先日、レッドブルでチーフテクニカルオフィサー(CTO)を務めるエイドリアン・ニューウェイが、契約を早期に終了させ、チームを離れる予定であることが報じられた。
現在のグラウンドエフェクト時代に圧倒的な強さを誇っているレッドブルだが、“空力の鬼才”と呼ばれる優勝請負人ニューウェイが離れた後も、王座を守れるのだろうか? そうした疑問が向けられる中、チーム代表のクリスチャン・ホーナーは現状の技術部門を維持することに務めているようだ。
■ニューウェイがレッドブルを離れても、ライバルの獲得は2027年までお預け? 契約に不履行条項が存在か
ニューウェイのレッドブル離脱は、現時点ではまだ正式に発表されたものではない。しかしニューウェイは、ホーナー代表のスキャンダルをキッカケとしたチーム内の覇権争いに幻滅し、レッドブルを去る意向をチーム関係者数名に伝えたと言われている。
既に今年の3月の時点で、ニューウェイがレッドブル離脱に動いているのではないかと言われはじめ、アストンマーティンが巨額のオファーを打診したことがmotorsport.comの調べで分かっている。
2024年シーズンもマックス・フェルスタッペンが開幕から勝利を重ねる中、表彰台を見つめるニューウェイの笑顔の裏には、レッドブルが思い描く理想とは異なる思惑があったのだろう。
F1界で最も成功を収めたレーシングカーデザイナーが現在のチームを離れることとなれば、新たな疑問も浮上してくる。
20年前に設立されたレッドブル・レーシングを支え、これまで13の世界タイトル(ドライバーとコンストラクター合わせて)獲得に貢献してきた大黒柱がいなくなり、チームがどのように変化するのか? “レッドブル ver 2.0”がどのような姿になるのか? そう考えるのは当然のことだ。
ニューウェイのような駒を失うとなれば、その影響は避けられない。ニューウェイのいないレッドブルは、ある意味これまでとは別のチームと言うこともできよう。これまでのマシン開発で常に道を指し示してきた北極星を失うこととなるわけだから……。
ただニューウェイの離脱が直ぐさまレッドブルを戦闘不能に陥れるかと言われれば、必ずしもそうではない。ニューウェイはレッドブルと2025年末まで契約を結んでいる上、不履行条項が行使された場合は契約満了からプラス12ヵ月、つまり2027年まではライバルチームへの移籍ができないことになっているようだ。そしてF1では、関係を終了したいと思った時にこそ、契約書が効力を発揮するのだ。
ニューウェイはレーシングカーデザイナーとしてまだまだ衰えを知らないが、若者でもない。66歳が目の前に迫っている。そしてレッドブルに所属した19年の間には、レースチームから一線を引いた時期もあった。
F1に現在パワーユニット(PU)が2014年に登場した当初、ルノー製PUを使用するレッドブルはメルセデスやフェラーリに太刀打ちできない時期が続いた。車体側ではどうしようもない領域であったことから、2014年から2018年にかけてニューウェイは、CTO以外の業務も経験していた。
こうした背景から、ホーナー代表をはじめチーム首脳陣としても、もしニューウェイがいなくなったら? というシナリオは既に検討済みのはず。そのシナリオはこれまで常に“プランB”だったが、今日、それが実行される準備が整ったのだろう。
ここしばらくの間、F1パドックではホーナー代表によってテクニカルディレクターへと昇格したピエール・ワシェに権限が徐々に移っていくのを見て、ニューウェイがあまり良く思っていないという噂があった。
実際、カリスマが離脱した後に挫折を味わうことがないよう、組織としては必要な措置だ。それとは反対に、ここ数シーズンのレッドブルの圧勝劇が、単にニューウェイの力だと杓子定規に報じられるメディアの認識に対して、不満の声が挙がっていることも理解されている。
メディアでは天才による“ワンマンショー”と強調されているが、レッドブルでは全員がそれに満足している訳ではない。ホーナー代表も何度か、慎重に言葉を吟味しながら、チームとしての仕事ぶりを称えてきた。
レッドブルは“ポスト・ニューウェイ”時代に備えているが、チームの歴史を築いた重要人物の離脱には、さらなる離反者を誘発するリスクが潜んでいる。そうなればレッドブルにとっては大きな損失になるとホーナー代表も理解している。
レッドブルの技術部門の未来は、テクニカルディレクターのワシェと空力責任者のエンリコ・バルボが握っており、チームはワシェに関して契約という名の“武装”で固めていると説明している。
このふたりのいずれかがライバルからの誘惑に負けて移籍ということになれば、その空席はレッドブルに多大なる影響をもたらすはずだ。2026年から導入される新しいテクニカルレギュレーション下でのマシン開発が本格化する今後を考えると、その影響は計り知れない。
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いよいよ終わりの始まりかな