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【連載】F1グランプリを読む──トンネルの向こうの小さな灯り

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【連載】F1グランプリを読む──トンネルの向こうの小さな灯り

トンネルには必ず入り口と出口がある。

2020年のF1カレンダー

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私たちは昨年12月、突然COVID-19という名のトンネルに放り込まれた。そのトンネルにも出口があることはわかっていたが、いつその出口に辿り着くのかはわからなかった。何日歩き続ければいいのか、何カ月走り続けなければならないのか。そして、暗いトンネルを歩き続けること6カ月、トンネルのずっと向こうにやっと小さな灯りが見えてきた。

F1グランプリの開催がやっと決まったのだ。3月のオーストラリアGPが開催直前に中止になって以来、サーキットからエンジン音が聞こえることはなかった。本来なら、3月のオーストラリアに始まりバーレーン、ベトナム、中国、オランダ、スペイン、モナコ、アゼルバイジャン、カナダ、フランスと、6月までの4カ月の間に10戦が行われるはずだった。しかし、それらはすべて消え去った。全シリーズの半数が消えたわけだ。ただ、関係者は指を咥えて観ているだけではなかった。誰もが開催に向けて努力を惜しまなかった。そして、いよいよ来たる7月5日、オーストリアで2020年の開幕戦が行われることになった。オーストリア、イギリスで2戦連続開催など変則的ではあるが、改訂なったカレンダーを紹介しよう。

7月5日 オーストリア レッドブルリンク
7月12日 オーストリア レッドブルリンク
7月19日 ハンガリー ハンガロリンク
8月2日 イギリス シルバーストン
8月9日 イギリス シルバーストン
8月16日 スペイン カタロニア
8月30日 ベルギー スパ・フランコルシャン
9月6日 イタリア モンザ

日本GPはどうか?

6月3日時点で決定した暫定カレンダーには9月までのレースしか予定されていない。これは、コロナウイルス感染下での移動制限を考慮して立てられた計画だからだ。つまり、欧州圏内で移動が可能な範囲においてのレース開催ということになる。それでも8月に2週にわたって行われるイギリスGPのように、入国制限(入国後2週間の隔離)が施行される国においては、前戦ハンガリーから2週間の余裕を持たせると同時に、2週連続でレースを開催しF1関係者の移動を可能な限り押さえるといったアイデアが採用されている。欧州以外、つまりフライアウェイと呼ばれるレースに関してはまだ検討中だが、10月から12月までの2カ月間にどれだけのレースが消化できるかまだわからない。長距離の移動になれば当然飛行機を使う事になり、F1関係者だけに限ったチャーター便での移動が考えられている。

気になる日本GPはどうか? 現在ヨーロッパから入ってくる情報によれば、残念なことに開催の可能性は低いとされている。もし開催されるとなると、中国、シンガポールなどとの連戦になるはずだ。各国政府、サーキットのある自治体、各国プロモーターとの連携が開催へ向けての重要な課題になるはず。我々は是非とも日本GPの開催を望むが、ことはそう簡単な話ではない。

それというのも、レースが開催されても無観客のイベントになる公算が大きく、それはプロモーター(鈴鹿サーキット)が観客入場料を収益として計上できないということになる。観客の入場料はF1グランプリを開催するサーキットにとれば大きな収入源。それが得られないとなると、F1の商業権を持つリバティ・メディアへの開催権料支払いに障害が出る可能性がある。リバティ・メディアも通常の額の請求はすまいが、彼らの収入が減ると選手権ポイントを基準にしたチームへの分配金(賞金)が支払えなくなるという負の連鎖が生じかねない。すでに開催が決まっている6つのサーキットは、開催権料に関してリバティ・メディアとの間で通常とは異なる何らかの合意を得ているものと思われる。無観客でも通常と同等の資金が動くのはテレビの放映権料ぐらいなもの。無観客であればテレビ中継の役割はより大きくなるはずだからだ。

万全の体制

F1 Grand Prix of Australia - PracticeCharles Coatesしかし、F1グランプリが再開されるのは歓迎だが、もし関係者の中にコロナウイルスの感染者が出たらどうするのだろう? オーストラリアGPのように直前で中止という事態は絶対に避けなければならない。リバティ・メディアのチェイス・ケリー代表は、「コロナ感染者が出ても、レースの中止にはならない。我々はあらゆる可能性を考慮して、万全の体制で臨む」と言う。チームのスタッフが感染すれば現地の病院かホテルへ隔離、ドライバーが感染した場合にもリザーブ・ドライバーが出走できるように各チームは準備をすることになる。こうした機能が効果的に動くのかという心配もあるが、F1グランプリの世界を構成する人達は普段から非常に厳密な基準で働いており、そのことを考えれば心配は杞憂におわりそうだ。リバティ・メディアのロス・ブロウンも、「F1グランプリは外部と遮断された世界で行われるので、感染などの問題が起こることはまずないと思う」と言う。はてさて、ブロウンの思惑通りにことは進むのだろうか?

いずれにせよ、2020年F1グランプリは例年から遅れること4カ月で開幕を迎えることになった。9月までにヨーロッパ圏内で10戦を行い、10月以降は様子を観ながらフライアウェイのレース開催を希望している。全部で何戦行われるか、現段階では予測はできない。F1のルールによれば、選手権成立には最大21戦、最少8戦が条件。よって、フライアウェイのレースが行われなくても選手権は成立するようなスケジュールは立てられている。つまり、まだまだ解決しなければならない問題は山積しているが、それでも、長いトンネルの向こうに、小さいけれど出口の灯りが見えてきたということだ。

PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)

1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。

文・赤井邦彦

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