ディーノ対決!246GT vs 246GTS
今も昔も、クラシックカーマーケットにおける一般論としては、同系のモデルでもクローズド版よりもオープン版の方に高い評価が集まる事例が多い。ただしディーノ246GT/GTSに端を発する「ピッコロ・フェラーリ」については、ベルリネッタがデザイン上のオリジナルであることや、脱着式のルーフが美しいルーフラインを中断するという見方もあるせいか、ベルリネッタと「スパイダー」では相場価格に差異が生じない。あるいは、とくに308GTB以降のV8モデルについていうなら、クローズド版の方が高価で取り引きされるのが通例となってきた。ところがここ数年のディーノ246については、GTSの評価が急速に高まっているかに見える。2023年9月、RMサザビーズ欧州本社が開催した「St. Moritz」オークションでは、ともに「フェラーリ・クラシケ」の認定を受けた246GTと246GTSが同時出品されたことから、今回はその二台を比較しながら現況を解説させていただきたい。
元キース・リチャーズの「ディーノ246GT」が約6300万円で落札!「誰」がオーナーだったかも大切な要素です
フェラーリ初の市販ミッドシップには、ベルリネッタとスパイダーが存在した
自動車史に輝く名車ディーノGTは、フェラーリが初めて市販したミッドシップのストラダーレ(ロードカー)。まずはレース用エンジンのホモロゲートのため、あるいはミッドシップ市販車の実験的要素も込められた「206GT」からスタートした。
1969年にはエンジンを2.4リッターに拡大するとともに、ボディの一部およびエンジンブロックをスティール化。さらにホイールベースと全長を60mm延長することで実用性や生産性を向上させたディーノGTの本命「246GT」へと進化させることになる。
こうして誕生したディーノ246GTだが、その生産期間中にはスカリエッティ工場での生産性向上を図るため、いくつものアップデートを受けている。
最初期モデルの「セリエ(シリーズ)L」では206GTから踏襲されていたセンターロック・ハブ+スピンナーのホイールは、1971年初頭から生産された「セリエM」以降には5穴のボルトオンタイプへと変更。さらに同年末から生産開始された最終版「セリエE」のシリーズ中途には、前後のバンパー形状も206GT以来のラジエターグリルにくわえ込むスタイルから、グリル両脇に取り付けられるシンプルな意匠に変更されるなど、そのマイナーチェンジの内容は多岐にわたるものだった。
そして、特に北米マーケットからのリクエストに応えて、セリエEのデビュー1年後にあたる1972年のジュネーヴ・ショーでは、デタッチャブル式トップを装着したスパイダー版「246GTS」が追加デビューを果たすことになる。
GTSの誕生以前には、ミラノの「パヴェージ」やアメリカの複数のカスタム業者がベルリネッタを改造して製作していた例はあったが、フェラーリが自らディーノGTのスパイダー版を製作するのは、この時が初めてだった。
246GTSは、マットブラックないしはボディ同色のデタッチャブルトップを持つことに加え、リアサイドウインドウを廃される代わりに三条のグリルが設けられていた。
また、エンジン/トランクリッドを開くノブがセキュリティ対策として室内に設けられることや、ディフレクターの縁がクロームメッキからマットブラック仕上げになるなど、ディテールにも変更点が存在する。
アメリカはもちろん、ヨーロッパの顧客にとってもスパイダーモデルの登場は待ち望まれていたようで、結果として246GTSは1274台が生産。セリエEの生産台数の大多数を占めるヒット作となったのだ。
どちらもクラシケのお墨つき、だけど……
世界各国のオークションで、ディーノGT(206/246)は必須アイテムともいうべき人気商品。今年9月、RMサザビーズ欧州本社がスイスのサン・モリッツにある5つ星ホテル「ケンピンスキー・グランドホテル・デ・バン」で開催した「St. Moritz」オークションでも、1971年型ディーノ246GTと73年型のディーノ246GTSがそろい踏みを見せた。
#01584のシャシーNo.を与えられた246GTは、507台が製造されたセリエMの1台で、1971年2月4日に完成した。ベージュのインテリアに「アマラント・フェラーリ」と命名されたダークレッドで仕上げられ、フィレンツェ在住の初代オーナーに引き渡されたが、そののち早い時期にスイスへと輸出。スイスでは、さらに2人のオーナーの手に渡った。
2013年、246GT-01584はジュネーブ郊外にあるフェラーリの公式ワークショップ「モデナカーズSA」に20万スイスフランを投じ、大規模なレストアとリビルドが行われた。
レストアは2015年初めに完了し、現在はベージュの内装にグリージオ(グレー)メタリックで仕上げられたこの246GTは、翌2016年2月に「フェラーリ・クラシケ」の認定を受け、マッチングナンバーのシャシーとギアボックスを保持していることを証明する、フェラリスタ垂涎の「レッドブック」が授与されることになった。
いっぽうの246GTS、シャシーNo.#07326は、1973年10月17日にスカリエッティ工場からラインオフ。新車時は、本国へのデリバリーのため左ハンドルのヨーロッパ仕様に設定されるとともに、「ブル(Blu)ディーノ・メタリック」にベージュのレザレット(模造レザー)インテリアの組み合わせで仕立てられ、純正オプションのクロモドラ社製ホイールが最初から装着されていた。
初代オーナーとなったのは、マラネッロの隣町サッスオーロ在住の人物。1974年にはドイツに輸出され、1987年まで複数のオーナーのもとを渡り歩きながらもドイツに留まった。そして1987年、この246GTSはスイスに住むフェラーリ愛好家の手に渡り、彼は今年初めまで、36年間にわたって所有することになった。 2007年にはフェラーリ・クラシケの申請を行っていることから、こちらも「レッドブック」が授与されているのだが、その認定を受ける前、いずれかの時点で赤いボディ色と「ペッレ・ネラ(黒革)」の内装で再仕上げされて現在に至っている。また、今回の出品に際して添付されるレッドブックでは、マッチングナンバーのシャシー、エンジン、ギアボックスを保持していることも記されている。
そして迎えた「St. Moritz」オークションでは、まず246GTが35万~40万スイスフランのエスティメート(推定落札価格)に収まる36万2750スイスフラン、日本円に換算すれば約5920万円で落札された。
他方246GTSには、クローズド版よりも高価な45万~50万スイスフランのエスティメートが設定されたものの、オーナー側が希望した最低落札価格には届かなかったようで、現在では目安の価格45万フラン、つまり約7340万円のプライスをつけたまま、継続販売とされている。
このオークション結果については様々な理由が想像されよう。しかし、これはあくまで筆者の私見なのだが、今回の246GTはボディカラーやコンディションなどが、この機を逃すとなかなか手に入れられるものではないと評価されたのに対して、同じく「クラシケ」お墨付きのコンディションながら定番カラーの246GTSについては、今後ほかにもチャンスがあり得ると判定されたのではないか……? と思われたのである。
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