日本の充電事情が大きく変わるかもしれない
イーモビリティパワーが最大電圧1000Vを実現する、世界最速の400kW級チャデモ超急速充電器を発表。充電ケーブルをさらに軽量化、プラグアンドチャージ機能の採用を視野に入れながら、時間課金と従量課金の併用措置、充電放置車両に対するペナルティ措置、ダイナミックプライシングの導入までも視野に入れてきました。
数字だけ高スペックでも実際の充電は遅い! EVの進化についていけない急速充電器の現状
今回取り上げていきたいのが、日本最大の充電サービスプロバイダーであるイーモビリティパワー、eMPの存在です。このeMPに関しては、とくに現在、乱立している充電プロバイダーのなかでも、EV普及黎明期から充電サービスを展開していた日本充電サービスから事業を受け継ぐ形で設立された会社であり、日本最大手の充電プロバイダーです。
そして、eMPが以前追加で発表してきたのが、赤いマルチと呼ばれる新型急速充電器の存在であり、電源盤を追加することによって、合計400kWと、これまでの青いマルチと比較して倍の総出力に対応。よって4台のEVが同時に充電した場合でも、最大90kWという充電出力を持続可能となりました。青いマルチにおける懸念点でもあった、同時充電による、先着のEVの充電スピードが極端に低下するという不満を大きく解消することができるとアピールされています。
その上、これまで最大90kWという充電出力がマックスであったところを、ひと口あたり最大150kWの充電出力にまで対応可能となりました。ただし、150kWは最大で15分しか持続することはできずに、あくまでもその後は最大90kWにまで低下する仕様です。それでも、仮に現行型のメルセデスEQSを使用すると、理論値で最大55kWh程度を30分間の充電セッションで充電することが可能。この電力量は、EQSの高速走行における電費性能で計算しても、少なくとも300km以上という航続距離となります。
いずれにしても、最大350Aを発揮可能な国内最速級の急速充電器ということで、順次設置がスタートしていく赤いマルチの設置動向については、最新情報に注目が集まっています。
そして、eMPが赤いマルチに続けて新たに発表してきたのが、次世代超急速充電器と銘打った高性能急速充電器の存在です。今回は次世代超急速充電器のスペックについて、充電出力などのスペックだけではなく、充電体験に大きな影響を与える充電ケーブルの取りまわしを決定づける充電ケーブルの太さ、充電コネクターの重さなどを含めて比較します。
まず初めに、eMPの次世代超急速充電器については、日本の充電器メーカーである東光高岳とタッグを組んで開発されています。先ほど取り上げた青いマルチ、および赤いマルチに関しては、同じく日本の充電器メーカーであるニチコンとタッグを組んで開発されています。
最大充電出力は400kWを実現しています。他方で赤いマルチについても4口合計で400kWを実現しているものの、今回の次世代超急速充電器において特筆するべきは、2台同時充電可能なシステムを採用しながら、そのひと口分の最大充電出力が350kWを実現するという点です。
これまでのチャデモ規格については、赤いマルチのようにひと口あたりの場合最大150kWが上限だったことから、世界初のチャデモ規格によるひと口当たりの最高充電出力を実現する急速充電器であることが見て取れます。
他方で、その350kW級の充電出力を実現する上でeMPが採用してきたのが、電圧を引き上げるという戦略です。この次世代超急速充電器に関しては1000Vという最大電圧に対応しており、これまでは直流電流の最大電圧は450V以下に制限されていたものの、その規制が実質的に緩和され、最大電圧が1500V以下まで容認される見通しとなったことによって、充電器側の最大電圧を大幅に引き上げることが可能となったわけです。
この高電圧化については、今後日本でEVを購入する際の判断指標が一点追加されうるというほどに重要なアップデートです。この高電圧化によって、800Vシステムを採用するEVの充電性能が単純計算で倍となることによって、400Vシステムを採用するEVと比較しても、充電性能で明確な差が出てくるわけです。
その一方で、この次世代超急速充電器について注意するべきは、電圧は大幅に引き上げられたものの、電流値についてはとくに引き上げられていないという点です。具体的には350Aが上限であり、これは先ほどの赤いマルチとまったく同じスペックです。
そのうえ、水冷ケーブルの採用が見送られている模様という点も重要です。よって350Aという電流値を流し続けることはできず、ブーストモードが切れると、最大200Aに制限される見込みです。よって、これも赤いマルチとまったく同じ挙動であり、つまり最大電流値、ブーストモード仕様というのは何も変わっていないということになります。
出力だけではないeMPの急速充電器の魅力
しかしながら、その350kWという充電出力だけではない、今回の次世代超急速充電器の魅力が多数存在するという点こそ重要な部分であり、じつは本丸の部分となります。
具体的には、まず充電ケーブル、および充電コネクターの軽量化を実現したことによって、取りまわしが改善しているという点です。
このとおり、今回、住友が開発した新型充電ケーブル、コネクターのおかげによって、直径、重さともに大幅な改善が見られます。そして、我々一般ユーザーにとってもっとも重要な指標であると考えているのが、充電コネクター側の重さという点です。
