他の追随を許さないR35 GT-Rの際立つ個性を西川淳氏が分析
R35GT-Rが世界的にみて際立った存在である要因はひとえに「重いこと」だ。車重は1700kgを優に超えている。R35型がデビューした2007年当時、海外スポーツカーブランドの開発者やエンジニアに決まってこう返された。「あれほど重いクルマがそんなに速く走るなんてありえない」と。当時のフェラーリF430や、ランボルギーニ・ガヤルドは1400kg台、ポルシェ911(997型)のカレラ4も1500kgだった。GT-Rの重さは確かに別格といえた。
【GT-Rを愛する理由】圧倒的なパフォーマンスと優れたGT性能。GT-Rは世界に誇る存在だ! by 西川淳
だが、その重いGT-Rが、世界最高のスーパーパフォーマンスを披露したのだ。彼らは興味津々にR35GT-Rの走行性能についてアレコレ聞いてきた。が、聞けば聞くほど顔を顰め、首を振り、しまいには日本のジャーナリストが皆、日産とグルになって嘘をついているといわんばかりの態度に出たものだった。
あまりに信じようとしないのでかえってこちらは愉快になり、GT-Rに対する「愛着」を、いっそう深めたものだった。R35GT-Rが「日本の宝物」であることを海外エンジニアの否定によって確信したといってもいい。つまりR35は、それほどクルマ作りが独自で画期的だった。
自動車のエンジニアリングにおいて「軽いこと」は正義である。これはもう物理的に真である。同じ機能と性能、仕様を目指したロードカーにおいてはより軽いほうが工業製品として優れている。
けれどもさまざまな規制や条件をクリアしたうえで、その範疇において考え得る究極のパフォーマンスを量産車として実現しようとしたとき、絶対的な理屈はもはや現実的な解答として成立しづらくなる。すべては相対化されるからだ。
スーパーカーの速さとデイリーユースの実用性を実現。GT-Rは孤高のキャラクターの持ち主
発想を転換すると、R35GT-Rが世界で最もユニークな高性能ロードカーとして存在する根本的な理由がわかるだろう。性能スペックがフェラーリやランボルギーニと並ぶからといって、減量に苦しんできたスーパーカーたちとは単純に優劣を比較することはできない。
日産が作ったのは「ただ速いだけのクルマではなかった」からだ。
R35GT-Rとはどういうクルマか、改めて思い出してほしい。まずは4シーターでトランクスペースも十分な実用車である。エンジンなどの部品は超ハイクオリティながら生産性が考え抜かれており、組み立ては高い精度を保ったうえで、信じ難いことに一般的な大量生産モデルと混流で行われていた(現在もそうだ)。それゆえ日産バッジを付けて「頑張れば手の届く範囲」 の販売価格におさめることができた。ここが最も近しい存在と思われるポルシェ911を含め、すべての高性能車と大いに違う点だろう。そのうえで世界のスーパーカーに伍するパフォーマンスを手に入れているのだ。しかも誰もが簡単に引き出せる高性能であったことも、R35GT-Rの個性である。
そのために必要だったのが重いといわれる車体だった。たとえば空力ひとつをとってもスーパーカーブランドのように生産性やコスト、居住性を犠牲にしてボディスタイルや追加デバイスに凝ることなどできなかった。車体トータルで高性能を支えるために仕上げた結果が1.7トン超というスペックだった。軽くして性能をさらに上げようと思えば他の要素、エアロデバイスや足回りの強化などにコストがかかる。それはNISMOのような高額車両の領域になる。
R35GT-Rの源流というべきスカイラインGTは、1964年の第2回日本GPで、たったひとコマであったとはいえポルシェを抜いた。その活躍で高性能車としての歴史を始めている。アンダーグランドの世界ではR32以降の第2世代のスカイラインGT-Rの「チューニングカー」がポルシェ911ターボなどと覇権を争った。そしてR35GT-Rにおいてついに日産は、工場出荷状態で世界の一流と互角に戦う「アフォーダブルな実用車」を生み出したのだ。デイリーカー機能とスーパーカー性能、その両極端を1台に凝縮。これを真に実現したスーパースポーツは他にない。スーパーカーブランドは性能のみを重視するモデルを持つがゆえに、両者を1台にまとめずに、SUVや4ドアクーペというより簡単な道を選ぶことができたからだ。
R35GT-Rは間違いなく他の誰も作らなかった、否、作れなかった。これを日本の宝といわずして何という?
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