最大熱効率50%はエンジンの世界では革命に近い
世界的な電動化ムーブメントの中、エンジン(内燃機関)の進化も止まってしまったような雰囲気も感じますが、現実的にはまだまだエンジンに頑張ってもらわなくてはいけません。そんな中、日産自動車が『次世代「e-POWER」発電専用エンジンで世界最高レベルの熱効率50%を実現』という発表を行ないました。
実験室レベルを除くと、ガソリンエンジンの最大熱効率は40%程度といわれています。たとえば、「トヨタ カムリ ハイブリッド」に搭載している2.5Lエンジンの最大熱効率は41%、「スバル レヴォーグ」の1.8Lターボエンジンの最大熱効率が40%超といったあたりが量産車におけるトップランナーとなっています。
ちなみに、マツダのSKYACTIV-Xの最大熱効率は公開されていませんが、45%には届かないといわれています。このように、わずか1%上げることに血道をあげているのが最大熱効率の世界ですから、日産が発表した50%という数字は非常にインパクトが大きいわけです。
第1の鍵は点火ギリギリまで渦を保持するSTARC
では、どのようなテクノロジーによって最大熱効率50%を実現したのでしょうか。
まず理論熱効率を上げることが大前提です。専門用語でいえば、「圧縮比」と「比熱比」を上げることが重要なのですが、具体的には前者は“確実に急速燃焼”させること、後者は“燃料が薄い状態で安定して燃焼させること(リーン燃焼)”が目的となります。
そこで日産が採用したのが「STARC(スターク)」という新燃焼コンセプト。これは吸気の際にシリンダー内で発生するタンブル流という渦(うず)を、点火ギリギリまで崩れないように保持する技術で、リーン燃焼においても安定した強い燃焼が可能になるといいます。
エンジン負荷を減らせるe-POWERがSTARCを可能にした
ピストンが超高速で上下するシリンダーの中央に、常に渦を維持するという緻密な制御が求められるSTARCは、日産のシリーズハイブリッドシステム「e-POWER(イーパワー)」との組み合わせを前提に成立する技術でもあります。e-POWERはエンジンが発電に徹して駆動はモーターで行なうパワートレイン。エンジンでタイヤを駆動する場合、トランスミッションを介したとしても、低速から高速までカバーするための“柔軟性”が必要ですが、e-POWERならエンジンは負荷の少ないゾーンで発電に専念できるからです。
STARC燃焼を採用したエンジンは、リーン燃焼で最大熱効率が46%に到達。しかも、実験室の単気筒エンジンだけでなく多気筒エンジンでも実証済みということで、量産ガソリンエンジン初の最大熱効率45%を超えるユニットが登場する日はかなり近そうです。
進化版e-POWERは発電専用エンジンが完全定点運転する
しかし、それでも最大熱効率46%から目標である50%までは、まだ4%も残っています。エンジン熱効率の歴史を振り返ると、ここでの4%を埋めるには、まだ10年以上がかかると考えたくなりますが、ここで日産はe-POWERをさらに進化させることで最大熱効率50%を実現しました。
エンジンが発電に専念してモーターで駆動するe-POWERを突き詰めると、エンジンは最大熱効率のピンポイントで回れば問題ないことになります。つまり、発電用に“完全定点運転”とすれば+2%の伸びが期待でき、さらに排熱回収を組み合わせることで最後の+2%を埋め、トータルで最大熱効率50%を達成できるというのが日産の主張なのです。
最大熱効率50%のエンジンを積んだe-POWERのCO2排出量はLCA(ライフサイクルアセスメント)で計算すると電気自動車と同等レベルになるといいます。
電気自動車のLCAは発電のエネルギー比率によって変化するのでCO2低減のポテンシャル自体は電気自動車が有利ですが、電気自動車が普及するまでのつなぎの役割として最大熱効率50%のエンジンを用いたe-POWERというのは有効というのが、日産の考える現時点での電動化時代に向けたロードマップというわけです。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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みんなのコメント
さすがですね。