参戦で5回の優勝を掴んでいる。でも、ベントレー・ブロワーとわれわれが記憶するこのクルマは、格が違う。
ヘンリー・バーキンがドライブした2号車
その理由は、レーシングドライバーのヘンリー・バーキンの存在が大きい。スーパーチャージャーは、彼の選んだ高出力への近道だった。そして、W.O.ベントレーの意に反して推し進めた人物でもあった。
バーキンはベントレー側を説得し、レギュレーションに必要な50台のロードカーと4台のレーシングマシンを完成させた。資産家のドロシー・パジェットが、必要な資金を提供しながら。
ベントレー・ブロワーで、バーキンはミュルザンヌのストレートを駆け抜けた。英国ブルックランズのバンクコーナーでは、ハリケーンのような勢いで疾走した。それが、英国人が思い浮かべるビンテージ・ベントレーの姿だろう。
4台のレーシング・ブロワーの中で、バーキンがドライブしたのは2号車。1930年のル・マンでは、ミュルザンヌのストレートでメルセデス・ベンツSSKを追い越したマシンだ。200km/h近い速度で、ボロボロのタイヤで戦った。
そのクルマは、価値の重要性を示すように現在でも生き残っている。ビンテージ・ベントレーのレーシングマシンとして、貴重なオリジナルといえる。現在はベントレーが所有し、2500万ポンド(37億5000万円)の価値があるという。
もちろん、今回ミルブルックで試乗したのは、そのオリジナルではない。2019年の末、ベントレーは12台のブロワーを再び製造すると発表した。それぞれのブロワーは、2号車に可能な限り近づけるということだった。
当時と同じ素材と製造方法で復刻
ベントレー・ブロワー・コンティニュエーションは、当時と同じ素材を用い、同じ道具や製造方法で組み立てられる。レプリカではない。2000点近い部品が、もとの図面やオリジナルのマシンから得たデジタルデータをもとに手作業で再製作されている。
述べ4万時間の作業工数を経て、最初の1台が走れる状態にまで仕立てられた。ベントレーはカー・ゼロと呼ぶが、復刻される12台とは別の、13番目のクルマともいえる。
開発試験のために作られたプロトタイプで、オリジナルのマシンと一緒にベントレーで保管されることになる。カー・ゼロのボディカラーはグロスブラック。インテリアとボディの色は、オーナーが選択できる唯一の部分だという。
クルマの前後には、少し大きめのLEDライトが付いている。エレガントとはいえないが、テスト走行に必要な機能だからだ。それ以外は、バーキンがドライブした2号車のブロワーと同じといっていい。
完成させたのは、ベントレーで特装を手掛けるマリナー部門と、ハンドメイドでスチールシャシーを手掛けたイスラエル・ニュートン&サンズ社など、外部の協力会社。
このイスラエル・ニュートン&サンズ社は、これまで200年に渡って蒸気機関車用のボイラーを製造してきた企業だという。シャシー製造に欠かせない、伝統的な鋳造や成形技術の優れた知見を有している。
この続きは後編にて。
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