というのも、今回の次世代超急速充電器をはじめとして、吊り下げ式など、充電ケーブルを地面に接地させない、取りまわしやすいケーブルマネージメントの採用が進んでいることで、大蛇のような重く太いケーブルを引っ張るというような状況は少なくなっています。ところが問題は、最後、EVの充電口に充電プラグを差し込む際に、その充電コネクターが重すぎて、両手を使っても刺しづらいという点です。ここの改善がないと、結局のところ取りまわし関連における、EVユーザーの充電体験が向上することがないわけです。
そして今回、充電コネクターの重さがおよそ1.0kgと、これまでの1.4kgと比較しても概ね3割ほどの軽量化を実現してきた格好です。さほど重さを感じずに、女性でもなんとか差し込めるなと感じる、50kW級の充電コネクターの重さは0.8kgであることから、その取りまわしは注目点です。
第二の強みというのが、プラグアンドチャージの実装を視野に入れたセンサーを搭載しているという点です。現在プラグアンドチャージを実装している充電器は、日本国内ではテスラしか存在しないものの、欧米中ではすでに、プラグアンドチャージは業界スタンダードなレベルでさまざまなメーカーが導入を進めています。よって、ようやく日本シェアトップのeMPについても重い腰を上げて、プラグアンドチャージの実装のために、とりあえず必要なハードの実装を行ってきた格好です。
もちろん今後、自動車メーカーと協力してソフト面の開発を進めていかないと、実際の実装には繋がりません。そもそもeMPの会長である姉川氏については、このプラグアンドチャージ機能の実装には否定的であり、むしろプラグアンドチャージできないことこそがチャデモ規格の強みであるという趣旨の発言すら行なっていることから、果たしてeMPがどこまで本気でプラグアンドチャージの実装に力を入れてくるのかについては、その動向に注視していく必要があるでしょう。
第三の強みというのが、ついに従量課金制の導入を表明してきたという点です。やはり高出力化すればするほど、従量課金制の導入がユーザーと設置者の両方から待望されていたわけであり、この点もeMPが重い腰を上げてきた格好です。
他方でさらに称賛するべきは、時間課金制とのハイブリッドシステムを導入するという点です。つまり、従量課金制だけだと、充電残量100%近くまで充電したとしても、ユーザーとしては時間制のようなコスパの悪さを感じる必要がなくなることで、立地の良い充電スペースの場合、割安な駐車スペースとして利用されてしまい、本当に充電が必要なEVが充電できなくなってしまうことになります。
よって、kWh課金と時間課金のハイブリッド課金システムを導入することによって、ユーザーと設置者、および運営側であるeMPの収益性、充電器の回転率などのバランスを図ることが可能となります。
ただし、この課金制度に対しては、二点ほど指摘しておきたい点が存在します。
まず第一に、その充電出力に応じて段階的なkWhあたりの単価を設定するべきであるという点です。軽EVなどが次世代超急速充電器を使用してしまうと、収益性という観点で設置者に旨みがなくなることから、概ね50kW以下、50kW以上150kW以下、そして150kW以上といったように、何段階かの出力に応じた単価設定が必要であると感じます。
そして、それ以上に検討するべきは、1回30分の充電時間制限の廃止という点です。とくに青いマルチや赤いマルチ、さらには今回の次世代超急速充電器については、1箇所に4口以上の充電ストールが設置されることで、充電待ちのリスクは大幅に減少しています。
よって1回30分の時間制限の撤廃は、もはやマストであると感じます。
そして、最後に期待している点というのが、ダイナミックプライシングの導入という点です。具体的には、再エネの有効活用を促進する充電料金を設定するという意味です。つまり、日中太陽光発電によって電気が余って安くなっている時間帯では、急速充電料金を安価に設定しようというものです。これによって、ただユーザー側が安く充電できるようになるという話だけではなく、運営側であるeMPについても、充電器利用者の時間帯を分散させることが可能となるでしょう。
いずれにしても、今回発表された次世代超急速充電器が、実際にどれほどの性能を実現することができるのか。軽量化・小型化された充電ケーブル・コネクターの取りまわしは女性や車椅子ユーザーにとっても扱いやすく開発されているのか。従量課金と時間制課金のハイブリッド課金システムはどれほど公平感があるのか。1回30分の時間制限の撤廃はあり得るのか。
これらの点については、最新情報とともに実際に設置された充電器の使い勝手もリポートする予定です。
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みんなのコメント
日本のCHAdeMOは数年遅れになるのが確実な上に、なんとバージョン3と言いながらその実態は中国との統一規格のChaoJiで、コネクタ形状も制御プロトコルも変更していて充電器側が下位互換を持たない。
つまり、今あるCHAdeMO車両ではアダプタなどでも充電すらできないとのこと。
一応、しばらくはCHAdeMOとChaoJiの両対応充電器を販売してくれ、ってことらしいが、そこは規格でカバーせずに充電器メーカーのご好意に丸投げ。
CHAdeMO協議会は、やる気のない日本の掃き溜めみたいな団体だよな。