F1をはじめ、世界のさまざまなモータースポーツシーンで、日本人が活躍している昨今。北米を舞台に戦われるIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権のトップカテゴリーでも、ひとりの日本人メカニックが奮闘しています。
このコラムでは、BMWのワークスチームで働くベテランメカ・小笹氏の目線で、レースの裏側やアメリカでの生活、異国で働くことの醍醐味などを、硬軟ごたまぜに、ユルユルと紹介していきます。
“原点”デイトナビーチでビールを1杯! ケネディ宇宙センターにも潜入【トミー小笹の米国メカニック通信:10】
突然ですが、こちらのコラムはこの第11回が最終回となります。1月に行われたデイトナ24時間レースでの、小笹氏の“アメリカ最後の仕事”の様子を伝えてもらいましょう。
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日本のモータースポーツファンの皆さんこんにちは、メカニックのトミー小笹です。以前はトムス、ニスモなど日本のチームでメカニックをしていましたが、2022年からアメリカで働いていまして、2023年からはIMSAのGTPクラスに参戦するBMW Mチーム RLLで、BMW Mハイブリッド V8を担当しています。過去、2003年はメカニックとしてNASCARカップ・シリーズに参戦した経験もあります。
自分にとって2度目のデイトナ24時間が終わりました。1年目の2023年は、新車ということもあってそれはもう大変でしたが(笑)、今年は決勝が始まるまではそこそこ順調でしたし、レースの雰囲気を楽しむ余裕もちょっとあって、面白かったですよ。今年は夜もジャケットがいらないくらい暖かかったですね。
レースでは、ペンスキーのポルシェ2台とアクション・エクスプレスのキャデラックは速かったですね。前回のコラムでちょっと触れたの、覚えてますか? 「やっぱりな、俺の目に狂いはない」と(笑)。ポルシェ6号車の方は、細かいトラブルがありつつも挽回してきましたしねぇ。リスタートではポルシェが速く、ロングランはキャデラックが良い、という感じでした。
最終リスタートの段階で、実質的には4台が僅差で優勝を争っていましたが、あそこに残れていれば盛り上がったんでしょうね……。ご存知のとおり、我々BMW陣営は2台ともに中盤でトラブルに見舞われ、リードラップからは脱落してしまいました。
自分が担当した25号車では、ルーティンピットの直前にギヤボックスのオイルプレッシャーが低下。オイルを補充するつもりで待ち構えていたら、もうカウルの内部がミッションオイルまみれでした。どうやら吸い込んだデブリによってミッションオイルクーラーに穴が空いたようで、その交換のために結構遅れてしまいましたね。
25号車はトップを走る瞬間もあって、そのときは結構イケイケな雰囲気だっただけに、トラブルで遅れた後のチームの落胆ぶりは大きかったです。
その25号車に今回加わったレネ・ラスト選手、速かったですよね。初めて彼を見たのは、自分が2015年にニスモでブランパン耐久に参戦していたとき。当時から「速いな!」と思ってました。今回もマシンはヨーロッパのテストで乗っただけで、アメリカではまったく乗っていなかったにも関わらず、最初から速かったですしね。今回トップを走ってたときも彼が乗っていて、全然危なっかしい瞬間もないし、やっぱり速いなぁと思いましたよ。もうすぐ開幕するWECも楽しみですね。
そういえば、スポット参戦した宮田莉朋選手とも現地に着いてすぐ、バッタリと再開できました。彼がヒトツヤマさんのアウディでスーパー耐久の富士24時間に参戦したとき、一度だけ一緒に仕事したことがあるんです。楽しんでいたようですけど、最後はマシンが燃えてしまって気の毒でしたね……。
さて、デイトナで撮った写真を何枚か紹介しましょうか。これはレース後の我がマシンですが、デイトナってバンクの付いたオーバルの部分を走るからか、とにかくマシンの右側がすごく汚れるんですよね。右側のラジエターなんて、工場に帰ってバラすと、「空気入ってないんじゃない?」ってくらい、タイヤかすが詰まってますから。
こちらは我がボス、ボビー・レイホールさんです。「ねぇねぇボビー、写真撮っていい?」って言ったら「いいぞー」って。レジェンドですが、気さくなオジさんです。
スタート前セレモニーの様子です。お客さんもこのエリアまで入れるんですが、DAYTONAって書いてある芝生のところだけはロープで仕切られていて、立ち入り禁止。
ファンゾーンには、歴代の名車も展示されていました。マツダRX-7 GTO、そしてダウアー・ポルシェもいました。
仕事の写真に戻ります。こちら、デイトナでお馴染み、全車横並びのガレージです。内部はつながっていて、1台分の幅も結構狭いのですが、まぁなんとかなりますね。相変わらず、朝焼けがキレイでしたね~。
こちらが前回のコラムで紹介した20歳の女性メカニック、ノエルです。今回のデイトナ24時間が彼女にとっては初レース。それでも、ピット作業ではドライバー交代のヘルパーを担当していました。彼女も「(トラブルが起きた)あの瞬間までずっと楽しかったのに~」って終わった後に落胆していたので、「Welcome to Racing!」って言っておきました(笑)。レースはそんなに甘くない、ってことなんです。彼女は未経験ですが仕事の飲み込みも早いし、見込みはあると思いますよ。
こちらはキャデラック陣営のチップ・ガナッシの工具箱にセットされた加工機械類一式。旋盤やベルトサンダー、ベンダー、万力など、加工に必要なものがひとつのツールボックスの上に載っています。いまのLMDh規定ではこういったものの出番はないと思うのですが、おそらくデイトナに限っては念のため現場に持ってきているのではないでしょうか。「耐久慣れしてるなぁ」と感じたので、写真に収めてみました。
さて、このデイトナ24時間で、ひとまず、ここ2年続いたアメリカでの仕事を終えることになりました。2024年シーズンは、日本国内の仕事に戻る予定です。
インディカーで1年、IMSAで1年を過ごしましたが、リザルトという面で見れば表彰台もなく、ポールポジションもありませんでした。それでも、日本とも、ヨーロッパとも違うアメリカのレースを戦うことができたのはいい経験でしたし、生活面を含めても面白かったですね。
2003年にNASCARに行ったときはまだ若かったですが、いま海外に行くとなるとただガムシャラにやれば良いわけではなく、若い子に対する指導も大きな仕事になってきます。そこではやっぱり言葉の壁も感じました。「日本語だったら、もっと教えられるのになぁ」とか。まだまだ英語力も足りない、そんなことに気づかされた2年間でした。
NASCARのカップ・シリーズ、インディ、GTPと、アメリカの3つのトップカテゴリーで働いた日本人はたぶん初めてだと思うので、そこは誇らしい気持ちです。ただこれも、自分に声をかけてくれた須藤翔太くん、そして佐藤琢磨選手が、2022年というタイミングでデイル・コインに行くタイミングだったことなど、めぐり合わせの部分がとても大きいですし、自分の家族を含め、いろいろな人に感謝の気持ちでいっぱいです。
2024年はGT300ではチーム ルマン、スーパーフォーミュラではTEAM MUGENで仕事をすることが決まっています。国内サーキットで見かけたら、ぜひ声をかけてくださいね。1年間、ご愛読ありがとうございました!
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