はじめに
マセラティの全面新開発されたミドシップ・スーパーカーほど、レアで魅力的なクルマはめったにない。現代にあっては2車種のみで、そのうちのひとつであるMC20が英国に上陸した際には、ロードテストを実施する機会を逸してしまった。
もちろん、一般的な試乗はしている。しかし、寸法や重量、テストコースでのタイム計測などはできなかった。ようやく、この手落ちを挽回する機会がやってきたわけで、V6エンジンとカーボンタブを備えるMC20を詳細に知ることができる。ただし、用意されたテスト車はオープンボディのシエロだ。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
いまどきのスーパーカーは、衝撃的だが愛らしくはないのがほとんどだ。クラウス・ブッセ率いる社内ティームがデザインしたMC20は、どちらの要素も兼ね備えている。
切り立ったテールには、飾り気のないテールパイプと控えめなリップを備え、先のすぼまったノーズは250Fにインスパイアされたもの。虫っぽいフェラーリやマクラーレン、ランボルギーニに比べるとエレガントだ。マセラティ曰く、空力で得られるスタビリティのキモはアンダーボディで、ボディの造形がごちゃついていない。その仕事ぶりはみごとだ。
メカニズムもルックスと同様に、PHEV化が進む主なライバルたちほど複雑ではない。パワートレインは3000ccのV6ツインターボで、トランスミッションはトレメック製の8速DCT。LSDは備えるが、電子制御タイプはオプションだ。ハイブリッドはもちろん、四輪駆動も四輪操舵も用意していない。
押し出しアルミ材のサブフレームは、ダラーラが開発したおよそ100kgのカーボンモノコックに接続され、そこから630psのドライブラインがぶら下がっている。駆動輪はリアのみで、足回りにはアダプティブダンパーを採用。ブレーキは鋳鉄ディスクが標準装備で、カーボンセラミックはオプション。潔いほどシンプルだ。
しかし、セミヴァーチャルステアリングを備えるウィッシュボーンサスペンションは、まったく一般的ではない。前後とも、ロワーリンクは2本あるが、アッパーリンクは1本で、接地性の維持に有利だというのがマセラティの主張だ。一般的な2リンクを用いるライバルは、賛同しかねるだろうが。
90度バンクでドライサンプのネットゥーノV6も、全面新設計だという。F1由来のプレチャンバー点火を用いるこのモデナ製エンジンは、いまやグレカーレやグラントゥーリズモにも積まれているが、最初に搭載したのはMC20だった。混合気は、ピストンが圧縮工程にある間に、プレチャンバーへ噴射される。それから点火され、それがスペシャルホールから燃焼室へと伝わる。
これにより効率を改善するが、比出力は210ps/Lと、フェラーリ296GTBの120度V6が発揮する221ps/Lに後れをとる。なお、マクラーレン・アルトゥーラが積むリカルド製V6は、196ps/Lだ。
マセラティによれば、開発の97%はヴァーチャルで行われたという。ドライビングシミュレーターを導入するメーカーは増えるばかりで、おそらくその数字も驚くには値しないだろう。
開閉式ハードトップの採用で65kg増加したシエロの公称重量は1540kgだが、実測重量は1783kg。これは競合するPHEVより重いという、なんとも不可解な数字だ。
内装 ★★★★★★★★☆☆
キャビンは、飾り気はないが目を引く。むしろ高貴で、しかもかすかながらモータースポーツの空気感を放っている。それと矛盾するようだが、乗降性はライバルたちよりいい。スリムなサイドシルや、比較的フラットな座面、バタフライドアの開口部の大きさなどによるものだ。
カーボンタブの、広くてドーム状の開口部越しに得られる前方視界も良好。クーペではほぼ皆無な後方視界は、シエロではやや改善されている。これは、フラットなエンジンカバーと、センターディスプレイのタッチ操作で開閉できる垂直に立ったリアウインドウのおかげだ。もっとも、クーペもシエロも、デジタルルームミラーを装備しているが。
