■ずっと目指していたのは、ロールス・ロイスの乗り心地
日本では長らく格別の人気を博してきたBMWアルピナ。しかし国内市場においてはBMW「3/4シリーズ」をベースとするミドル級モデルや、特に近年ではSUVモデルばかりに注目が集まり、トップエンドに属するV8ツインターボ搭載車たちにはあまりスポットライトの当たる機会がないともいえる。
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そんななか、アルピナがコンプリートカーメーカーとして名乗りを上げた当初から、カウンターパートナーとして日本から支えてきたアルピナ日本総代理店「ニコル オートモビルズ」がBMWアルピナのV8ツインターボモデル「B5」および「B7」のメディア向け試乗会を開くことになった。
今回はBMW7シリーズをベースとする1台、本家BMWに「M7」の設定がなされないことから、BMWファミリーにおける最上のスポーティ&プレステージリムジーネ(セダン)と位置づけられている「BMWアルピナB7」を紹介しよう。
●R-R/ベントレーの領域を目指した、アルピナ製の超高級サルーン
先にお断りしておかねばなるまいが、筆者は「ロールス・ロイス(R-R)」および「ベントレー」の世界に30年以上も身を置いてきたこともあって、英国が誇るふたつの世界最高級車ブランドへの敬愛の想いには、特別なものがあると自負している。
その一方で、BMW3/4/5シリーズをベースとする近年のBMWアルピナ「B3/D3」、「B4/D4」そして「D5S」などをテストドライブする機会に恵まれ、奇跡ともいわれるシャシセッティング、いわゆる「アルピナマジック」の熱心な信奉者となってしまっていることも自認している。
それでも、あるいはだからこそというべきか、BMW7シリーズ系をベースとするBMWアルピナB7が、以前ならばR-R/ベントレーなどのごく一部の超高級プレステージカーのみが立ち入ることを許された「絶対聖域」を目指すと聞かされたときには、いささかのとまどいを禁じえなかった。
長らくR-R/ベントレーが君臨してきた超高級プレステージサルーンのマーケットでは、今世紀に入ってメルセデス・ベンツをベースとする「マイバッハ」が参入を図ったこと。また、近ごろ欧州のメディアを賑わせている噂によると、アウディも「ホルヒ」の復活を目論んでいることからも判るように、伝統を継承した「氏素性」と「スタイル」が要求される。
しかしBMWアルピナは、コンプリートカーを生産する自動車メーカーとしての歴史はすでに40年以上に達してはいるものの、少なくとも見た目から受ける第一印象は、スタンダードのBMWをスポーティかつエレガントにソフィスティケートしたものに過ぎない。
また、インテリアも極上のマテリアルと秀逸なセンスで仕立て直されてはいるが、その時々のBMWのコンポーネンツを流用せざるを得ないことから、R-R/ベントレーのインテリアにあるような伝統的エンターテインメント性は、どうしても薄くなってしまう。
新型B7のベースとなったのは、BMWの最高級リムジーネである7シリーズのロングボディとはいえども、やはりベース車両の有無や距離感が、この種のプレステージカーの「スペシャル感」を大きく左右してしまうかに感じられたのだ。
しかし、実際にステアリングを握って存分に走らせてみると、このモデルに込めたアルピナの熱意を、ほんの一部ながら垣間見ることができたのである。
■超高級プレステージカーとしての資質は十分なアルピナ「B7」
筆者にとっては今回が初対面となったBMWアルピナB7は、ドアハンドルに手をかけただけでも、またエンジンを始動するために、ブレーキペダルにつま先を置いただけでも、同じ日に試乗したB5よりも明らかに高級な感触が伝わってきた。
それは、ベースとなる5シリーズと7シリーズの違いがそのまま反映されているのだろうが、手や足が触れる操作系のすべてが柔らかくて重厚。このタッチひとつをとっても、B7が真のラグジュアリーカーであることを実感できる。
●“アルピナマジック”はプレステージセダンでも健在か?