スポーツカーレースのマシン的なムードを強めているのが、ふんだんに使われた高価なカーボントリムやアルカンターラ、そしてセンターコンソールとリムの太いステアリングホイールに設置された機能的なスイッチ類だ。
収納については、イタリアンスーパーカーの例に漏れず、後付け感が強い。カップホルダーはひとつで、小物入れは古銭入れやキーくらいしか入らない。リアの荷室は容量100Lで、浅いが、エルメネジルド・ゼニア製の専用ラゲッジが用意されている。
走り ★★★★★★★★☆☆
今回は、ちょっと厄介な状況でのテストだった。スーパーカーの実力を試すには、それに適した天候であれば最高なのだが、MC20シエロを完全なドライコンディションで走らせることはできなかった。だから、カーボンタブに630psエンジンの後輪駆動スーパーカーが、秋の湿っぽい日にどれくらい速かったか、という話をせざるを得ない。
想像以上に速かったのは、いつもながらしなやかなマセラティのサスペンションと、テスターがスロットルを可能な限り踏み続けたことによるもの。最大級の前進ぶりと、直線で瞬間的に頻発する鼓動が跳ね上がるようなふらつきとは、紙一重といったところだ。
ローンチコントロールシステムは、ブレーキをリリースするのに合わせてクラッチをつなぐまで、エンジン回転を5000rpm程度に保つ。ホイールスピンはあるもののわずかで、落ち着いて、コンピューターが発進に対処する。2速と3速は非常にせわしないが、3速の上限近くではほぼ困難を脱して、7.8秒で161km/hに達する。これはドライコンディションでテストしたポルシェ911GT3に対してコンマ4秒遅れるのみという、上々の結果だ。
ロードテストのフォーマットではないが、われわれは以前にクーペの性能テストもドライコンディションで行っている。ゼロスタートで97km/hに3.1秒、161km/hに6.4秒へ到達する。最新スーパーカーとしては際立った数字ではないが、急激に立ち上がりバランスよくも爆発的なマセラティのデリバリーが、すばらしくキビキビしたシフトアップや、急加速時にリアをやや沈み込ませるサスペンションと相まって、速くて楽しく、記憶に残る走りをもたらす。
クーペのキックダウンでの48−113km/h加速は2.3秒で、アルトゥーラの2.1秒や296GTBの1.9秒には届かない。また、ランボルギーニ・アヴェンタドールSVJにはコンマ1秒のビハインドだ。とはいえ、ハイブリッドもV12も積まなくてもMC20のペースはスーパーカーレベルだといえる。
ある意味、天気が出来のいいスーパーカーのロードテストを挫折させることはできない。MC20のパフォーマンスの魅力は、数字だけでわかるものではない。小さなデジタルモードセレクターを右へ1段階回すと、活気のないGTモードからスポーツモードへ切り替わり、ドライブラインのフィーリングはコイルバネのように張りつめたものとなる。
それは、ほとんど低音のみだったのが、レブリミットの8000rpmへ近づくにつれ、より豊かに鳴り響き弾けるようになるエンジン音に由来するものだ。また、興味をそそる大きなパドルでの、ムチのように鋭いシフトアップも拍車をかける。シフトダウンは、そこまでなめらかではないのだが。
より安価なライバルにも、MC20より速いものはある。しかし、ドライブトレインのシンプルさが生む美しさがあり、感覚的な豊かさでハートに訴えるところがある。
いっぽう、そこまで魅力的ではないのがブレーキだ。ホイールアーチのせいで、ペダルはセンターより左へオフセットし、左足ブレーキがしやすいのは、ややレーシーなところを感じさせて悪くない。しかし、ペダルの動きそのものはソフトすぎ、ぎこちないこともある。正確なコーナー進入のために、適切なブレーキングをするのが難しい。その点では、鋳鉄ディスクのほうが、カーボンセラミックより好ましい。
操舵/安定性 ★★★★★★★★★☆
まずまずの道で、MC20の独自性を知るには、コーナーひとつもいらない。マセラティは詳細をあまり明かさないが、もしこのクルマがクラスでもっともスローなステアリングレシオと、もっともソフトなスプリングを備えているのでなければ、われわれは驚かされるところだ。
しかしながら、顕著なボディ挙動と一定したステアリングにドライバーが合わせることができれば、マセラティがみごとなロードカーを生み出したことがわかる。すばらしくバランスに優れ、コントロール系は出来がいい。びっくりするほど路面を吸収してくれるが、舗装の谷やコーナー途中の隆起に乱されることは滅多にない。
われわれが好むセットアップは、スポーツモードを基本に、減衰力をミッドからソフトへ落とし、ギアボックスをマニュアルモードにした状態。そうすると、ふたとおりの楽しみ方ができる。まずは高いギアを選び、トルク頼みで走れば、しなやかなシャシーが直観的で扱いやすい遷移を見せる。いっぽうで回転を上げて走れば、状況が許せばテールを流すこともできるが、すべてが直観的だ。
思いっきり飛ばすなら、ベストな選択はコルサモードだ。ESPやトラクションコントロールの制御は緩くなり、エンジンはブースト圧が最大となる。ほかのモードなら3500rpm以上で開くエキゾーストのバルブは、常に開きっぱなしだ。それでも、公道走行に適した順応性は失われない。
とはいえ、クルマの様子を見ることは必要だ。ステアリングは、ほとんどキャラクターというものが明確にはなく、アルトゥーラのように容易に自信を与えてくれることも、296GTBのような精密さを感じさせることもない。なめらかで自由度の高いボディ挙動は、このクルマのグリップとバランスに全幅の信頼を置けないのであれば、落ち着かない気分にさせられるかもしれない。
さらに、スロットルレスポンスが、最新のPHEVスーパーカーに比べると劣ってしまう。そのため、乗りはじめはやや曖昧なクルマに感じられてしまう。
もっと単調に走るなら、ドライバビリティはわかりやすく、必要とあれば市街地を淡々と移動することも簡単。また、じつに従順で、ソフトなシートも備えているので、クルーザーとしての出来もいい。
問題は、カーボンタブによる静粛性の低さだ。113km/hで76dBAという室内騒音は、このクラスでも最大級のうるささだ。
購入と維持 ★★★★☆☆☆☆☆☆
シエロの価格は、クーペより2万5000ポンド(約498万円)ほど高い25万2100ポンド(約5017万円)。オプションは、カーボンエクステリアトリムが3万6000ポンド(約716万円)、e−LSDが2150ポンド(約43万円)、ノーズリフターが3250ポンド(約65万円)など。総額32万2530ポンド(約6418万円)にもなってしまう。
296GTSの本体価格はもっと上だが、より先進的ではるかに速い。いっぽう、アルトゥーラはスパイダーでも22万1500ポンド(約4408万円)と比較的お手頃価格。残価率を考えるとどれも盤石とはいえない。MC20の中古車には、15万ポンド(約2985万円)というものも見られる。
ツーリング燃費は悪くない。小さめの60Lタンクでも、800km以上の航続距離を実現できる。
スペック
レイアウト
カーボンモノコックにアルミサブフレームを結合したシャシー、空力付加物をほぼ備えないアッパーボディ、空力の重要な要素となるアンダーボディを備える。オープン化での重量増加は65kgだ。
3.0LのV6ツインターボエンジンは、SUVのグレカーレなどに積むものと同系列だが、MC20用はドライサンプの専用ユニット。前後重量配分は、41:59だった。
エンジン
駆動方式:ミドシップ縦置き後輪駆動
形式:V型6気筒3000ccツインターボチャージャー、ガソリン
最高出力:630ps/7500rpm
最大トルク:74.4kg-m/3000-5500rpm
エンジン許容回転数:8000rpm
馬力荷重比:409ps/t
トルク荷重比:48.3kg-m/t
エンジン比出力:210ps/L
ボディ/シャシー
全長:4669mm
ホイールベース:2700mm
オーバーハング(前):1077mm
オーバーハング(後):892mm
全高:1224mm
足元長さ(前席):最大1110mm
足元長さ(後席):最大-mm
座面~天井(前席):最大960mm
座面~天井(後席):-mm
積載容量:前50L/後100L
構造:カーボンFRP、モノコック
車両重量:1540kg(公称値)/1783kg(実測値)
抗力係数:0.39
ホイール前/後:9.0Jx20/11.0Jx20