この日の試乗会は、軽井沢周辺が舞台。そこで上信越道の碓氷軽井沢ICから松井田妙義ICまでの一区間のみ、あたかも王様のごとくゆったりとクルーズしたのち、復路は一般道で戻るというルートを選んだ。
メーカー公表値によると、B7のホイールベースは3210mmで、全長5270mm/全幅1900mm。そして車両重量は2210kgに及び、ベントレー・フライングスパーよりは少々小ぶりとはいえ「巨体」という言葉がふさわしい堂々たる体躯を誇る。これだけの豊満な体躯のクルマをワインディングで走らせるなら、通常は碓氷バイパスを選ぶのがセオリーであろう。
でも今回はちょっと意地の悪い好奇心を満たすために、コーナーの曲率が小さく、ヘアピンカーブも続き、もちろん道幅も狭くて路面もバンピー、つまりプレステージサルーンを走らせるには、おおよそ好適とはいえない碓氷峠の従来の国道を試乗ルートに選ぶことにした。
あいにく深い霧と雨に見舞われた碓氷峠ながら、B7は実に気持ちよくツイスティなカーブをこなしてゆく。この身のこなしの軽さは、明らかにスポーツセダンのものである。しかも、全長5m以下のミドル級セダンのように小さく感じさせる一方で、乗り心地の良さはこのクラスのプレステージカーそのものである。
B7は、7シリーズのフラッグシップであるBMW「M760iL」のV12ツインターボではなく、あえて自社チューンのV8ツインターボを搭載したとのこと。この選択が、ハンドリングにも大きな影響を与えているようだ。加えて、脳髄がとろけてしまいそうになるくらいに「スウィート」なV8サウンドを、まるで控えめなスキャットのように聴かせるエンジンも相まって、高級感にふさわしい立ち振る舞いを保ちつつも、積極的に「楽しい」といえるレベルにある。
こうして楽しく走らせているうちに脳裏をよぎったのは、このクルマが4輪駆動であり、4輪操舵でもあること。いずれも極めてナチュラルに作動するため、前輪にも駆動がかかっていること、あるいは後輪が操舵していることは、ほとんど意識の外にある。
正直に告白してしまうと、今回の試乗会の拠点に戻った際に「いまさら聞きづらいんだけど、このクルマって4駆と後輪操舵だったっけ?」などと広報担当者に思わず確認してしまったほどにナチュラルなのだが、雨に濡れた落ち葉や小枝が路面のそこら中に落ちているという最悪のコンディションでも、まったく不安を感じさせないだけのスタビリティがある。
これもまた、アルピナマジックのなせる技と感服させられてしまったのだ
今や遠縁ながら身内となったロールス・ロイスの「ゴースト」とは、キャラ的に大きくかけ離れているゆえに直接比較するのは難しい一方で、同じくスポーティさを前面に押し立てるベントレー「フライングスパー」に対しては、特にインテリアの「設え」などを除けば、高級車としての資質は限りなく近いレベルにあると感じられた。
しかも、「アルピナマジック」に代表されるBMWアルピナ独自の世界観が、ショーファードリブンにも好適な巨大なプレステージカーにおいても、あたかも矜持のごとく大切に守られている。そんな姿勢や哲学が垣間見られることにも、深い感銘を受けてしまった。
長らく培ってきたフィロソフィを遵守することも、超高級プレステージカーの世界では大切な要素なのである。
●BMW ALPINA B7 Long Allrad
ビー・エム・ダブリュー・アルピナ B7 ロング・オールラッド
・車両価格(消費税込):2597万円
・全長:5270mm
・全幅:1900mm
・全高:1520mm
・ホイールベース:3210mm
・車両重量:2210kg
・エンジン形式:V型8気筒DOHCターボ
・排気量:4394cc
・エンジン配置:フロント縦置き
・駆動方式:4輪駆動
・変速機:8速AT
・最高出力:608ps/5500-6500rpm
・最大トルク:800Nm/2000-5000rpm
・0-100km/h:3.6秒
・巡航最高速度:330km/h
・ラゲッジ容量:515L
・燃料タンク容量:78L
・タイヤ:(前)255/40ZR20、(後)295/35ZR20
・ホイール:(前)8.5Jx20、(後)10Jx20
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みんなのコメント
ただ、好きなだけだろう。
現実的には、RRもベントレーも単独では生き残ることができずに、BMWやVWの資本注入のもと、ブランディングの成功により近年大成してきたメーカー。
ブランドイメージでまるでRRとベントレーが上だからアルピナを下に見るような記事だが、7シリーズやSクラスのほうが圧倒的に開発コストを掛けられて造られている。そのベースのBMWを更に洗練させたアルピナのほうが、パフォーマンスを維持しながらの快適性などを含め、圧倒的に上だと思うな。
流用シャシーを改良して、高級素材と大量の遮音材と、比較すると少ないテストで作られるベントレーなどの超高級メーカーたちが造る車たちは、どれもブランドアイコン優先であって、快適性とパフォーマンスの両立なんてできていない。