タイヤ前/後:245/35 ZR20/305/30 ZR20
ブリヂストン・ポテンザ・スポーツ
変速機
形式:8速DCT
8速・70/80マイル/時(113km/h/129km/h):1473rpm/1683rpm
燃料消費率
AUTOCAR実測値:消費率
総平均:7.3km/L
ツーリング:10.5km/L
日常走行:9.4km/L
動力性能計測時:3.1km/L
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):-km/L
中速(郊外):-km/L
高速(高速道路):-km/L
超高速:-km/L
混合:8.5km/L
燃料タンク容量:66L
現実的な航続距離:439km(平均)/842km(ツーリング)/563km(日常走行)
サスペンション
前:ダブルウィッシュボーン/コイルスプリング、アダプティブダンパー、スタビライザー
後:3リンク/コイルスプリング、アダプティブダンパー、スタビライザー
ステアリング
形式:電動機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:2.6回転
最小回転直径:13.6m
発進加速
テスト条件:湿潤路面/気温14℃
0-30マイル/時(48km/h):2.0秒
0-40(64):2.7秒
0-50(80):3.4秒
0-60(97):4.0秒
0-70(113):4.8秒
0-80(129):5.6秒
0-90(145):6.6秒
0-100(161):7.8秒
0-110(177):9.4秒
0-120(193):10.9秒
0-130(209):12.6秒
0-140(225):14.6秒
0-150(241):17.0秒
0-160(257):20.1秒
0-402m発進加速:12.4秒(到達速度:204.9km/h)
0-1000m発進加速:21.5秒(到達速度:261.7km/h)
0-62マイル/時(0-100km/h):4.2秒
30-70マイル/時(48-113km/h):2.8秒(変速あり)/4.9秒(4速固定)
発進加速(クーペ)
テスト条件:乾燥路面/気温21℃
0-30マイル/時(48km/h):1.5秒
0-40(64):2.0秒
0-50(80):2.5秒
0-60(97):3.1秒
0-70(113):3.7秒
0-80(129):4.5秒
0-90(145):5.5秒
0-100(161):6.4秒
0-110(177):7.6秒
0-120(193):9.0秒
0-130(209):10.6秒
0-140(225):12.4秒
0-150(241):14.6秒
0-160(257):17.4秒
0-402m発進加速:10.9秒(到達速度:212.6km/h)
0-1000m発進加速:19.8秒(到達速度:268.9km/h)
0-62マイル/時(0-100km/h):3.2秒
30-70マイル/時(48-113km/h):2.3秒(変速あり)/4.1秒(4速固定)
ドライ制動距離
テスト条件:乾燥路面/気温-℃
30-0マイル/時(48km/h):10.2m
50-0マイル/時(64km/h):27.2m
70-0マイル/時(80km/h):53.2m
60-0マイル/時(97km/h)制動時間:2.58秒
結論
名門ブランド復活の先鋒となる、制約のないスーパーカーの開発は、かなり大きな期待を伴うものだ。マセラティについて言えば、その出発点から、競争力のあるプロダクトを送り出す点でも、スーパーカーらしさの解釈を独自色の強いものにする点でも、成功を収めている。
たしかに、MC20には欠点がある。ライバルに比べると価格は高めで、重量は十分に軽いとはいえない。しかし、走りは楽しく快活で、キャラクター豊かで、頻繁に使えるくらいバーサタイルだ。今のところ、このクラスにおける選択肢としては王道とは言えない。しかしマセラティは、MC20のストーリーをこれからも進めていくに違いない。
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